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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
第一章 ゆーびきーりげんまん
23/26

元暗殺者、締めはバニラで

「降りておいで。でなければこのまま首を掻き切るよ」


 男達はすぐに降りてきた。素直なのはいいことだね!

 警戒するように距離を取られる。


「よかった。逆らうようなら本当に殺すところだったよ」


 にこにこと笑いかけながら言えば、男達は拳銃をナイフに持ち替えた。この狭さでは拳銃は扱いづらいと判断したらしい。

 賢明だね〜と笑ったら睨まれた。ほらほらスマイルスマイルー。


「キミ達の目的は? ……ボクを狙っていたよね」


 静かに千隼が問いかける。でも返答はない。

 最初は、元最強の私を狙った襲撃かと思った。恨みなんてそこら中で買ってるしね。

 でも最初の弾丸は、千隼の頭上を通過していた。


 つまり、狙われたのは千隼。


 何故千隼を狙ったのか、知りたいんだけど、まあ簡単にしゃべっちゃくれないよねぇ……。

 ……一人殺せばいけるかな。

 後始末が面倒だけど仕方ない、とナイフを持つ手に力を込めたとき。


 ガリッ。


 何かを噛み砕く音が響くのと同時に、いつのまにか目を覚ましていた手元の男が血を吐いた。

 男は続けざまに血を吐いて、やがて動かなくなった。


(自決用の毒を奥歯に仕込んでいたな)


 冷静に、すでに温もりを失い始めている、ただの肉の塊を見つめる。

 人質が死んだことで、男達は好機とばかりに距離を詰めてくる。

 そのうちの一人のナイフが、鼻先を掠める直前。


「はァい、残念」


 ガンツと強く、ナイフの側面でそばにあった排水管を叩く。

 古びたそれはすぐに、中の水を盛大に吐き出した。


「…………‼︎」


 慌てたように飛び退く男達。

 その目は閉じられている。

 人は咄嗟のことがあると、反射的に目を閉じてしまう。


 つまりはこれ、簡易的な目潰しなんだよね。

 効果は一瞬だけど、十分。

 だってこっちは、一人じゃないもの。


「いっちゃえ、千隼」

「はぁいっ♡」


 甘い声とともに広がる、バニラのような香り。

 ハンカチで口を覆った私とは違って、反応できなかった男達は、すぐに意識を失った。




 ----------------***----------------




 全てが終わって再びカフェに向かって歩きながら、千隼と戯れに言葉を交わす。


「あの香り、香水?」

「そ。バニラと睡眠薬の香りだよっ」

「ふうん……でもなんでそんなの常備してるの?」

「えーそれは……変な輩に襲われたとき用?」

「……………………………」

「ねえその目ヤメテ」


 違和感は、膨らみ続けていた。




 __________________




 振り返って、思い当たる節がある。おそらくそれだろう。

 オレを一口飲んで、千隼をしっかり見据える。


「このオレを飲むのが私だけって、おかしいと思う」

「ちっっがう‼︎」


 千隼はテーブルに突っ伏した。ちなみに今のは流石に冗談だ。

 そう伝えると、本気で言ってると思ったそう。私をなんだと思ってるんだ。


「千隼が言ってるのはアレでしょ。あの黒装束の男達」

「そう。結局アイツら口割らずに死んじゃったし、気になるじゃん?」


 黒のマスクを剥いで見た男達を思い浮かべる。

 いかにもならずものといった風貌の顔。開かれる目。激昂。それから舌を切っての自決。

 正直に言うと、


「興味ないね!」

「うんうんうっさい黙ってボクの推理聴いてろ」

「ひぃん……」


 若干狂愛モードだった。

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