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9.冒険者と騎士団

「協力に感謝します。被害者の保護はこちらで行いました。現場の引き継ぎもこちらでやっておきますので、後のことは我々に任せてください」


「……承知しました」


 カツラで髪色を隠し、仮面で顔を隠しているからきっとバレることはない。しかし緊張しながらエストは言葉短く返した。

 兄のユーインと最後に会ったのは、四日前。修道院に向かうために公爵家の屋敷を出た時に見送りに来てくれたのが最後だ。

 久々に見る兄の顔はその時と変わらず、凛とした佇まいだ。


(私と別れる時すら表情が変わらなかったんですよね。……意外とお兄様は私のことを気にしていないのかもしれません)


 今回のエステルの処遇について両親と共に抗議をしたり、修道院まで着いて行く言っていたが……いつも通りに職務を全うする兄の姿を見て、そう思った。


「しかしながら、一つ宜しいでしょうか?」


 話は終わったと思い、さっさと立ち去ろうとしたエストを、ユーインの声が止める。


「街道を傷つけることなく、対処は出来なかったのでしょうか?」


 街道をよく見れば確かに、酷い焼け跡と抉れた地面が所々に見える。修繕するのに少し時間がかかりそうだ。


「西の街道は多くの者が行き交います。もう少し街道への被害を考えて欲しかった」


(それができれば苦労しないですよ……)


 抉れた地面に関してはエストのせいだ。しかしパワーをコントロールすることは難しい。

 〈身体強化(パワーブースト)〉は常に、十倍でかかる。特に今回は防御力の高い敵だった。下手に威力を調整するよりフルパワーで殴ったほうが良かったのだ。

 ランディも細かい火力調整が苦手で、よく周囲を焦がしてしまう。延焼してないだけマシだと思った。


(でも確かにお兄様の言う通り、もう少し周りの被害を考えおくべきでした)


 目の前の敵を倒すことしか考えていなかった。その後のことまで頭が回っていなかったのだ。


「後からノコノコと来ておいて文句言うのかよ」


「ちょっと、レイ!」


 エストが謝罪の言葉を言う前に、先に口を開いたのはレイモンだった。

 ジャスミンが慌てて口を押さえたが遅かった。レイモンの言葉に、騎士たちの表情が険悪となる。


(そういえば……冒険者と騎士団って、互いに仲悪かったのでした……)


 冒険者と騎士団は色々と衝突することが多かった。依頼を受けて動く冒険者と、国防の為に動く騎士団。冒険者の活動が騎士団の活動の妨げになったり、その逆もあるのはよくあることだった。


 今回のような緊急依頼は国を通して依頼されているはずなので、そこまで問題にはならないはずだ。

 しかし、どちらかと言うと、王国騎士団のサポートとして冒険者を貸してほしいというような依頼だったのだろう。B級の狼たちの群れだったのも考慮すると、本来ならこれは数人で片付けるものではない。

 ただ今回やってきた冒険者がS級のエストとA級パーティのランディたちだったから、騎士団の到着を待たずに彼らだけで片付けてしまったわけだ。

 ……完全に王国騎士団側のメンツを潰してしまった形にもなるだろう。


「……あなたの言う通りです。少し僕たちはやり過ぎてしまいました」


「おい、エスト! 謝ることなんかないだろ!」


「レイ、黙ってて!」


 なんとかジャスミンがレイモンの口を押さえたところを見て、エストは頭を下げた。


「しかしあのアーマーウルフの硬い毛並みに対処するには仕方なかったのだとご理解頂きたい。手加減をしていれば早急に討伐できず、被害を広げるところでした」


「確かに一理ありますね、理解しました。……誤解なきように言いますが、私は文句を言ったつもりはありません。不快になられたなら申し訳ない……我々の到着が遅れたことも含めて謝りましょう」


 今度はユーインが頭を下げた。至極真面目で堅苦しさのある謝罪と共に。


「ご理解感謝します。……では我々はこれにて」


「ええ、ご苦労様でした」


 これ以上の会話は互いに不毛であると分かったのか、エストの言葉にユーインは頷くと、騎士たちに指示を飛ばし始めた。

 そしてエストもランディを呼び戻し、ジャスミンとレイモンを連れて離れて行く。


「騎士団の奴らに礼儀なんて要らねーだろ」


「レイ、またそんなこと言って……エストが収めてくれなかったらあの場で喧嘩になってたわよ!」


「なんだよ、オレは本当のこと言っただけじゃん! アイツらはいつだってそうだ! いつも終わった後に来やがる! 何も守ってねぇよ!」


「……そりゃ、そうだったけど」


 その言葉にはジャスミンは否定できなかったのか、目を逸らしながら頷いた。

 ……ジャスミンもレイモンと同じく騎士団のことを本心ではよく思っていない。

 二人は孤児だ。生まれた村は魔物によって滅ぼされたという。その時も、騎士団は駆け付けてくるのが遅かった。

 それ以外にも要因があるが、二人は騎士団をよく思っていないのはその時から変わらない。


「……冒険者と騎士団、迅速に動けるのはどちらかと聞かれたら冒険者でしょう。冒険者は個人であり、騎士団は組織ですから仕方ないことかと」


「なら騎士団なんかいらないな」


「そういう訳には行きませんよ。国を守るのは騎士団の使命です。彼らは公的機関であり法的権利を持ちますから。代わりに彼らは国に忠誠を誓っている。対して僕たち冒険者はどこまで行っても個人主義の集団で、国を守るも守らないも自由で、依頼がなければ何もできません。代わりに使命や責任なんてものはありませんけど」


 今回はエストたちがあの時間帯にいて、依頼を引き受けたが、本当に偶然の出来事だ。

 騎士団は常備軍であり、いついかなる時でも纏った兵力を出せるが、冒険者はそうはいかない。

 朝のピークを過ぎて、殆どの冒険者が依頼に出払った中で起きた緊急依頼だ。しかもB級の魔物相手とあっては受けられる冒険者も上級に限られる。

 あの時、受付嬢がまだギルドフロアにいたS級のエストとA級のランディたちを見つけた時は、ホッとしたような顔をしていたのをよく覚えている。


「……守るのが使命だって言うなら、じゃあなんで遅いんだよ」


「だからその穴を埋める為、僕たちに依頼を出すんですよ」


 今回みたいにね? とエストが言えば、口を尖らせながらもレイモンは黙った。

 たぶん、エストたちがいなかったら、この依頼は朝の依頼争奪戦に負けたか寝坊してきたようなB級かC級あたりの冒険者たちに任されていたはずだ。

 その程度の腕前なら、騎士団が来るまで鎧狼たちを抑えることはできただろう。先行隊としての役目を冒険者たちが担う形で。


「適材適所ってやつですよ。騎士団も冒険者もいがみ合う必要はないと思うんですけどね。騎士団は国を守れて、冒険者は報酬を得られるんですから」


 互いに利用し合っていると考えればいいのに、なぜこんな確執が生まれているのか。

 確かに理想としては騎士団が全てを守れていればいいだろう。だが、理想は難しい様子だ。

 それを理解しているからこそ、冒険者に依頼を振ってきたのだ。この依頼を出してきた騎士団側はよく分かっている様子だ。

 騎士のプライドとやらに邪魔されていないところもいい。それがあれば冒険者に依頼なんて初めから出さない。

 これらの判断と指示が出来るのは騎士団長か副団長くらいだろう。そうなるとユーインがそう指示を出したのかもしれない。流石、兄だ。


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