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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
第一章 ゆーびきーりげんまん
5/26

元暗殺者、“普通の”授業を受ける

少し修正しました!

 私は今、期待に胸を膨らませていた。それは……。


「よし、では数学の授業を始めますね」

(初めての、普通の授業……!)


 そう、楽しみにしていたことその一、『普通の授業』である。


(前は小学校から高校までの授業はたった一年で終わらせなきゃいけなくて、大変だったからなあ)


 しかも明らかに大学生向けの問題も混じってたんだから驚きだ。ほとんどの生徒がついていけず、僅か一年以内に退学になっていた。

 その後はずーっと暗殺者になるための授業ばかり。ピッキング、変装、演技力、情報収集能力、戦闘力、家事スキルなどなど……。

 少しでも失敗すれば罰。だから、どこにいても気を抜けなかった。息が詰まるような毎日だった。


 (まあ、私は正直余裕だったけど。……でも、それが普通だと信じていた自分は、今思うと少しおかしかったのかもしれない)


 成績は常に首席、他の暗殺者達との戦闘や騙し合いでも、負けたことはなかった。だから普通だと思ってた。できることが当たり前だって。

 だからできない人が理解できなかった。

 ほとんどが相手にならなかった。まともに戦えたのはわずか数人。全員男子だったけど、全部勝利を収めていた。

 怪力の元世話係、籠絡の得意なフード男子、ハッカーのゲーマー……どいつもこいつも一癖二癖ある奴らばかりだった。

 閑話休題とにかく

 そんなわけで、普通の授業を受けるのは初めてなのだ。


 そして、授業開始から十五分。


「……このように、このままでは数式が成り立ちません。そこで……」

(すっごい楽しい!)


 にこにこしながら説明を聴く。もう頭に入っている内容だけど気にしない。楽しいのは授業の内容ではないからだ。

 授業を受けているという事実と、クラスメイトと考えを共有する時間、こちらを気遣って授業を進める先生。なにもかもが新しくて、楽しくて仕方がない。


「……では、少し時間も余りましたし、この問題を解いてみましょうか。じゃあ、鳳凰さん」

「あ、はい」


 名前を呼ばれて立ち上がり、黒板を一瞥する。

 書かれた式を一瞬で理解した。まずはaと6bx²の項を分け、x²に掛けるべき係数を見極める。ふっと計算の流れが頭の中で繋がり、瞬時に解を導き出す。


(a - 6bx²、かな。うーん、簡単すぎる?)


 心の中でつぶやきながら、口に出して答えを告げた。


「a-6bx二乗です」

「えっ……」


 なぜか唖然とした様子の先生。他のみんなも、驚いたようにこちらを見ている。


(……もしかして、なんかまずった?)


 不安に思っていると、硬直が解けた教師が、興奮したように言った。


「正解です……! 凄いですね、これ、東大の入試問題なのに」

(エッッ)


 まずい、これはもしかしなくともやってしまった。この程度の問題は前の学校ではよくあるから、つい答えちゃったけど……。


「虚、すごい! 頭いいのね!」

「ありがとうございます」

(親友が可愛い)


 満面の笑みで褒めてくれる陽毬。それだけで「まあいっか!」という気持ちになった。可愛いは正義。


「では、授業を終わります」

(次の授業では絶対にやりすぎない……!)


 密かに決意を固めながら、ありがとうございましたと頭を下げた。



 二時間目、体育の時間。


「では、五十メートル走をします。鳳凰さん、白羽さん、位置についてください」

「はい!」

(今度こそ普通にやる。縁に合わせれば大丈夫だろうし)

「よーい、スタート!」

「おおー縁くん相変わらずはやーい! さすが五十メートル走五秒台!」

「そうだな、それに虚もなかなか……待て、縁と同じスピードで走ってるぞアイツ」

「虚、運動も得意なのね……すごいわ!」

「ありがとございます、陽毬」

(明らかに基準にする人間間違えた……というか、ちょっとやりすぎたかも)


 でも、陽毬が嬉しそうだから、まあいっか!

(それに、私が“普通”の基準をまだよく知らないだけかもしれないし)



 三時間目、音楽の時間。


「では、このAmazing(アメージング)Grace(グレース)を歌います。では、鳳凰さん。始めてください。……天才少女の化けの皮を剥いでやる」

「はいっ」

(歌は全力でやってもいいよね!)

「スゥッ…… Amazing Grace, how sweet the sound__」


 その瞬間、教室の空気が変わった。

 教師はまるで時間が止まったかのように動かず、クラスメイトの一人は口を半開きにして見とれていた。


「虚すごい! とっても綺麗!」

(はい可愛い)



 四時間目、家庭科の時間。


「今回はオムライスを作ります。各自始めてください」

「はい!」

(陽毬と食べ合いっこするんだ、美味しく作らないと……!)

「できました先生!」

「もうですか? どれどれ……えっ美しい……」

(力作だからねっ!)

「い、いや、問題は見た目じゃなくて味ですから……極上ッッ」

「すごいわ虚! ミシュランシェフにも負けない美味しさね! 朔翔のはあんまり美味しくなさそうね!」(にこにこ)

「ありがとうございます。陽毬のオムライスも美味しいですよ」(ほのほの)

「いや陽毬ひどっ⁉︎最後の一言いる⁉︎」



(普通の授業、楽しい!)


 輝くような笑顔で食堂に向かう。午前の授業が終わったから、これから陽毬達と昼食なのだ。


「ご機嫌ね、虚」

「だってとっても楽しいです! 午後も楽しみです!」

「……なあ縁。虚って結構規格外だよな……」

「ええ……しかも本人に自覚はない………恐ろしいです」

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