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7.導きの星火

 王都から西に伸びる街道は狼の集団が我が物顔で占領していた。

 通常よりも大きな、黒い狼だ。

 襲われた商人の隊商だろうか。馬車は無惨に横倒しとなり積荷は広がり落ちていた。

 馬車を引いていた馬は飢えた狼たちの餌となり……その餌には当然人間も含まれていた。


「……ひっ!」


 哀れにも逃げ遅れ、隠れていた人間を、狼たちが見つけた。

 その柔い首筋に牙を突き立てようとした時だった。


「……ギャウッ!?」


 牙を突き立てられたのは――狼のほうだった。

 どこから現れたのか、一瞬にして現れた別の人間が、剣を深々と一匹の狼に突き立て、そして強引に剣を捻って首を落とした。

 首を無くした狼は黒い血を流しながら、地に倒れていく。


「大丈夫でしたか?」


 その人間は……エストは剣を振り、黒い血を振い落とした。


「あ、ああ、助かった! まさかS級のあんたが来るなんて……」


「緊急依頼でしたので」


 逃げ遅れた人間は怪我はしているが、一先ず動けそうだ。服装と言動からしてこの隊商の護衛を請け負った冒険者のようだ。

 依頼主である商人たちを逃すために、足止めのため戦っていたのだろう。


 その場を囲うようにいた狼たちを倒しながら、エストは状況を見ていた。

 彼の階級はC級くらいか。B級の魔物相手では分が悪い。

 この黒い狼たちは普通の狼ではない。体毛の全ては硬い鉄のような硬さを持つアーマーウルフと呼ばれる魔物だ。その硬い毛は剣をいとも簡単に弾き返す。


(まぁ、私には関係ないんですけど)


 飛び交ってきた一匹に思いっきり剣を振るう。

 ブゥンッという重い風切り音が鳴り、狼に当たる。すると金属がひしゃげるような音を立てながら、狼は地に叩きつけられた。

 勢いで狼は地面にめり込んでしまったが、ちゃんと倒せたようだ。


「すごい……これが【迅剣】……剣筋が早すぎて見えなかった……」


(ごり押しパワーの間違いですよ)


 畏怖の眼差しを向けるC級冒険者に、思わず心の中で突っ込んだ。

 エストがやっていることは単純明快。十倍に強化された〈身体強化(パワーブースト)〉で、この鎧狼を叩き潰したのだ。

 そこに剣の技量などない。あるのはただの馬鹿力だ。


(これでもちゃんと剣術の基礎はお母様に習いましたし、お兄様とだって手合わせしたことはありますが……まぁ、だからこそ、あの二人には剣術だけでは、どうやっても追い付けないと分かりましたけど)


