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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
ゆーびきーりげんまん
2/15

元暗殺者、不良学校に編入する

少し修正しました!

 [報告 神楽坂学園かぐらざかがくえん調査結果

 全校生徒数は約千人、内九割が男子生徒

 校内には二つの暴走族が存在している

 暴走族の名前は【Minuitミヌイット】と【Aubeローブ

 校内のほとんどの生徒がどちらかに所属

 新情報があったらすぐに送る


 ps.報酬はちゃんと払ってね♡

 luck]


「暴走族か……学園にそんなものがあるなんて」

 紅茶を啜りながら、ふと考え込む。ラックの情報はいつも予想外だ。学園の偏差値が高い一方で、こんな荒っぽい一面も持ち合わせているとは。

 ラック、よく調べたな。まさか学園に暴走族がいるなんて

(暗殺界随一の情報屋を相棒にできたのは、幸運だったかも)

 それにしても、暴走族って、映画とかでしか見たことなかったから、正直驚いた。どんな人が集まってるんだろう。

(まあもっとヤバいの見てきたし、そこまで驚かないだろうけど)

 一応“元暗殺者”だしね私。

 さてとそろそろ行かなければ。ぱぱっとカップを洗ってカバンを持つ。初日から遅刻はまずいしね。


「……あ、忘れてた」

 今日初めて、白で薔薇が描かれているやたらと高級感のあるエナメルの靴を履く。靴の裏を軽く見てみる。過去に何度もこうやって物音を立てずに歩いていたことがある。

 ラックにメールを送る。すぐに既読が付くと、私は小さく頷いた。

(うん、完璧だ。これで安心)

 ふっと横を見ると、姿見が私を映し出していた。

 漆黒の髪、薔薇の花弁のような唇、白い肌に映える血のような瞳。我ながら中々の美少女だ。

 黒と白を基調とした制服は一目で気に入った。やっぱり可愛い。

 うん、と満足して頷くと、今度こそ玄関の扉を開けた。



「わ、おっきい」

 予想はしていたが、本当に大きいなこの学園。お城かと思ったぞ。

「えー……ここほんとに学校?お城じゃなくて?」

「ああ、ちゃんと学校さ。ちょっと大きいだけのね」

 後ろから声がかかった。いやいるのは知ってたけどね?気配察知は暗殺者の必要技術だったし。

 しかし一般人にしては気配の隠し方が上手いなこいつ。

 くるりと振り返って、笑みを作る。一瞬だけ指をパチンと弾く。__これは、演技を始める前のルーティン。

「わ、初めまして。びっくりしました」

「ああ驚かせて悪かった。案内役の紫苑悠喜しおんゆうきだ」

(……ふうん?)

 紫のかかった黒髪、アメジストの瞳、口元のほくろ。かなりのイケメンだ。

「紫苑さん、ですね。転入してきた鳳凰虚ほうおううつろです」

(まあ、知ってたけどね)

 紫苑悠喜。中学三年生Sクラス。生徒会副会長で成績は学年二位。国内有数の紫苑財閥の次男。

(縁を切るのには)

 きゅぅっと僅かに目を細める。

(惜しい肩書きだ)

「鳳凰虚か。変わった名前だな」

「よく言われます!でも気に入ってるんで」

(ま、本名じゃないけどネ)

 というか名前自体持ってなかった。暗殺者育成学校(前の学校)では、コードネームで呼び合ってたし、家じゃ偽名使ってたし。

「鳳凰は、この学校についてどのくらい知っている?」

「噂程度ですかねぇ」

 今のところは。

「そうか。じゃあ理事長室に案内させてもらう」

 理事長室。当然理事長がいるよね。

 ここの理事長は、世界で注目されている神楽坂財閥のトップだ。

 どんな人かなあ。楽しみー。

「はいっ!」

 にっこり笑ったら、紫苑悠喜が僅かに頬を赤く染めた気がした。



 私は今、理事長室の前にいる。

 理事長室は大変立派な扉をしていた。なんか気後れする迫力だなこれ。この私を気後れさせるとはとんでもねえな。

 こんこん、と紫苑悠喜が扉をノックした。

「理事長。紫苑です。入ります」

 失礼します、と入っていく彼に続いて私も中に入った。

 ふわっと甘い香りが鼻を掠める。

(アロマみたいな香りじゃない。どこか、引き寄せられるような、重みを感じる。……しかも、)


 __どこかで、嗅いだことがある気がする。それも何度も。


「鳳凰?」

 ハッと顔を上げると、紫苑悠喜が怪訝そうにこちらを見ていた。いけないいけない。

「すみません、甘い香りがしたから……」

「ん、本当だな。なんですか理事長これ。理事長の趣味じゃないですよね?」

(理事長の趣味じゃない?)

