表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

魔法少女系サンタは呟く『サンタの仕事は、今年も地獄』

作者: 宮生さん太
掲載日:2025/12/01


 12月24日、午後11時43分。

 東京湾沿いの廃倉庫。その屋根の上に、赤いコート、黒いニーソ、鋭い魔杖を携えた1人の少女が立っていた。


 名はミラ・ノエル。

 年齢は16歳。

 職業は……サンタ。


 もっと正確に言うなら、人間社会の《善行ポイント》を監視し、配布対象の子供を選別する、魔法界の、審査官サンタ。


「さて、今年の《良い子》は何人残ってるかな」


 ミラが魔杖の先端を軽く回すと、空間に青白いリストが現れた。

 本来ならば全国の子供たちが数百万件並ぶはずが──表示されたのは、わずか27件。


「少なっ……。現代社会、どうなってんのよ」


 この期に及んでブラックジョークかと、自分でも思う。

 けれど、ミラの仕事は笑えない。

 善行ポイントが規定値を下回った子は《配布対象外》となり、プレゼントは渡されない。

 代わりに、クリスマスは《福祉と徴税の合同イベント》だった。


 ミラは膝に手を当て、ため息を吐いた。


「あーあ。昔のサンタは可愛かったって、おばあちゃん言ってたけど…完全にブラック企業よ。残業代ゼロ、有給ゼロ、世界中転戦強制だし」


 その瞬間、ミラの耳飾りが震えた。通信用の魔具だ。


『対象C-12、港区のタワマン最上階。善行ポイント急落。至急審査せよ』


「……はいはい。今年も落ちてくる子がいるのね」


 ミラは魔杖を振り上げた。赤い光が弧を描き、少女の体は消失し、次の瞬間には(くだん)のタワマンへと転移していた。


 バルコニーに立つと、寒風の向こうから、部屋の中の騒音が漏れ聞こえる。

 怒号、食器の破壊音、母親の鳴き声──そして子供の叫び。


「やめてよ! お父さん!」


 ミラはため息を吐いた。


「はいはい、現代家庭の縮図ね。クリスマスは家庭崩壊がよく見えるって先輩も言ってたっけ」


 魔杖で窓を軽く叩くと、ガラスが光の粒となって砕け、静かに通り抜けられる穴が開く。

 部屋の中では、ブランド物のコートを着た父親が、子供を壁際に追い詰めていた。


 ミラはにっこり微笑む。


「メリークリスマス。《審査》に来たよ」


 父親は振り返り、少女を見るなり顔を歪めた。


「はあ? なんだおまえ、コスプレ女か? ふざけ──」


 そこでミラは指先を弾いた。

 男の口から言葉が途切れ、足が固まり、次の瞬間──床に倒れ込んだ。


「暴力行為の証拠、バッチリ。あなた、今年は《悪い子》ね」


 ミラは魔杖を男の胸元へ向け、青白い光を吸い上げる。

 男の魂から剥がれた欠片が、欠税のように霧となって魔界へ流れていく。


「はい、徴収完了」


 子供が泣きそうな顔で見ていた。


「お姉ちゃん……パパ、死んじゃうの?」


 ミラは首を振る。


「死なないよ。ただ、しばらく《優しさ》の感情が無くなるだけ。あれ、現代社会ではむしろ出世に有利らしいし」


 ちょっとした、ミラなりのジョークのつもりだった。

 子供は笑わなかった。

 当然だ。


 ミラはひざまずき、子供の頭に手を置いた。


「あなたは大丈夫。善行ポイントはギリギリ合格。プレゼントも渡すわ」


 ミラは魔杖を回し、小さな箱を取り出した。

 箱には陽光のような紋章が刻まれていた。


「これはね、願いを一つだけ叶える魔導玩具。ただし──」


 少年が顔を上げる。


「ただし?」


「叶える願いは、あなた自身の幸せのためだけに使って。復讐とか破壊とかはダメ。魔界の法で、即没収だから」


 少年はしばらく考え、小さく頷いた。


「わかった。ありがとう……サンタさん」


 ミラは微笑む。


「呼び方はミラでいいよ。サンタは肩書きみたいなものだから」


 そう言って立ち上がり、転移魔法を発動しようとした。

 その瞬間、ミラの耳飾りが再び震えた。


『対象D-7、新宿南口に巨大魔獣発生。現地のサンタが殉職。至急対応を──』


 ミラは顔を背けた。


「うわ……またか」


 クリスマスの現代では魔獣が溢れる。

 欲望、嫉妬、怠惰──人間の負の感情が積み重なる日でもあり、魔界との境界が薄くなるのだ。


 子供が袖を引いた。


「サンタさん……大変なの?」


 ミラは、ほんのわずかだけ笑みを弱めた。


「まあね。でも、これが仕事。ブラックだけど、続ける理由もあるから」


 子供が不思議そうに聞き返す。


「理由?」


 ミラは赤く輝く夜空を見上げた。


「人間の中には、時々いるのよ。《本当に救う価値がある子》が」


 そして、小声で付け足す。


「……あと、私の善行ポイントも足りてないから、クビになるわけにもいかないの」


 ミラは転移し、新宿の雑踏へ現れた。

 すでに魔獣は駅前で暴れていた。

 巨大な影が看板を踏み潰し、黒煙が上がる。

 周囲の人々は逃げ惑い、警察のサイレンが連続して鳴り響く。


 ミラは魔杖を構えた。


「はあ……クリスマスって、マジ面倒」


 魔獣が咆哮する。


 ミラは笑った。


「だけどさ──こういう時だけ、ちょっと楽しいんだよね」


 魔杖から紅い魔弾が撃ち出され、夜空を裂いて魔獣の胸へ突き刺さった。

 爆風が巻き起こり、イルミネーションの装飾が花火のように散って落ちる。


「メリークリスマス。地獄でも聖夜は祝ってね」


 皮肉と魔法が混じった一撃。

 そして──魔獣は崩れ落ちた。


 戦いを終えたミラは、ビルの屋上に腰を下ろし、息を吐いた。

 遠くでは恋人たちが写メを撮り、飲み会帰りの会社員が陽気に騒いでいる。


 ミラは夜空を見上げる。


「人間って……罪深いけど、面白いわね。だから、この仕事、やめられないんだよ」


 耳飾りが光り、次の指示が飛ぶ。


『次は渋谷。善行ポイント急落の兆候──』


 ミラは立ち上がった。


「了解。ブラックだけど、世界で一番忙しいサンタだからね」


 赤い光が夜空に溶け、少女の姿は消えた。

 こうして今年も、魔法少女系サンタの聖夜は、地獄のように続いていく。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