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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
第一章 ゆーびきーりげんまん
17/26

番外編その4 億の情報を握る情報屋、最強の本音を知る

 あれから十日ほどたった。

 その日、任務を終えた舞姫は、戦闘服なのにも構わず自室のベットに倒れ込み、「うぅぅ……」とうめいた。


(あンの情報屋、マジで使えない……!偽情報をつかまされるとか、ありえないでしょ)


 今回の任務で一緒になった情報屋は、自称・超一流の情報屋だった。

「大口叩けるならある程度は役に立つでしょ」と思いながらペアを承諾した舞姫は、しかしその日のうちに認識する。


『この情報屋はどうしようもないグズ男である』、と。


 後から聞いた話だが、その情報屋__『イディア』というコードネームらしい__は、情報屋達の間では悪い意味で有名らしい。


 腕は二流以下で、態度は横柄。他の情報屋を強請って手柄を横取りしては、全て自分の実力だと嘯いているらしい。報酬で得た金は、今沼なホストに注ぎ込んでいるとか。


 これに舞姫はどん引いた。なんなら「グズじゃん」と声に出ていた。隣でそれを聞いていたモブ暗殺者は、美少女が無表情で蔑む様子に戦慄しながらも何も言わなかった。この世には触れない方がいいこともある。


 ともかく、そんなこんなでグズ男は全く使えず、いつも以上に疲労が溜まっていた。そしてそれは、苛立ちも同じだった。


(……アイツ、ラックのこと馬鹿にしてた……)


 情報屋は、仕事を片付けて帰ろうとした舞姫を「どこかで食事でも」と誘った。

 当然舞姫は断った。何が悲しくて嫌いな相手と二人きりにならなければいけないんだ。


 すると情報屋は逆ギレ。舞姫にあることないこと喚いては、ラックのことまで貶し始めた。




 __最強に捨てられた役立たずのアンラックが‼︎




 その瞬間、苛立ちと不快感が最高潮に達した。

 これはいけない、と舞姫は思った。このままではコイツを殺してしまう、と。お気に入り(ラック)を貶した情報屋に()()()()お灸を据えて、すぐに帰って来た。そして今に至る。


