番外編その3 億の情報を握る情報屋、最強に捨てられる
言葉を詰まらせ、息を整えるようにゆっくりと口を開いた。
「いま、……なんて」
「キミハオヤクメゴメン、トイウコトダ」
Xの書斎。その部屋の主人は、いつも通り淡々と、冷たくそう告げた。
絶望の淵に立たされたラックは、救いを求めるように自分の横に立つ女__舞姫を見る。だがその目はラックを写しておらず、一切の感情が抜け落ちたような無表情だった。
「コレハ、カノジョガモウシデタコトダ」
(彼女が、望んだこと)
なぜ、どうしてとそればかりが頭に浮かんでは泡のように消える。
ラックは人の感情に敏感だった。だから舞姫が自分を「役に立つ」と感じてくれていたこともわかっていた。
なのに。
初めてそばにいたいと願った人に。
役に立つと感じてくれた人に。
いらないと言われた。
胸の奥が締め付けられた。熱いものが込み上げてくる。呼吸は浅く、息が詰まった。
喉の奥がヒリヒリと痛み出す。声を上げて叫ばなければ、気が狂いそうだった。
だがそれよりも優先すべきことがあった。
頷くことだ。
心酔する彼女の願いに、応えなければならない。
たとえそれが、絶望へと誘う声であっても。
「……………わかり、ました……」
そう告げて、パートナーシップはわずか一週間で終わりを迎えた。
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舞姫は、「任務がある」と先に書斎を出た。
それを横目に、その場にへたり込む。Xの目の前にいても、それがどうでもよく思えた。
ラックは、孤児院の出だ。
母親は貧しい田舎に生まれた。生計を立てるため、都会に出てホステスとして働いた。
美しく、スタイルも抜群で、すぐに店の人気者になった。
しかし、中学校までしか通えなかった学歴のなさが災いし、他のホストたちからは「田舎から出てきた、ちょっと可愛いだけの芋女」と蔑まれていた。
田舎では常に優位に立っていた彼女は、そんな扱いにプライドを傷つけられ、不満のまま誰よりも美しくなろうと躍起になった。金と時間をかけてさらに美しくなった彼女は、店のNo. 1になった。
だが、ある日、常連客と外食をした際にホテルに連れ込まれ、妊娠してしまう。
警察に訴えたが父親はすでに蒸発していた。店を解雇され、自分が生きていくことすら危うくなった彼女は、生まれてすぐの子供を道端に捨てた。それをたまたま見つけた孤児院の院長が救い上げた。
成長した子供は非常に用心深く、出会う人すべてを調べては「わからないもの」を拒絶した。
臆病で、何かあるのではと勘ぐり、だからこそ全てを調べ尽くした。
その技術をXという人物に見出されるほどに。
彼に「用心深い」という花言葉を持つその名を与えたのもXだ。彼の性格にぴったりだった。
それからラックは、「わからない」と感じたものに興味を持つようになったが、彼の情報収集能力は凄まじく、すぐに全てがわかってしまうため、ひどくつまらない人生だった。
そんなとき、世界最強の暗殺者の話を聞いた。暇つぶしに彼女を調べたラックは、愕然とした。
何もわからなかったのだ。
個人情報は何重にもロックされ、戦闘映像は速すぎて理解不能。
知りたいと、心の奥底から、強く強くそう願った。
だからこそパートナーとして彼女を紹介されたとき、その力に惹かれ、そばにいたいと願ったのだ。
Xは心ここに在らぬラックを見遣り、ため息をついた。
彼はまだ理解していない。舞姫は、お気に入りを簡単には手放さない。
彼女は自覚していないが、とてつもない執着心を秘めている。
この結末に、決して納得しているはずがなかった。
そのとき、ダン、と壁を殴る大きな音が響いた。苛立ちが限界に達していたのか、微かにミシリ、と軋む音も重なる。
Xは、その拳の主がさっきまで静かにその手を握りしめていたことを知っていたが、目の前の少年には言わなかった。
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