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『勇者パーティ殿! 魔王軍が来ました!』『えぇ!?』『また!?』

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魔法国に点在する二十七の街。それぞれが多種多様な特産品や、その地域特有の訛りなどの地域社会性をその身に宿している。


この世界は俺にとっては異世界だ。しかしそのことを知っているのは、元魔王軍幹部たるセティアのみ。


異世界、と聞くと最初にイメージするのが魔王とかドラゴンみたいな架空の生き物ーーーこれらは、この世界には実際に存在しているーーーだと思う。


ここを創作の舞台であると仮定するならば、これらは一般的に定義づけられるこうしたファンタジー観を形作るうえで、決して外すことのできない魅力溢みりょくあふれる設定だといえるだろう。


実際のところ、俺だって本物のドラゴンをその目で見た時は圧巻というしかなかった。もしかすると、俺のボキャブラリーがとぼしいせいで圧巻という言葉しか知らなかったのかもしれないが。


いやそんなことはどうでもいいんだ。


今日、重要なのは昨日ダンジョンから脱出する前に喪失した激レアアイテム《ミルフィーユ・ラビットの卵》の行方を、司祭にどう言い訳するかである。


俺は、広めの部屋を三つほど有した小さな宿屋の一部屋にいた。部屋の中央には吊り下げられた革製のハンモックが備え付けられている。本来、ここは俺の席だ。しかし、例に漏れずセティア嬢が今日も今日とてこれを占領しているわけなので、俺は仕方なく木製の硬い椅子いすに腰掛けるのであった。


考えごとをするときは、柔らかいハンモックの上で......というのが俺の日本にいる時からのマイルールなのであるが、こうも気持ちよさそうに眠っているセティアを起こしてまで場所をうばうというのはどうも気が引ける。


ーーーと、いうのは嘘である。


以前、ハンモックで眠るセティアを起こした時のことだ。

ちょっと強引に起こしたのは悪かったかもしれないが、寝癖ねぐせだらけの髪の毛を振り乱した居候は、居候たる立場の弱さをものともせずに機嫌きげんをことに悪くし、俺を相手に暴れ回ったのだ。元魔王軍幹部としての横暴っぷりを遺憾なく発揮した......そんなできごとがあった。


暴れ回る華奢な翡翠ひすい色によって、俺の体力ゲージの五割が削られ、スタンの状態異常までもらったので、ハイポーションで取り急ぎ回復したーーー


そんな経験から、俺は二度と気持ちよさそうに眠るセティアを起こすまいと決心している。うん、もう二度と自分の体力ゲージの色が濃い黄色に変わる瞬間など見たくない。しかも一応は同居人どうきょにんだぞ。こんなことってあるの?


「はぁー......しかしどうするかな《ミルフィーユ・ラビットの卵》......」


木製の硬い椅子いすをゆらゆらと動かしながら、低い天井を見上げた。選ばれし転生してきた勇者たる俺は、魔法とスキルもてんで駄目ってことなんて、決して知られるわけにはいかない......


だから、突然弟子入り志願してきたセティアを上手く使えば、面倒なこととか戦闘とか全部丸投げして楽できるかなーって思ったのに、まさかその正体が元魔王軍幹部とは......


思いっきり敵じゃんか。まあ、なんか事情があるみたいで今は悪さをするような素振りはないけども......


いや違う今はセティアのことなんてどうでもいいんだ。とにかく、ポンコツ勇者としての汚名が流れていかないように司祭しさいとその側近への言い訳を......


考えごとに脳のリソースを割き、腰掛けた椅子をゆらゆらと動かし続けていたせいで、思わぬことが発生した。

木製の椅子の足のうち、一本の体力ゲージがゼロになったのだ。バキッという鈍い音を立てて、椅子は四つある支えのうちの一つを失いーーー俺もろとも地面に倒れ込んだ。


「のわああああああっ!」


空中で両手をじたばたともがかせるも、意味はなかった。

俺は頭から後方へ落ち......ダメージ判定が二割増しのヘッド激突判定をもらってしまうことに。


「う、うおぉぉぉっ......なんなんだよもう......」

「んむむ......んぁ......?」


ま、まずい。

俺の頭が地面に叩きつけられた音で、気持ちよく睡眠にふけっていたセティアが起きそうだ。


マジで起きないでくれ頼む。

ーーー本当は頭を抱えてのたうち回りたいところであるが、二十六歳独身の寝起きは先述のとおり最悪だ。

ごくたまに、気持ち悪いくらい爽やかな顔で起きてくることもあるが、その確率は王都のギルドが主催している鉄製装備ガチャのレア排出率よりも低い。


俺はここで、マジで恐ろしいことに気づいた。

さっき俺の座っていた木製椅子が急にぶっ壊れたーーー実際には、小物や家具類の体力ゲージは常に表示されているので、予告なく壊れることなどないーーーとおり、この異世界の物の体力ゲージは、存在している限りはゆるやかに減少していく、ということが分かっている。もちろん、ゲージがゼロになれば形を留めていられなくなる。


ーーー現実とは非情なものだ。

どうして俺の木製椅子がぶっ壊れた数秒後にさぁ?

ーーー俺はセティアの眠るハンモックを見た。


《宿屋のハンモックの吊り下げ紐 3/2570》


「いや何で今! ......このままじゃ、ハンモックの紐はあと数分と保たずに千切れちまう」


紐が千切れれば、起きることは一つ。

本体のハンモック落下からのセティア様怒りの起床だ。


それだけはまずい。あの《吊り下げ紐》の体力がゼロになる前に部屋からずらかろう。

でもさ、何か嫌な予感がするんだよな。何だろうな。この感じ。

俺、こういう時いつも......


《勇者パーティ殿! 魔王軍が攻めてきましたッ! 至急王都までッ!》


部屋に備え付けられた魔法国まほうこく貴族院きぞくいん統括部とうかつぶからの放送が鳴り響いた(マジで何で今?)。


当然のごとく、セティアは起きた。いや起きたというよりは落ちた。ハンモックの紐が千切れて、地面に。


その後、安眠を妨害された元魔王軍幹部が何をしたかは言うまでもあるまい。

ただ一つだけ言うなら、俺の体力ゲージは二割を切り、初の赤色に染まった。

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