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元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。  作者: 璃衣奈
第一章 ゆーびきーりげんまん
15/26

番外編その2 億の情報を操る情報屋、最強に尽くす

作品タイトル変えました!

【元暗殺者、今日も今日とて最強です!】改め、

【元暗殺者、血の匂いがする恋を始めます。】です!

今後ともよろしくお願いします!

 暗殺者育成学校の生徒が多く集まる食堂で、男は緊張した面持ちで、想いを寄せる人にラブレターを渡すが如く、勢いよく機密文書を差し出した。


「あ、あの、虚さんっ。これ、頼まれていたものです」

「……そう」


 小さく頷いて、パラパラと読み進める舞姫。それをラックは、ドキドキと高鳴る左胸を押さえながら、彼女の反応を伺う。


「……うん」


 一つ頷いた舞姫はポケットからライターを取り出し、文書を燃やした。次に向けた視線は、先日相棒となった男__ラックに向けられる。


「……次は、八乙女製薬会社の御曹司について調べ上げて」

「! はいっ!」


 言葉に感謝も労いもない、まるで自分を道具としか見ていないかのような冷たい指示。

 しかし、ラックは蕩けるような笑顔を浮かべて静かに頷いた。


 “使われている”――その事実だけで、自分は頑張れる。

 どんな形であれ、彼女のそばにいられるのなら、それだけで十分だった。



 駆けていく後ろ姿を見送って、舞姫は息を吐いた。そんなどこか儚げな姿に周囲の暗殺者達が見惚れるが、気にする様子もなく思考に沈んだ。


(彼、使えるわね)


 相棒となって一週間。態度こそ悪いが、すでに彼女はラックの実力を認めていた。


(仕事が異常なほど早い上に正確。この仕事も昨日頼んだものなのに)


 先程燃やした文書は、一流の情報屋でも半月はかかる代物だった。それを十一歳の子供が、たった一日で調べ上げた。これを異常と言わずになんという。


 しかも、なんの見返りも求めずに、献身的に尽くしてくれる。どんなに冷たく命令しても、どんなに態度が悪くても。

 どんなにひどく扱っても、忠実に、自分のためだけに動いてくれる__それをこの一週間で、彼女は嫌というほど理解した。


 しかし、とぬるくなったりんごジュースの入ったグラスを口に含み、喉をこくりと鳴らして濡れた紅い唇を拭う。


(あまりにも、献身的すぎる)


 そうなのだ。

 彼の忠誠は常に自分の心が最優先で、自分の命令は絶対。命じられれば死すら厭わない。

 最初は便利だと思っていたが、次第に行き過ぎた忠誠心に戸惑いを感じるようになった。


 先程の態度にも、一つの理由があった。以前舞姫に言われた任務を終えて報告に来たラックに、舞姫は『お疲れ様』と常に無表情な表情筋を少し緩めて声をかけた。

 するとラックは、まるで極上の幸福に包まれたかのように瞳を潤ませ、恍惚の笑みを浮かべて甘い声で『はい……っ♡』と返した。目にハートマークが浮かんでいるような錯覚さえ覚えた。


 この光景に、幾度もの修羅場を潜ってきた最強様も言葉を失った。

 それ以来、あの時のような態度は控えている。


「…………」


 そのとき、ヴーヴーと唸る音がした。閉じていた目をゆっくりと開いて、スマホの画面を見つめると、ラックからメールが届いていた。内容は、先ほど頼んだ調査結果。


(あれ、本当なら二週間はかかるはずなんだけどな……)


 なぜ頼んだその日に結果が届いているのか。これも熱き忠誠心のなせる業か。もはや執念に近い。


(しかも、やけに細かい……性癖とか、どうやって調べたのよコレ)


 思わず顔が引き攣りながらメールを読み進める。趣味、行きつけの店、身長・体重・好みから歩幅や瞬きの回数まで、情報量が尋常ではなかった。


「………………………」


 長い沈黙の後、舞姫は静かに頷いた。自分たちを引き合わせた人間に会いにいくことに決める。


(パートナー解消をお願いしよう)


 冷気すら漂いそうな氷の表情で、静かに食堂を出て行った。

ラック「ああ、虚さん、今日も美しいなぁ……♡」

舞姫「忠誠的過ぎない……?」

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