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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第三章

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30/73

30.元婚約者と新しい婚約者

 三日後、不可解な護衛依頼を受けたエストたちはテスタ領地に入る手前の宿場町に来ていた。

 ユーインからこの街で合流しようと言われ、彼らの到着を待っていたのだ。


「あ、来たみたいよ」


 ジャスミンがいち早く気付いた。

 宿場町の入口に向かってこちらに向かってくる集団があった。

 五人ほどが馬に乗っていた。旅装束をしており、剣や盾などを装備しているから一見すれば冒険者の集団のようにも見える。

 その集団に囲まれるようにして幌馬車が続いていた。幌馬車にも何人か乗っている様子だ。


「改めて依頼を受けてくださり、ありがとうございます。本日からよろしくお願いします」


 先頭の馬から降りたユーインが、エストたちに挨拶をした。

 服装は軽鎧を着た冒険者のような姿だ。普段は纏めず流されている銀の長髪を、今は後ろで結んでいた。兄がいつも使っている剣を腰に下げ、背中にはカイトシールドを背負っている。


 他の連れも皆そのような感じだ。顔は見たことある者が混じっているから、彼らがこれから調査に赴く騎士団の仲間なのだろう。


「……結構大人数ですね」


「最低限必要な人数を集めたらこの人数になってしまいました……申し訳ありません」


 秘密裏に動くにしては少々人数が多すぎる。彼ら全員を護衛する程度、特に問題はないが……。


「まぁ! もしかしてあなたが噂のエスト様かしら!」


(――この声。まさか)


 ふわりとした声が聞こえた。幌馬車から出てきたらしい女性が一直線にある人の前に走ってきた――ランディに向かって。


「……っ!? く、来るな! 俺はエストじゃない!」


「あっ、そういえば仮面を被っていませんでしたね。あまりにも素敵な方だったので、絶対そうだと思ってしまいましたわ」


 慌てるランディを前に、ころころと可愛らしく微笑むのは、茶髪の髪と薄桃の瞳を持つ素朴な女性。


(メリナ・ダレル……何故ここに)


 エステルを追い出すようにしてその後釜に座った、あのメリナ・ダレルがそこにいた。


「そんなに恥ずかしがらずとも、こちらを向いてください。ほら?」


「……失礼」


 ランディに向かって、メリナは無遠慮に手を伸ばした。エストはすぐに二人の間に割って入るようにして、その手を優しく掴んだ。


「彼は怖がりなので、この程度で許してあげてください。それにあなたが探していたのは、僕ではありませんか?」


「……まぁ! 本当に仮面をしているのね!」


 興味がエストに移ったらしい。彼女はエストが握った手に両手を添えた。


「あなたの噂は聞いております! 無数の軍勢を従える女王蜂の魔物を一人で倒したりしたのでしょう?」


「よくご存知ですね」


 メリナが言っているのは確か二年前、南の地域で起こったスタンピートのことだろう。

 創造と終焉の神ゼロはこの世界を終わらせるために、時折強い魔物を産み出すのだ。

 そういう魔物は多くの魔物を従え、軍勢となって人々の街を襲う。

 そういった現象のことをスタンピートと呼んでおり、二年前の元凶は女王蜂のような魔物だった。


(あの時は女王蜂を倒すことより、スタンピートの報を聞いてから、屋敷を抜け出すまでが一番大変でした……)


 なんとか誰にも知られずに屋敷を抜け出したエストは、その足で現場に直行。即単身で巣に殴り込み、無数の働き蜂を相手しながらも女王蜂を素早く倒した。魔物討伐時間より、屋敷を抜け出すまでの時間の方が長かったくらいだ。


「ふふ、この国でエスト様を知らない人はいないわ」


 メリナはエストの顔を見上げながら微笑んだ。薄桃の瞳は仮面の奥にある瞳を覗こうとしているのか、僅かなバイザーの隙間を縫って見つめてきた。

 こうしていると、普通の少女に見える。夜会の会場で会った時はまだドレスを着ていたから男爵令嬢に見えていたが、今は平民がよく着るようなドレスを見に纏っている。街中の人混みに紛れ込んだら見つけられないかもしれない。


「――メリィ、何をしている。私の側を離れるなと言っただろう?」


 薄桃の瞳は後ろから伸びてきた別の手によって隠された。

 さらにエストの手を握っていたメリナの手を無理矢理解いて、二人は引き剥がされた。


「……まぁ、ごめんなさい、リナル――じゃなかった、リナス」


 リナスと呼ばれた男がメリナの後ろに立っていた。金髪と翡翠の瞳を持ち、素朴で地味な服装をしていても貴公子然とした雰囲気を隠せていない。


「メリィ、馬車のほうに戻っていなさい。彼らの邪魔をしてはいけないから」

「……分かりましたぁ」


 少し不貞腐れながらメリナが幌馬車のほうに戻っていく。

 彼女が荷台の中に戻ったことを確認して、男はエストに振り返った。


「君があのS級冒険者のエストだな?」

「……はい、そうです」


 先程までメリナにかけていた甘ったるい声と変わって、低く厳しい声と不遜な態度で話しかけてきた。


(……リナルド、あなたまで何故ここに)


 ラルイット王国の第二王子にして、現在の王太子。

 そしてエステルの元婚約者……リナルド・ラルイットがそこにいた。

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