元暗殺者、友達ができる
少し修正しました!
ホームルームが終わって、直後。
「なあなあ! 俺、緑間朔翔!えっと、えっと、ご趣味は何ですか!?」
隣の席の人に話しかけられた。
(見合いか?)
思わず突っ込んだ。ご趣味て。
いやそうではない。問題はそこではないのだ。
そう、目の前で目をキラッキラさせているこのわんこ系美少年をどうするかだ。
若葉色の髪に濃い緑の瞳。人懐っこそうな笑顔。イケメンである。
(この学園は美形じゃないと入れないルールでもあるの?)
まさか偶然か? イケメン多すぎない?
いっそ恐ろしい、と戦慄していると、新たな声が降ってきた。
「こらこら、朔翔。突然失礼ですよ。もっと自重してください」
「ジチョウ??」
「……はぁ」
ため息を吐くその子。お疲れ様です……。
限りなく白に近い白銀の髪と雪景色を閉じ込めたような瞳。柔和な顔つきは、もはやお馴染みの美少年。いかにも人畜無害といった感じだ。
何ていうんだろう、王子様系の顔というか、優しい感じなんだけど……どこか疲労感を漂わせている。
(なんか、ラックのこと思い出した……)
わかるよ少年。何をするのかわからない人間って扱いづらいよね。そして純粋ゆえに無下にはできない。
「あ、僕は白羽縁です。よろしくお願いしますね」
「白羽さんですね、よろしくお願いします。……苦労されてるんですね」
「ええ、本当に……」
((なんか、シンパシー感じる……))
二人の心が一つになった瞬間だった……。
(……と、いうか、それよりも…………)
先程から何故か、穴を開けんばかりにこっちを見てくる女の子がいるんだけど……。
このクラス唯一の女子だったであろう女の子。
クリーム色の髪に向日葵色の瞳。華やかな顔立ちの美少女だ。
「……ねぇ、あなた」
「は、はい」
なんだろう、とその綺麗な瞳を見つめると、素早い動きで距離を詰められ、ガシッと両手を掴まれた。
「ぅえっ!?」
「あたし、南条陽毬! 虚って呼んでもいい!?」
「えっあっど、どうぞ……?」
「やったあ!」
にっこにこの笑顔で喜ぶ南条陽毬。可愛い。
「あたし、次に女の子が入って来たら親友になろうって思ってたんだよね!」
「…………え」
思わず、声が漏れた。
(私と、親友に? ……とも、だちに?)
――そん、なことって。
「ちょっとちょっと陽毬ちゃん。いきなり距離詰めすぎ〜」
男子にしては高い声が聞こえて、はっと我に返った。
あの凄く可愛い男の子だ。ダボッとしたパーカーを制服の上に羽織って、にっこり笑いかけてきた。
「僕、水戸千隼!よろしくね、虚ちゃんっ」
「……お前もなかなかの詰め方だぞおい」
「あてっ」
ペシン、とその額を弾いたのは、あの赤髪の子だ。近くで見ると色気すごいなあ。
(色仕掛けとか、得意そう)
…………しまった。つい危険思考に。暗殺者はやめたのにね。
(長年染み付いた思考って、なかなか消えないもんだねえ……)
ふうっとひっそりと息を吐く。
「俺は日乃守燐。よろしくな」
「あ、はい。よろしお願いします、日乃守さん」
「違う」
「え?」
何が違うのかわからない。
「燐でいい。他の奴らのことも名前で呼べ、虚」
「え、え?」
「それいいなあー! よろしくな、虚!」
「では、僕のことも縁と」
「あたしも陽毬って呼んで!」
「僕もー!」
「え、いやあの、え?」
流石に狼狽えた。僅かに後ずさる。
「な、何で……」
「ん? 友達だから当然だろ!」
「とも、だち……」
(この私と、友だち? 本気で言ってるの?)
友達なんて、今までいなかった。ラックは違う。彼とはあくまで仕事の関係だ。でも、今はもう、“最強”でも“暗殺者”でもないんだ。
だから……――――。
「……そ、っか」
(友だちなんだ、私たちは)
どうしよう。口元が緩む。口角が上がる。嬉しくて仕方がない。
計算ではない笑みが自然と浮かび、高揚した気分のまま彼らに言った。
「これからよろしくお願いしますね、皆さん」
友だちは守らなきゃいけないんだって、前にラックが言っていた。
だから私は、彼らを守る。
この命に代えても。
私の宝物は、その言葉に、顔を真っ赤にして、それでも目を逸さなかった。
そのことが、すごく嬉しかった。