「……さいあく」


 ぽつりと溢れた声は、いつもの彼女からは想像できないほど弱々しく、まるで“普通の女の子”だった。


 なぜ自分はあれほど苛立ったのだろう。もう相棒でもないような男のことなのに。考えてもわからない。


 いや、本当はわかっている。でもこれを認めて仕しまえば__自分はとんでもない偽善者だということになってしまう。

 でも、それでも本音が溢れるのを止められなかった。


「パートナー、解消したくなかったなあ……」


 情けない声だ、と苦笑する。同時に、本音が漏れるほど疲れが蓄積しているとは……休まなければいけないな、とぼんやり思う。


「………………………………………………」


 バッと跳ね起きて、机の上のパソコンを開く。人外な速さでタイピングしてタイピングしてタイピングして……そして止まった。


「………………………………………………」


 再びタイピングする。今度はゆっくりと、一文字ずつ刻み込むように。


【とっとと出てこい盗聴魔。一分以内】








 五十五秒後、部屋には息も絶え絶えなラックがいた。

 ゼエゼエと息を整えながら上目遣いに舞姫を見たラックは、その絶対零度の目にヒッとか細い声を出した。


「 正座 」

「ハイ」


 普段の何倍もの威圧感を含む低い声に、ラックは素直にペタリと正座する。

 ベットに腰掛けた舞姫は、足を組み腕を組み、じろりと床に座るラックを睨め付ける。


「 謝罪 」

「ハイ。舞姫様のパソコンをハッキングして盗聴していて申し訳ありませんデシタ」


 そう。この男、舞姫のパソコンをハッキングし、先程まで舞姫を盗聴していたのだ。つまりあのパートナー解消嫌でした発言も丸聞こえだったのである。


「……さいあく……死にたい……」

「あわ、あわわわわっ」


 額に手を当てて項垂れる舞姫と、そんな舞姫にわたたたっと手を振り回しながら慌てるラック。

 絶望的な表情の彼女に、恐る恐るといった様子でラックが声をかける。


「あの……舞姫様。パートナー解消したくなかったって、本当ですか……?」

「……だったら何」


 不貞腐れたように、あるいは諦めたように白状する舞姫。そんな姿に罪悪感を抱きつつも、一番気になっていたことを聞いた。


「……なら、どうして解消したいって、言ったんですか……?」


 うっと喉を詰まらせて、うろうろと視線を彷徨わせたあと、少し気まずげな顔をした。


「……邪魔になるかと思ったの。あなたの」

「は???」


 ちょっと意味がわからなかった。

 スペキャ顔で「は???」ともう一度繰り返したラックは悪くない。ないったらない。

 そしてそんなラックにハテナ顔をする舞姫もちょっと意味がわからない。


「いや、あの……なんで? え、なんで???」

「?? え、いや、だって……え???」


 二人揃って疑問符を飛ばし合う。いち早く理解が及んだのはラック。慎重に言葉を選んで言う。


「邪魔って、なんでそうなったの?」

「え……だってラックは優秀でしょう?」

「そうだね」


 即答で頷くラック。


「世界一の情報屋でしょう?」

「そうだね」


 またも即答で頷くラック。


「で、ラックは私に心酔しているでし「そうだね」……最後まで言わせてよ」


 いくらなんでも早すぎると抗議の目を向ける舞姫。さもありなん。


「……ラックは優秀な情報屋。私のそばに留めておくのなんてもったいない。きっとこれからもっともっと凄くなる」

「……だから、離れようとした?」

「うん」

「…………………」


 ハァっと息を吐いて俯くラック。ようやく全てがわかって頭が痛い。


「とりあえず理解できたけど……正直、舞姫様のそばにいた方が調子がいいんだよね」


 舞姫は「は?」という顔をしたが、事実だった。実際、あの一週間の方が、はるかに効率よく情報収集できていた。

 しかしそんなこと舞姫は知らない。要はすれ違っていただけだった。


「だから僕の未来を願うなら、むしろ離さない方がいいと思うよ」

「………………………」


 今度は舞姫がスペキャ顔になった。良かれと思ってやったことが裏目に出ていたなんて信じられないのだろう。さもありなん。


「じゃ、じゃあ」


 どこか躊躇うような顔をしながら、意を決したように唇を紡ぐ。


「お願いしたら、……また、相棒になってくれる?」

「もちろん!」


 ぱあっと輝くように、舞姫の表情が花咲いた。




 __________________




 とは言ったものの。

 一度解消したパートナーをもう一度戻すことは簡単ではなく、Xからは【不可】の返事ばかりが届いている。おかげで最近の舞姫の機嫌は右肩下がりだ。


 見かねたラックが舞姫を友人のように接し始めなければ、視線だけで人が死んでいただろう。


 名前はちゃん付け。話し方はタメ口で、時折りわがままや舞姫の意に反する提案をする。

 友達に憧れていた舞姫は秒で陥落した。



