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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第三章

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31.再び揃う

「そしてこっちがA級パーティの【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】か」


 リナルドは確かめるように全員を見渡した後、何故か嘆息した。


「……女子供ばかりじゃないか。本当に君らがそうなのか?」


「んだとっ?」


「レイ、落ち着いて」


 レイモンが突っ掛かりそうになった所をジャスミンが抑える。確かに【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】は若者ばかりの集団だ。歴戦の戦士というような見た目の者はいないので侮られても仕方ない。


「……彼らは本物です。その腕については私が保証します」


「ふぅん……嘘はついていないみたいだが」


 ユーインがリナルドの隣に控えながらそう言った。

 リナルドはまだ釈然としない様子で、エストの方を見た。


「君は本当にあのエストなのか? 同じような仮面を被られたら、別人が入れ替わっていても分からないぞ?」


「疑うのであれば実力をお見せしましょうか?」


「見せるならばその仮面の下の顔にしてほしいものだな?」


 リナルドは詰め寄るようにエストに近付いた。

 その翡翠の瞳でエストを睨みながら。


「確か、噂では仮面の下は見るに耐えない醜悪な素顔をしていると聞く。それを見せてくれたら、君を本物だと認めてやってもいい」


「……それは出来かねます」


 そんなことをしてしまえば、エストがエステルであるとバレてしまう。特にエステルの素顔をよく知る兄のユーインと元婚約者のリナルドがいる前で出来るわけがない。


「……あまりうちのパーティメンバーを困らせないでくれ」


 エストの後ろに立つ、ランディが少し不快感を表して言った。

 ――珍しい。彼は慣れた相手以外には話しかけないのに。これには少しエストも、ジャスミンたちも驚いていた。


「間違いなくこいつは本物のエストだ。文句があるなら、リーダーである俺が受け取るが?」


「……君が【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】のパーティリーダー、【炎剣】のランディか?」


「そうだ」


「……ふん」


 ランディをジロジロと品定めするように眺めてから、リナルドは腕を組んだ。


「これなら呼ばないほうがよかったな……」


「どういうことだ?」


「……別に、こちらの問題だ」


 再び彼は嘆息した。……本当に、何かの悩みを吐き出すような仕草だった。


「おい、エストとランディ。君たちはもうメリィに近付くな。近付いて誑かしてみろ、この私が許さないからな?」


 脅すように言い残して、リナルドは幌馬車のほうに戻って行った。


「なんだったんだ、あいつ!」


「顔は良いけど……性格は良くなさそう……」


 レイモンとジャスミンは揃って嫌なものを見たという表情をしていた。


「彼らは?」


「メリィ様とリナス様です。私たちの有力な協力者とだけ。それ以上は言えません」


「なぜ同行しているのです?」


「もちろん、テスタ領地に向かうためです。追悼のために」


 ユーインからの回答を貰って、エストは思わず幌馬車のほうを見た。


(まさか、本人が直接同行してくるなんて……)


 てっきり彼は出てこないと思っていたが。それどころかメリナまで連れてきている。

 偽名を名乗っているところからして、正体は隠しているつもりのようだが……なぜ変幻魔法を使っていない?


「深くは聞きませんが……彼は少し目立ちます。もっと変装させなくてよろしいのですか?」


「私もそう進言したのですが……メリィ様が嫌だと言ったそうです……。だからリナス様たちは最低限の変装しかしておりません。私もあまり変装をするなと言われて……」


「なるほど。それで今日はその格好なのですね」


(これはこれで普段のお兄様とは違いますし、とても珍しい姿で好きですね。……いや今はそうじゃなくて)


 兄の変装も中途半端だと思っていたが、そんな理由があったとは。

 しかし、秘密裏で動くというのに、目立つ姿を隠さないとは。まるで見つけてくれと言っているようなものではないか?


(まぁ、私も人のことは言えませんが……)


 目立つ仮面をしている自分が言うなという話ではあるが、それにしたっておかしな話だ。


(彼女一人の我儘を通したというのですか?)


