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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
番外編

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2.導きの光

 あれから一ヶ月が経ち、怪我も治った彼はこれからのことについて、少し悩んでいた。

 噂で聞いたがどうやら自分は死んだことになったらしい。……名乗らなくて良かったと思った。もし自分の名を名乗っていたら、王宮に戻されていたかもしれない。


(戻ってはいけない……おれはあそこに居てはいけなかったから……)


 父親は彼のことを嫌っていた。王宮では爪弾きにされていた自分には、最初から居場所なんてなかったのだ。行ったとして知らないふりをされるならまだいいが、王子を騙ったとして処罰されるほうが厄介だ。


 せっかく拾った命をまた投げ捨てるわけにはいかない。このまま自分は死んだことにしておいたほうがいいだろう。


「行くあてがないなら、俺たちのパーティに入るか?」


 今後について悩んでいた彼に、ジェイラスはそう提案してくれた。


「冒険者ってのはいいぞ! 身分も年齢も関係ない、力さえあれば働ける! 俺は元々孤児でな、身を立てるために冒険者になったんだ。……ま、その分危険とは隣り合わせだがな」


 わしわしと彼の頭を撫でながら、ジェイラスは少し真面目な表情をした。


「いいか、冒険者ってのは自由だが、全部自己責任だ。どこで死のうがどんな風にくたばろうが、そいつの責任になる。……冒険者をやるつもりなら、その覚悟を持っておけよ」


「おれの責任……」


 もし自分が死んでも、誰のせいでもない。自分の責任でしかないのはいいと思った。


(それに生きるためには働かなきゃいけない……なら……)


「……冒険者になる」


「おお! じゅあ――」


「でも、パーティには入らない」


「なんだって?」


 ジェイラスが困ったような笑みを浮かべた。


「おいおい、遠慮でもしてるのか? 気にすんなって」


 遠慮ではない。ただ助けてもらった彼らにこれ以上の迷惑をかけたくなかったのだ。


「だっておれは……」


「俺は?」


「おれは……呪いの子だから。一緒にいると呪って、死なせてしまうかもしれない……」


 言った。言ってしまった。だが、きっとこれでいい。彼は震える手を握りしめた。


「そうか、それがどうした?」


「え……」


しかし、帰ってきた返事はあっさりとしたものだった。信じられないものを見るように彼はジェイラスを見る。


「俺も昔、似たようなことを言われたことがある。お前と一緒にいると死ぬとかってな。ガッハハハ!」


 わしわしと再び彼の頭をジェイラスは撫でた。黒髪がずいぶんと乱れてボサボサになった。


「ま、俺が拾ったからにはちゃんと後の面倒も見たいってだけだ。だからあんまり気にするなよ、"ランディ"」


 慣れない名で呼ばれたせいで、反応に遅れた。

 だがじわじわと実感すると涙が出てきた。


「おれ……ここに居ていいの?」


「ああ。お前が嫌なら出て行けばいいぞ?」


「…………嫌じゃない」


 そのまま彼はしばらく泣いた。今までずっと溜め込んでいたものを吐き出すように、過去の分まで泣いた。

 ジェイラスは彼が泣き止むまでずっと付き添ってくれた。




「お前、武器は扱えるか?」


「……剣なら少し」


 冒険者ギルド【魔女の翼(ウィッチ・ウィング)】の訓練場。冒険者なるために訪れたが、手続きが終わるまで時間があったので、ジェイラスに実力の確認をされた。

 ……本当は魔法も使えるのだが、できれば使いたくないので言えなかった。


「なら、ちょっと見せてみろ」


 ジェイラスに剣を渡された。訓練用に刃の潰された剣だった。それでも彼は剣を握る手が震えていた。……だってあの時も同じだったから。


(斬ることができる武器なら、力を発揮するみたいなんだよな……)


 刃を潰されていても、それは剣であることは変わらない。剣という存在である限り、総じて斬るという概念がある武器だ。

 ――その力が発現したのはあの時の手合わせだった。それまでは剣を振っても普通だったのに。能力が発現したタイミングが悪く……不運だった。


 しかし、今回は手合わせはしないらしい。相手がいないことにほっとしながら、素振りだけした。


「ほぉ……基礎がしっかりしてるな。誰かに教えてもらったのか?」


「……うん」


 この国の騎士団長自らに剣術を教わったとは、さすがに言えなかったが、頷いておいた。


「腕がいいじゃないか、《剣士》の【恩寵(ギフト)】持ちか?」


「えっと……」


 近くで見ていたダグにそう聞かれた。……どう答えればいいのかわからない。言葉に詰まった。


(正直に《処刑人》だって言ったら、どうなるんだ……?)


 かつて父に殴られた記憶が蘇った。


「無理に言わなくていいぞ。……ダグ、お前も無遠慮に聞くんじゃねぇ」


「なんだよ、ちょっと気になっただけだろ?」


 ジェイラスは彼に近づくと安心させるように、にぃと笑った。


「言いたくなったら言えばいい。ちなみ俺は《戦士》の【恩寵(ギフト)】だ。あらゆる武器を扱うことがてきるオールラウンダーだ!」


「扱えるけど、専門職に比べたら腕は並の器用貧乏の間違いだぜ?」


「……ダグは《走者》だ。走ることが人一倍速い、以上!」


「リーダー! 勝手に教えるんじゃねぇよ!!」


「ガッハハハ! 別に隠しているわけじゃないんだからいいだろ?」


「まったく……言っとくがただの走者(ランナー)じゃないぞ。戦場を駆ける伝令(ランナー)だからな! 現に戦と火の神マレニウスと冒険と風の神ヴェンディの力が合わさってるんだからな!」


 勝手に教えられて不貞腐れながらも、ダグは自分の力について補足をした。


「手続き終わりましたよー!」


 すると、ギルド職員が手を振りながらこちらに向かってきた。


「はい、こちらがあなたのギルド証です」


 彼は鉄製のカードを受け取った。登録したばかりなので階級はF級。続いて名前と所属するパーティが書かれた簡素なものだ。所属パーティには【狼の剣(ウルフ・ブレイド)】と書かれている。結局、手続きの際にジェイラスに押し切られてしまった。


「これからよろしくお願いします、"ランディ"さん」


 ――そのカードに刻まれた名前はランディ。

 それが彼の、冒険者ランディとしての始まりだった。

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