 本家本元である戦と火の神マレニウスからの【恩寵(ギフト)】持ちには、やっぱり敵わないんだよなぁとつい、思い出してしまう。

 そんな二人との差を埋めて誤魔化してしまえるのが、この常識外れの寵愛の力だ。


「……キャン!!」


 何匹か同じように潰したあたりで、残っていた狼たちは可哀想なくらいに怯えながらエストの前から離れていく。

 ……あの魔物たちは本当に、創造と破壊の神ゼロが遣わした配下だというのだろうか。

 魔物たちは創造と破壊の神ゼロが産み出したものであり、この世が魔物に埋め尽くされた時、今の世界は終焉を迎えると言われている。

 だからこの世界を守るためには、魔物は倒さなければならないのだ。


「この場は僕たちに任せて離脱してください」


「僕たち?」


「今日は一人じゃないんですよ」


 その時、エストたちの頭上を数本の矢が通り過ぎた。

 それは逃げようとした狼に当たる。避けようとしても、物理法則を無視して追尾し矢は当たった。

 比較的硬い体毛の少ない、脚部分だけを狙って。

 それによって逃げる足を失っていた。


「灼き尽くせ、〈火焔(フレイム)〉」


 ごうと炎が狼たちを囲む。

 さらに炎を纏わせた剣を手に、飛び込んでいったのはランディであった。

 狼による抵抗をかわし、鉄のような体毛を、炎で焼き溶かしながら斬り裂いた。


「あれは……【炎剣】!? ランディまで来てるのか!」


 A級冒険者、【炎剣】のランディというのが、彼を表す二つ名だ。

 彼は《魔法剣士》の【恩寵(ギフト)】を持っているという。扱える属性魔法は見て分かる通り、火だ。

 戦と火の神マレニウスからの【恩寵(ギフト)】だとよく分かる。


「よかった。まだ獲物を残しておいてくれたんだな?」


「流石に僕でもこの量を殲滅させるのには骨が折れますよ」


 ランディの軽口に、エストはそう返す。ランディはそのまま残りの狼たちを倒しに行った。


「やっと追い付いた! 二人とも足速いんだから!」


「だから言ったじゃん、ジャス。二人に任せときゃいいって。オレたちまで急ぐことないってさ」


「もう、レイはいつもやる気ないんだから!」


 何やら言い合いをしながら遅れてやってきたのはジャスミンとレイモンだ。

 ジャスミンは走りながら弓を構え、矢を放つ。

 先ほどと同じようにその矢は追尾するように動き、エストに襲いかかってきた黒い狼の目玉を撃ち抜いた。そのままエストは難なく狼を斬り払った。


「腕が上がりましたか、ジャスミン?」


「分かった? エストたちと並び立つために努力したのよ!」


 エストの言葉に、嬉しそうに返事をするジャスミンは《追撃者》の【恩寵(ギフト)】持ちだ。

 弓を扱う者の多くは狩猟と森の女神フリージアから授かる《弓士》や《猟師》というものが多いが、彼女のは珍しい《追撃者》という【恩寵(ギフト)】であった。

 これは《追撃者》という【恩寵(ギフト)】にフリージア以外の神の影響があるからと思われる。

恩寵(ギフト)】は一神から授かる場合が多いが、時に複数の神の【恩寵(ギフト)】が混ざる場合がある。

 ジャスミンは風属性の魔法適正があるところから、冒険と風の神ヴェンディの影響も受けているのだろう。ヴェンディは導きの神とも呼ばれているから、《追撃者》という対象を追いかける力にも当てはまる。


「レイモン、この人の怪我を治して安全な場所まで連れて行ってあげてください」


「うへ、それが一番嫌なんだけど。だいたい、そいつ動けるでしょ、オレの力いらないでしょ」


「レイモン、お願いです」


「あー……もう分かったよ……」


 レイモンは渋々と言った様子で、手のひらを胸の前に置いた。


「光り輝け、スターライト」


 やる気のない声に反して、彼を包み込むように光が胸から溢れ、さらには軽快な音楽までどこかから鳴り始めた。毎回思うが、なんなんだこの曲は。


 光と音楽が収まるとそこには……実に可愛らしいフリフリの衣装を着たレイモンがいた。


「ま、まさか……あんたがあの魔法少女レイ!?」

「オレを! その名で! 呼ぶなあああああ!!」


 ……思わず叫んだレイモンだったが、実際そうなのである。


 レイモンが持つ【恩寵(ギフト)】とは、なんと《魔法少女》である!


「まじでなんなんだよ、魔法少女って! 意味わからん!! しかもなんでオレ?? オレ男なのにさ!!」


 そう言いながらレイモンは冒険者の怪我を魔法で治していた。その魔法は光属性ではなく、星属性という極めて珍しい属性だった。


「でも似合ってるよー、レイ」


「そうですよー」


「うるせぇ! 何も嬉しくないんだよ!」


 ジャスミンとエストの声に、レイモンはそう返す。

 《魔法少女》なんて【恩寵(ギフト)】は聞いたことがない。たぶんエストの《女神の寵愛》並に珍しいだろう。

 そんな貴重な【恩寵(ギフト)】であるが、本人は非常に不服そうだ。


 この《魔法少女》がどの神からのものかは割と複雑だが、きっと愛と光の女神ラヴィーユと、芸術と星の女神ミューズあたりの犯行……いや【恩寵(ギフト)】だろう。

 レイモンは治癒魔法が使えるため、確定でラヴィーユの影響がある。そしてこの手の外見に影響があり、さらに音楽や星が関係するとなると美の女神とも言われるミューズも関わってくるだろう。


「とりあえず、こいつ運べばいいんだな? じゃ、あと任せた」


 レイモンは先端が星の形をした変わったステッキを振る。短いステッキだったそれは、杖のような長さまで伸びた。

 杖に跨がり、冒険者を雑に掴んでその杖の後ろに乗せると、そのまま空に飛び上がった。

 ……空を飛ぶ能力も含めると天空と雷の神オーディルの力も影響してそうだ。


「毎回思いますが、やっぱり彼の力は規格外だと思うんですよね」


「まぁ、レイはあの力あまり使いたくないみたいだけど」


 それもそうだ、男なのに魔法少女をしなければならないのだから。レイモン曰く、双子の姉であるジャスミンと【恩寵(ギフト)】を入れ間違えられたんだ! と主張している。

 ちなみに変身していないと魔法は使えないという。無慈悲……。


恩寵の説明として神の名前を沢山出しましたが、一気に出し過ぎた気がします……。

ちなみに、複数神の混ざった恩寵は確かに強いですが、それだけそれぞれの神の影響は希薄になり器用貧乏になりやすいです。

祝福や寵愛はその神の特徴の特化型です。通常枠とレア枠がある恩寵の中で、この二つはEX枠になるでしょう。

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