元暗殺者、デートする
「ねえほんとにキミ何やってんの? 正体隠さなきゃいけないよね? なのになんで本気で走るわけ? 刺客に目をつけられたいわけ? ねぇ? ねぇ??」
「本っ当にごめんなさい。振り返ったらSクラスがいたんです。つい本気で逃げてしまったんです。でも今回きりだし、どうか許してくれないでしょうか?千隼くん」
うるる、と上目遣いで千隼を見上げる。
「うっ、か、かわ……いや、誤魔化されないし!」
「ちっ、失敗か」
「……なにか言った?」
「なんにも?」
なんのことですか顔で、〈当店オススメ! ホイップましまし⭐︎黒糖蜂蜜ミルクラテ〉を啜る。うん、あっっま。相変わらずあっっまいわ。胸焼けしそう。
「よくそれ飲めるよね……ここでそれ飲むの絶対虚ちゃんだけだよ」
「いやいやまさか」
「実はそのまさかでございます。モンブランをご注文のお客様ー」
「あ、はいはーい」
モンブラン片手に近寄ってきた店員によってまさかな事実が聞かされた。なん……だと……⁉︎
「まああんなに甘い飲み物を好んで飲むようなお客様って鳳凰さんだけですしね。わたし一回飲んだことありますけど吐きかけましたもん」
「そんなに甘いの? ふうん」
なにやら顎に手を置いて考える千隼。それから甘えるような上目遣いで私を見た。
「ねぇ、虚ちゃん。一口ちょうだい?」
「いいよー」
「軽ッッッ」
おねだりされたから応えてあげたのに、何故か秒で突っ込まれた。実に不可解であるとラテを一口こくり。
「いや虚ちゃんこれどういうことかわかってる⁉︎ これ、か、間接キッ……」
「間接キス?」
「言わなくていいよ!」
「何故にキレたし」
間接キスなんて色仕掛けの達人たる千隼が慣れていないはずがないだろうと思っての発言だったが、なぜそんなにも顔を赤くするのか。解せぬ。
いやあ不思議不思議と見つめていたら、なにを思ったことか、おむろに身を乗り出す。
ラテが飲みたいのかと、カップを持ち上げてやる。
すると千隼は妙に艶っぽく片手で髪を耳にかけて、もう片方の手で私の手ごとカップを包んで、さっき私が口付けたところに唇を寄せて。
「……あまぁい」
いやお前の声がな。
スンっと無表情になってしまったのは仕方ない。今ので忘れ去られていた店員がキャパオーバーしたもん。
魔性の子だわぁ……と恐れ慄いていると、その魔性の子はぷくぅっと頬を膨らませた。
「なんか反応返してよ」
「……自分の顔の良さ自覚した方がいいと思うよ」
「鏡見てから言ってくれる??」
なんか理不尽なこと言われた気がする、と思っていると、お返しとばかりに千隼のモンブランが胸元に差し出された。
ありがたくそのまま「あーん」するようなかたちで頂く。
おいしーい、と目元を綻ばせる。思わず唇の端についたマロンクリームをぺろっと舐め取ってしまった。
ダン、と千隼がテーブルに突っ伏した。
「そういうところだよ!!」
「いやどういうところだよ」
せっかくのデートなのに、奇怪な男である。
ここは知る人ぞ知る隠れ家カフェ。
そして今日は、待ちに待ったデート当日である。