 嫌な予感がする。理事長のじゃないのなら、一体誰の……。

 理事長に視線を移す。理事長は小綺麗な四十代後半の男性だ。若い頃はさぞかしモテただろう。

「ああ、それは少し前に他の生徒が来てね。その子のだと思うよ」

「……そうですか」

(他の生徒、ね)


 それは、この部屋の隣にある気配の持ち主のことなのだろうか。


「まあ、とりあえず座ってくれたまえ」

「はい。失礼します」

「失礼します」

 紫苑悠喜に続いて隣に座る。わあ、すっごいふっかふか。これフランスの有名ブランドのやつじゃん。

「あなたが鳳凰虚さんですね。理事長の神楽坂李人かぐらざかりひとです」

「初めまして」

 にこっと人好きのする笑みを浮かべる。演技は得意分野なんだよね、私。

「いやあ、まさかあの試験をクリアするなんてね!私でも解けないんだよねあれ。それを満点で突破するとは!はははっ」

(じゃあなぜ出した)

 思わず心の中で突っ込んだ。理事長が解けない編入試験ってなんだ。それでいいのか神楽坂学園。

「あの問題を解けるのは、うちの息子だけだったからね!やめた方がいいと言われ続けてきたが、やってよかったな!」

(それでいいのか理事長……というか、)

「息子さん?」

「ああ、中等部生徒会長のな」

「ああ……光貴こうきですか」

 何やら紫苑悠喜がため息をついている。何かあるのだろうか。

「どんな人なんですか、その人」

「ああ、それは……会ってもらった方が早いかな」

(え、会えるの?)

 というか、どこにいるの?

 不思議に思っていると、部屋の横にあるこれまた立派な扉に向かって声をかけた。

「おい、聞こえてるだろ、光貴。こっちに来い」

 そして、扉が開く音が耳に響いた。

 その瞬間、甘い香りがまた強くなり、空気が重たくなった。


(……わあ、すごぉい)


 驚いた。まさか、こんなに綺麗な人間が存在していたなんて。

 スラリとした身体は、一目で鍛えられてるとわかる。白に近い水色の髪と瞳。美しい顔立ちに、長い手足は、気だるげに動いている。

 こんな綺麗な人間が存在していたことに心底驚いた。

 正直言って、これ以上綺麗な人間は見たことがない。任務で出会った人たちも含めて、だ。

(どっちかっていうと綺麗系統の顔立ちだなあ……紫苑悠喜と同じくらい、いやそれ以上だな)

 にしても……彼、どこかであった気がするけど……。

(まあ、どうでもいっか)

「……お前は、」

「え?」

 彼は目を見開いた。まるで何かを感じ取ったかのように……何か、知っているかのように。だが、すぐにその表情は引っ込められ、冷ややかな空気が漂う。

「ん?どうしたんだ光貴」

「……なんでもねぇよ」

 ドカッと向かいのソファに座った神楽坂光貴。不機嫌そうだがそんな顔も美しい。イケメンって得だね。

「紹介するよ。私の息子の光貴だ」

「鳳凰虚です。初めまして」

 にこりと笑顔を作って向ける。口角は左右対称に、少しだけ上の歯を見せて。口と一緒に目も笑わせれば、人に好かれる笑顔の完成だ。

 さあどうだ?と神楽坂光貴の反応を見る。

「…………」

「…………………………」

 ふんっと鼻であしらわれた。ついでに目を逸らされた。

 光貴は私に目を合わせようともしない。どこか遠くを見つめ、私の存在を無視するように、甘い匂いを気にする素振りを見せる。まるで、私がそこにいないかのように。

(……ふぅん?)

 私はしっかりと好感を得られる笑みを浮かべたはずだ。だが、それでこんなふうに扱われたのは初めてだ。……私なんてどうでもいいと言わんばかりの、冷たい態度なんて。

「悪いね、鳳凰さん。光貴は女嫌いで……顔もこれだしね」

 私はその言葉を聞いて、一瞬考える。女嫌い、か。

(おおかた、今まであんまり良くない女に絡まれてた、とかか)

 何度も傷つけられ、誰も彼自身に本気で向き合ってくれなかったのだろうか。だから、女を嫌うのかもしれない。二の舞だと思われたか。

(でも、ふふふ。私を邪険に扱うのは悪手だったね)

 私がこれまで数多くの男をその気にさせてきたことを考えると、私をこのように扱う彼に期待が湧く。無愛想な男ほど、堕としがいがある。ふふ、と内心で笑う。

 私に堕とせなかった人間はいない。女嫌いなターゲットも、甘く微笑み、妖艶にしなを作って囁けば、みんな最後には私の手の中だった。

 これまでの男たちはどんなに冷たくても私のものにしてきた。

(今回だってそう。だって私は“最強”だもの)

 驚くほど気分が良かった。

 唇の端が自然と吊り上がる。

 (せっかく学校に来たのに、目標がないとつまらないものね)

 暗殺者はターゲットに警戒されないようにするため、開始の一言で相手の性格を見抜く。

 鍛え上げられた観察眼で、彼の人柄はこの数分でもうほとんどわかっていた。

 彼は女嫌いで、無愛想で、?でも大切な人には甘くて、愛が重くて執着心が強い。

(彼を堕とそう。これ以上ないほどに。彼を私のものにできたら、きっとすごく楽しい)

 方針は決まった。

 堕とす、堕とす……目標を手に入れること。それが私の生きる意味だ。今まで数多くの男をその気にさせてきた。こんなに冷たい態度は初めてだが、無愛想で冷たい光貴も、きっと私の手のひらで転がすことができるはずだ。

「これからよろしくお願いしますね、神楽坂さん」

 暗殺者は、決してターゲットを逃がさない。


(待っててね、神楽坂光貴。必ず堕とす(殺す)から♡)


 そうしたら、“あの頃”よりも、ずぅっと楽しいはずでしょう?

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