 一つ分かったのは、リナルドは相当メリナに甘いということか。彼女が興味を持ったエストやランディには牽制までしてきたくらいだ。


「エストさん、実は護衛の件ですが、私たちよりリナス様たちを優先して護って頂きたいのです」


「……承知しました」


 この国の王太子とその婚約者だ。何者よりも優先して護るべき相手だろう。この秘密裏の調査隊の人数が多いのも頷ける。

 エストは理由は聞かずに頷いた。ユーインは話を終えると、部下たちの元に戻っていった。


(しかしながら、何故彼がここに来たのか分からない……第一王子たちの追悼のために? この十年間一度だってそんなことしてなかったではないですか)


 実はエステルとして、ユーインに連れ添って何回か追悼に来たことはある。しかし、元婚約者であり第二王子であるリナルドが追悼の為にテスタ領を訪れた記憶は全くない。

 異母兄弟であったとはいえ、この扱いだ。

 いや……そもそも国王陛下ですら一度も来ていない。まるで最初から第一王子など、いなかったかのような扱いをしていた。


(あの事件、実は第一王子を暗殺する為に仕組まれたものではないかという噂が少しありました。でも、結局何の証拠もなく、その噂もすぐに立ち消えてしまった……)


 エスト自身も調べたことはある。公爵家の失態と呼ばれたものが、何者かによって仕組まれたものならば、我が家は嵌められたと言っていいものだ。

 しかし、どれだけ調べても何も出てこなかった。視野を広げる目的で冒険者になっても見たが、そちらでも証拠と呼べるものは見つからなかった。


 一族皆殺しの刑に処されてもおかしくなかったこの重罪は、最終的に母が殆どの責任を取る形で、騎士団長を辞任し、オルブライト家の屋敷に幽閉された。近衛兵だった兄も降格処分を受けていた。

 この程度の処罰で済んだのは我が家の過去の功績による恩赦とされるが……王家の第一王子への態度を見るにそれだけが理由とも言えない。


(まったく……その第一王子の命日が近い日に、今度は第二王子の護衛を私たちが請け負うなんて……)


 何の因果か、王家の王子と騎士家のオルブライト家の者が揃ってしまっている。

 少し遠くで部下たちと打ち合わせをしだした兄の顔色が悪いのも、きっと過去を思い起こしてしまうからだろうか? 先程から何度も眼帯に隠れた左目を押さえていた。……あの左目は十年前に失ったのではなく、その事件が起こる前に失ったものであるが。


「エスト! あたしたちユーインさんの仲間の人たちを宿屋まで案内してくるね」


「ええ、お願いします」


 どうやら数人が先行して宿屋に向かい、部屋を取ってくるようだ。その案内をジャスミンとレイモンが任されたらしい。


 二人は数人の冒険者の格好をした騎士たちを連れて、街中に向かっていった。

 残されたエストたちやユーインは幌馬車の近くで待機することになった。


「……ランディ?」


 気付いたらエストの後ろに居たランディが、後ろからエストの腕を掴んでいた。……掴む手が震えている。


「……悪い、少しこうしていていいか?」

「構いませんよ。なんなら抱き締めてあげましょうか?」

「……冗談だよな?」

「まぁ、そうですね。人の目がありますし、やめておきましょう」


 わりと冗談ではなかったのだが……。

 昔兄がこんな風になっていた時にいつも抱き締めていたから、つい抵抗なく言ってしまう。

「……そういうところだぞ、お前……」と聞こえるか聞こえないかの声で文句を言われた。よくわからないし、何故文句を言われたんだ?


「さっきはありがとうございました」


 ふと先程のことを思い出し、礼を言う。リナルドに仮面を取れと言われた時、ランディは庇うようにしてくれた。


「別に……リーダーとして当然のことをしたまでだ」


「ええ、だから少し驚きましたよ。……あなたはああいったことは苦手なのに、わざわざありがとうございました」


「…………気にするな」


 腕を握り締める手の震えが徐々に収まってきていた。


「……本当はこの依頼、あなたは受けるつもりはなかったのでしょう?」


「何故分かった……」


「パーティ以外の集団で動くような依頼をあなたは今まで受けたことはないではありませんか」


 むしろ前回ユーイン一人が同行するだけでも、依頼を受けたのが不思議なぐらいだった。

 双子を入れた三人かそこにエストを入れた四人が、彼が耐えられる最大人数だと思っていたが……。


「確かにそうだが……お前に付いていくと言った。だから受けたんだ」


「そうでしたね……」


 掴まれている腕に力が込められた。震えは止まった様子だが、離してくれる様子がない。


「あまり無理はしないようにしてください」

「……なぁ、エスト」


 グイッと腕を引かれた。体がランディの側に寄る。

 彼は上から覗き込むように、エストを見ていた。

 陰になったランディの金の瞳が、また僅かに赤黒く染まり始めていた。


「もしも俺が――――――」


 あまりにも小さな言葉で耳元で囁かれた。

 エストは仮面の下で眉を寄せた。


「……それはできませんし、そもそも絶対にさせません。もしそうなったとしても、僕が全力で止めますよ?」


「……その言葉を聞けて安心した」


 ランディは笑みを浮かべてから、エストの腕を離した。


(……本当に怖がりな人ですね)

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