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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
第一章 ゆーびきーりげんまん
18/26

元暗殺者、副総長と邂逅する

 神様は いざという時 マジ無能


 つい一句詠んでしまった。仕方ない。そうでもしなければやってられん。

 私は今、全力で逃げている。なにからって?そんなの__


「おいこら虚待て‼︎」

「無理です無理です無理ですぅぅっ!」


 Sクラスのみんなからに決まってるよ‼︎

 なぜこんなことになったのか。それは今から三十分前に遡る……__。




 __________________




 昼休みになった瞬間、千隼がシュバッと目にも止まらぬ速さで私のもとへ飛んで来た。


「ねえちょっとどういうことなんでアイツいんのねえどうせ虚ちゃんなんかしたんでしょ⁉︎」


 ここまでノンストップノンブレス。超早口だった。


「千隼落ち着いて、ください。あと私が何かやらかした前提で話すのやめてもらっても?」


 あくまで冷静に、丁寧に、『お淑やかな鳳凰虚』の演技を崩さず、敬語を使って静かに返す。


「じゃあ心当たりないわけ?」

「………………………………ない、よ。うん」

「絶対あるよね⁉︎なんでそれで騙せると思ったの!?」


 ぐうの音も出なかった。

 必死に話題を逸らすネタを考えて、ポケットからあの向日葵のブレスレットを出した。


「ん、なにそれ?」

「えーっと……」


 まずい、出したはいいがコレをどうしたらいいんだ。

 ぐるぐるする思考の中で、とりあえず「陽毬!」と叫ぶ。


「虚、どうしたの?」


 その声に反応して陽毬が駆け寄ってくる。ちなみにさっきまでは幸とおしゃべりしてた。コミュ力天元突破している二人は、すぐに十年来の友となった。


「あの、これ、陽毬にプレゼントです。おそろい」


 ほら、と左手首を持ち上げて見せると、華やかな笑顔で「毎日つけるね!」と言ってくれた。嬉しい。

 二人でにこにこしていると、覗きに来た幸が「あー!」と叫んだ。


「それ、僕とデートしたときに買ってたやつだあ」


 特大の爆弾を落としてくれた。クラス中の時が止まった。

 千隼や燐たち男性陣はピシリと固まり、陽毬は「ええっ⁉︎」と声を上げる。

 程なくして硬直が解けた千隼がゆぅらり、と近づいてくる。


「……ねぇ、虚ちゃん。どういうこと?」


 その虚な目に思わず逃げ出した。



 __________________




 そして冒頭に戻るというわけだ。なんでデートしたって言っただけで追いかけられるんだよ。


 そして問題は彼らを振り切れないことだ。

 もちろん本気を出せば簡単に巻ける。でもそうしたら私の実力がバレてしまうので、かなり加減しながら走らなければいけない(それでも常人からすれば中々な速さだと思うのだが)。


 だがそこはSクラス。猛スピードで追ってきて、加減したままだと永遠に終わらない。もうやだあいつら……。


「待てっつってンだろ虚! 止まれ‼︎」


 後ろで燐が叫んでいるが、止まるわけがない。

 私はまだまだ体力に余裕があるが、向こうは徐々に疲弊してきているようだ。呼吸が浅くなり、額には汗が浮かんでいる。


(攻めるなら、今)


 グッと足に力を込める。

 床を思い切り蹴って加速。そして跳躍。

 向かう先は__窓。


『はああああああああああっ⁉︎』


 驚愕の声をBGMに、迷うことなく外に飛び出した。


 ふわり、と浮遊感が身を包み、直後に身体を捻って反転。素早く腕を伸ばして、一つ下の部屋の窓に掴まった。

 指先の力だけで身体を持ち上げて、前転する形で室内に滑り込んだ。


「……ふぅ」


 やっと逃げ切れた、と息を吐く。もうあんな追いかけっこやりたくない。


(ちょっと本気出しちゃった……誤魔化さないと)


 今後を考えて胃が痛くなった。


(……うん、明日の私に任せよう!)


 頼むぞ明日の私よ、と問題を先送りにすることにした。


 改めて部屋を見回すと、なぜかソファや冷蔵庫、⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎が置かれている。なんとも高級感のある部屋だ。

 あれここ空き教室って記憶してたんだけどな? だから飛び込んだんだけどな??


 部屋にはさっきまで誰かがいた形跡があった。


(誰かが日常的にこの部屋を使用している……? だれが?)


 はて、と思ったその時、一つの気配が近づいてきた。おそらく、その日常的に使用している人物だろう。


 窓から逃げようかと思ったが、顔を拝みたくなって、待つことにした。


 ソファの前に立ち、自然な体勢で視線を扉に固定する。

 ガラリ、と音を立てて扉が開く。


「……あ? てめえ誰だ」


 短い銀髪に琥珀色の瞳。制服は着崩していてシルバーのアクセサリーが覗く。かなりの長身。


(……ふぅん?)


 横柄な態度で睨んでくるその男。

 それが誰なのか、幸__というかラック__から、もちろん聞いていた。

 三年生、暴走族【Aube(ローブ)】の副総長。


(__逢魔銀河(おうまぎんが)。まさかここで会うとは)


 絶対的支配者の風格を纏う彼に、私は優雅に微笑んでみせた。

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