 そんなある日、Xの書斎には舞姫とラックの姿があった。Xに呼ばれたのだ。


「……いや、どこにいるのよアイツ」


 そう、Xの姿がないのだ。代わりにXの秘書がいた。

 パリッとのりの効いたスーツを着こなした女性で、いかにもデキる女と言った風だった。

 秘書が申し訳なさそうな顔をする。


「すみません。実は、お呼びしたのはわたくしなのです。わたくしの名では弱いと感じ、僭越ながらX様の名をお借りしました」

「え、あなたが?」


 いつもXのそばに控え、静かに静観しているのを知っているラックは、少し驚いた顔をする。


「用があるのは舞姫様なのですが、ラック様も間接的に関わっているので、お呼びしました」

「間接的にって?」

「はい。舞姫様、イディア、という名に聞き覚えは?」

「? ない。誰それ」


 本気でわからない様子の舞姫に、ラックが耳打ちする。


「ヒソヒソヒソ……」

「……ああ、あのクズかあ」


 納得したようにうんうんと頷く舞姫。隣で顔を引き攣らせている男には気が付かないらしい。

 秘書はにっこりと笑みを浮かべる。


「あのイディアという情報屋は、わたくしたちも処分に困っていたのです。態度も腕も最悪。しかも先月彼は、行きつけのホストに貢ぎすぎて借金を背負ったとか」


 どこか底冷えする笑みだった。ぶるりと背筋を震わせたラックは、後に女性って怖いと語った。


「でも、そんな奴と私達がなんの関係があるの?」

「__舞姫様。アナタ様は一週間ほど前、彼を半殺しにしたそうですね」

「はんごろし、はんごろし……半殺し?!?!」


 秘書の言葉を反芻したラックがバッと舞姫を見ると、サッと顔を逸らされた。


「……手加減した。大丈夫、死にはしない。……多分」

「ちなみに彼は、両手両足の骨が折れ、左耳が千切れかけ、三本のアバラにヒビが入り、尚且つ内臓が傷ついていました。全治一年半。流石にやりすぎです」

(おぅふ)


 なるほど。半殺し、というのも納得な怪我だ。死ななかっただけ称賛すべきだろう。しかし何故彼女はここまでの怪我を負わせたのか。疑問はすぐに氷解した。


「何故そんなことをしたのか、お聴きしても?」

「だってラックのこと馬鹿にした」

「まさかの僕が原因だった!!」


 がっくりと膝をついて項垂れる。罪悪感が半端ない。


「ううん……怒ってくれるのは嬉しいけど、半殺しはやめてね」

「わかった。ちゃんと殺す」

「違う違うそうじゃない」


 全く反省の色が見られない舞姫に、ため息を吐くラック。


(これでパートナー再結成はさらに困難を極めたり、か……)


 どうしたものか、と考える。そんな彼らにかかったのは、凛とした声。


「ですから、罰として__ラック様とパートナーを再結成して頂きます」

「……ん、」

「え?」


 何故そこに終着したのか。秘書は微笑んだまま続ける。


「パートナー解散は、舞姫様が御希望されましたこと。そうで御座いますよね?」

「はい」

「は、はははっ、はい」


 舞姫の迷いない答えにラックは震えた。これで本音を知っていなかったら泣いてた。訂正、すでに若干泣いてた。


「ですからその意に反することを御命令致します。勿論、御承知頂けますね?」

「……っ、はは、ええ、もちろん!」


 至極嬉しそうに舞姫は頷く。そしてくるりと振り返って、ラックに無邪気な笑みを浮かべる。


ゆき、幸!」

「あはは、うん。また、よろしくね」


 可愛い相棒の姿に、ラックも嬉しそうに微笑んだ。

 その様子を、秘書は笑顔で見ていた。やって良かったと、心から思っている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 __________________




 パン、と乾いた音が響き、秘書は勢いよくドアにぶつかった。

 打たれた頬が酷く痛み、それでもキッと目の前の人を見据える。


「っ、確かに、勝手に貴方様の名を使ったことは、わたくしに非があります。ですが、わたくしは、わたくしのしたことを後悔しておりませ__」


 言葉が不自然に途切れた。そこから再び声を発する気配もない。

 当たり前だ。なぜなら彼女はX()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 腕を下ろしたXは、性別のわからない声で何かを発した。


「__ァ」


 それはいつもの、抑揚のない声色ではなかった。




「____________________‼︎‼︎」




 誰かの名前。その持ち主を知っているのは、()()()()()()()()()

舞姫「そういえば、どうして盗聴なんてしてたの?」

ラック「…………」(スススッ)

舞姫「こらこら逃げるな」(にっこり)

ラック「アゥ、スミマセンデシタ」(冷や汗ダラダラ)


クズ情報屋は一年半の入院後、情報屋を引退したそうな。

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