番外編その2 億の情報を操る情報屋、最強に尽くす
作品タイトル変えました!
【元暗殺者、今日も今日とて最強です!】改め、
【元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。】です!
今後ともよろしくお願いします!
暗殺者育成学校の生徒が多く集まる食堂で、男は緊張した面持ちで、想いを寄せる人にラブレターを渡すが如く、勢いよく機密文書を差し出した。
「あ、あの、虚さんっ。これ、頼まれていたものです」
「……そう」
小さく頷いて、パラパラと読み進める舞姫。それをラックは、ドキドキと高鳴る左胸を押さえながら、彼女の反応を伺う。
「……うん」
一つ頷いた舞姫はポケットからライターを取り出し、文書を燃やした。次に向けた視線は、先日相棒となった男__ラックに向けられる。
「……次は、八乙女製薬会社の御曹司について調べ上げて」
「! はいっ!」
言葉に感謝も労いもない、まるで自分を道具としか見ていないかのような冷たい指示。
しかし、ラックは蕩けるような笑顔を浮かべて静かに頷いた。
“使われている”――その事実だけで、自分は頑張れる。
どんな形であれ、彼女のそばにいられるのなら、それだけで十分だった。
駆けていく後ろ姿を見送って、舞姫は息を吐いた。そんなどこか儚げな姿に周囲の暗殺者達が見惚れるが、気にする様子もなく思考に沈んだ。
(彼、使えるわね)
相棒となって一週間。態度こそ悪いが、すでに彼女はラックの実力を認めていた。
(仕事が異常なほど早い上に正確。この仕事も昨日頼んだものなのに)
先程燃やした文書は、一流の情報屋でも半月はかかる代物だった。それを十一歳の子供が、たった一日で調べ上げた。これを異常と言わずになんという。
しかも、なんの見返りも求めずに、献身的に尽くしてくれる。どんなに冷たく命令しても、どんなに態度が悪くても。
どんなにひどく扱っても、忠実に、自分のためだけに動いてくれる__それをこの一週間で、彼女は嫌というほど理解した。
しかし、とぬるくなったりんごジュースの入ったグラスを口に含み、喉をこくりと鳴らして濡れた紅い唇を拭う。
(あまりにも、献身的すぎる)
そうなのだ。
彼の忠誠は常に自分の心が最優先で、自分の命令は絶対。命じられれば死すら厭わない。
最初は便利だと思っていたが、次第に行き過ぎた忠誠心に戸惑いを感じるようになった。
先程の態度にも、一つの理由があった。以前舞姫に言われた任務を終えて報告に来たラックに、舞姫は『お疲れ様』と常に無表情な表情筋を少し緩めて声をかけた。
するとラックは、まるで極上の幸福に包まれたかのように瞳を潤ませ、恍惚の笑みを浮かべて甘い声で『はい……っ♡』と返した。目にハートマークが浮かんでいるような錯覚さえ覚えた。
この光景に、幾度もの修羅場を潜ってきた最強様も言葉を失った。
それ以来、あの時のような態度は控えている。
「…………」
そのとき、ヴーヴーと唸る音がした。閉じていた目をゆっくりと開いて、スマホの画面を見つめると、ラックからメールが届いていた。内容は、先ほど頼んだ調査結果。
(あれ、本当なら二週間はかかるはずなんだけどな……)
なぜ頼んだその日に結果が届いているのか。これも熱き忠誠心のなせる業か。もはや執念に近い。
(しかも、やけに細かい……性癖とか、どうやって調べたのよコレ)
思わず顔が引き攣りながらメールを読み進める。趣味、行きつけの店、身長・体重・好みから歩幅や瞬きの回数まで、情報量が尋常ではなかった。
「………………………」
長い沈黙の後、舞姫は静かに頷いた。自分たちを引き合わせた人間に会いにいくことに決める。
(パートナー解消をお願いしよう)
冷気すら漂いそうな氷の表情で、静かに食堂を出て行った。
ラック「ああ、虚さん、今日も美しいなぁ……♡」
舞姫「忠誠的過ぎない……?」




