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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
番外編

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9.導きの光

 魔物の強さはC級を境に強くなる。C級を超えると魔物はただの獣ではなく、知能を持った魔物が多くなるからだ。

 当然、B級の魔物であるデュラハンもそうだ。死した人間が変貌して生まれ出るとされるアンデッドのこの魔物は、生前はさぞ名のある騎士だったのかもしれない。


「ぐっ……くそっ!」


 錆びれた黒鎧を纏う首なしの屍が振るうその剣を前に、ジェイラスたちは成す術がなかった。

 C級の冒険者である彼らにとって、格上の敵だ。今は防戦一方だが、耐えられているだけよくやっているほうだ。

 足の速いダグがデュラハンを牽制しつつ、致命的な一撃はすぐにジェイラスが割り込んで受け流していた。その斬り合いの中で生まれた傷口はすぐに、アデラが治していた。


「〈火ー焔ー(フレイム)〉!」


 そして稼いだ時間を使って、ネイサンが魔法を完成させて、デュラハンに打ち込んだ。

狼の剣(ウルフ・ブレイド)】が最も得意とする連携技は見事に決まったが……。


「なんで効いてないのよ!」


「やっぱり、魔法、耐性、が、高い……」


 高熱の炎を身に浴びても、デュラハンは無傷で動いていた。身に纏っている鎧のせいだ。あの鎧は魔力を宿した特殊な鎧であり、魔法から身を守る力を持つ。……ただ一つの魔法を除いて。


「私が……光魔法を使えていれば」


 アンデッドの弱点、それは聖なる光の力だ。実を言うとそれさえあればデュラハンという魔物は脅威ではない。

 しかし、光魔法を扱える者はこの場にいない。〈治癒士〉でありながら風魔法しか使えないアデラでは、デュラハンを祓うほどの光を扱えない。


「やはり、俺たちで片付けるしかないな」


「いや、無理だろ!」


「無理でもやるしかないだろ!」


 前衛のジェイラスとダグの武器には聖水を掛けた上から〈光の付与ホーリー・エンチャント〉がされている。両方ともアデラが二人に施したアンデッド対策だ。

 微々たる力だが、これで武器には聖なる力が宿った。デュラハンを斬り刻めれば、倒すことができるかもしれないが……実力差がありすぎた。


「ぐあっ!」


「――ダグ!」


 デュラハンの剣がダグを捉えてしまった。足の速い彼の動きをついに見切った動きだった。

 剣はダグの胸を切り裂き、体を軽々と吹き飛ばした。


 デュラハンはそのままダグにとどめを刺す――ことはなく、馬を掛けて通り過ぎた。


「ランディ、逃げて!」


 アデラの叫びが響いた。

 デュラハンが一直線に向かってきたのは……ネイサンよりも後方に、彼らに守られるようにいたランディだった。


(なんで……おれを狙うんだ)


 デュラハンの全身から、肌を突き刺すような恐ろしい殺気を感じる。

 ……この殺気には嫌という程に覚えがある。何故なら魔物と対峙する時に、いつも感じるものだ。


「あぁ……あ……やっぱり、やっぱり……おれなのか……」


 ――あの時も、同じだった。一年前のあの時も。

 多くの魔物に襲われて、騎士たちが果敢に挑むも、同士討ちにより地獄と化したあの時の。

 魔物に向けられた殺気も、騎士に向けられた殺気も、すべて同じだった。


「ひっ……」


 記憶の奥底にしまい、目を逸らし続けてきたそれが、現実となって目の前から襲いかかってきた。

 ランディは恐怖に体が支配されて、動けなかった。


 剣が迫り来る。黒い剣が死をもたらすように、振るわれる。……まるで、自分の剣のようだ。


「――ランディ!!」


 ざくりと肉を断つ剣の音と、血が飛び散る音がした。しかし、ランディの身に痛みはない。力強い腕が彼を抱き締めるだけの痛みしかなかった。


「ジェイラス……?」


 ――なぜなら、ジェイラスがランディを守るように庇い、背にデュラハンの一撃を受けていたのだ。


「ぐはっ……!」


「ジェイラス! なんで、どうしてっ!?」


「言っただろう! 俺がお前を守ると!! 今度こそ、俺があああぁぁああ!」


 ジェイラスは振り返り、馬上にいるデュラハンに飛びかかった。捨て身の体当たりのようなそれは、デュラハンの意表を突いたのか、馬上から引き摺り落とした。


「ジェイラス!!」


「ランディ、ダメ! 今のうちに逃げなさい!」


 ジェイラスに向かおうとしたランディをアデラが止め、彼の腕を掴んで無理矢理引っ張った。


「……でも!」


「ランディはD級でしょ! 私たちにも敵わない魔物に、あなたが敵うわけない! いいからあなただけでも早く逃げなさい!」


 もう一度ランディがジェイラスの方を振り返った時、見てしまった。


 ――デュラハンの剣がジェイラスの胸を貫き、彼が倒れていく姿を。


「……あ……ぁ……」


 一気に絶望が場を支配した。

 赤い血を滴り落としながら、デュラハンが再びランディに向かってやってくる。まるで死そのものが歩いてやってくるかのように。


「ランディ!」


「……アデラ?」


 しかし、その絶望の中でも、ランディ以外は動き続けていた。


 今度はアデラがランディを守るために立ち向かったかと思えば……あっという間に盾すら粉々にされて斬られていった。


「――〈火ー焔ー(フレイム)〉!」


 さらに再び火が爆ぜた。デュラハンは火を纏うがそれを振り払い、剣を投げた。


「……がっ!?」


「ネイサン……?」


 投げた剣はネイサンの胸を貫いていた。剣はひとりでに浮遊し、ネイサンの胸から引き抜かれて、デュラハンの手元に戻った。


(おれも……死ぬ?)


 ――こんなのに勝てる訳がない。

 今まで見てきた魔物と違い過ぎる。周囲に倒れ伏す仲間を前に、ランディもまた死を覚悟した。


「……クソッタレが!!」


「ダグ!!」


 ふいに身体が浮かんだ。……オークの時と同じだ、ダグがデュラハンの剣から守るように彼を抱き上げて走ったのだ。

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