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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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26.十年前の失態

「ところで話は少し変わるが、常闇の森の調査を宰相のウェスレート侯爵に邪魔されたようだな」


 北の街の襲撃事件を受けて、騎士団長は再度、常闇の森の調査許可をテスタ伯爵に求めていた。

 しかし、二度目の申請も必要ないの一点張りだった。常闇の森の管理はしっかりとしており、その森から出てきた魔物は一匹もいないというのだ。

 西の街道や北の街に現れた魔物は別の場所から流れてきたのでは? という始末。

 テスタ伯爵がダメならばと、国王陛下に話を持っていったが、そこで割り込んできたのはあの宰相のウェスレート侯爵だった。


『現地にいるテスタ伯爵が調査は必要ないと言っているのです。わざわざあのような遠方に行かずともよろしいでしょう。金の無駄ですよ。そもそも、今回の魔物たちが現れたのだって、騎士団の怠慢が招いた結果なのではないでしょうか?』


 よく回る舌で国王陛下に話し、陛下もその言葉に流れてしまった。


「……領主のテスタ伯爵から許可がおりなかったのです。ウェスレート侯爵は……あまり関係ないかと」


「あれが圧力を掛けなければ、あのテスタ伯爵がその判断をするとは思えないな」


(なら、なぜ――)


 ――そこまで知っていて野放しにした?

 いや、リナルドに期待するだけ無駄だった。今までだって彼はこういうことには無関心をついて何もしてこなかった。

 リナルドは足を組み直しながら、話を続けた。


「近々私はテスタ領に行こうと思っている。だが、常闇の森の件といい、あの領地は安全とは言い難い」


「……なぜこのような状況の中、テスタ領に行かれるのですか?」


「それは君がよく知っているのではないか?」


 リナルドの低い声に、その言葉に、ユーインは固まった。翡翠のその目は感情もなく、ユーインをありのまま写していた。


「もうすぐ、兄上の命日だ。君は毎年、命日には必ずテスタ領に赴いているだろう?」


 ――左眼の古傷が疼いた。思わず目を抑えたくなる左手を握り締めて封じた。


「私も今年は行こうと思っているのだよ。何せ、兄上が亡くなってからもう十年と経つからな」


 ……今まで一度たりとも墓参りをしたことはないのに、今更何を言っているんだ。

 ユーインは左手をさらに怒りで握り締めた。爪が食い込み、血が滲み始めた。

 リナルドは立ち上がり、ユーインの肩に手を置きながらしゃがみこんだ。


「君には一緒に来て欲しい。もちろん、私の護衛も兼ねてな」


「…………この私をわざわざあなたの護衛として、連れて行くのですか」


「実はメリナが君を気に入ってしまってね。彼女も一緒に行くのだが、君に護衛をしてもらいたいと言い出して聞かないんだ」


 リナルドの目に不愉快そうな色が僅かに映った。

 なるほど、何故ユーインのような者をわざわざ護衛として連れて行くのかよく分かった。

 ユーインは彼女のご機嫌取りに利用されるのだろう。そうでなければ、彼の兄……第一王子の近衛兵だった自分を近くに置いたりしない。謹慎処分を解いたのもそのためか。


「……殿下のご命令とあれば」


 何も思わないわけがないが、ユーインはそれを受け入れた。……元より、彼ら王族には逆らえない。


 ――なにせ、第一王子を護れなかったのだ。

 護衛をしていた王国騎士団とユーインは、魔物の襲撃から第一王子を護れず、死なせてしまったのだから。

 これが十年前、オルブライト公爵家が犯した失態だ。

 この事件のせいで母は団長を辞任し、ユーインも降格処分を受けた。さらにその責任は関係のない妹のエステルにまで及んだ。リナルドとの婚約、これを断れなかったのもこの事件があったせいだ。


「それからもう一つ」


 リナルドはユーインの肩を僅かに引き寄せた。口元をユーインの耳元に寄せて、声を直接流し込むように話し始めた。


「――あの【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】を私の護衛として連れてこい。全員無理ならS級冒険者のエストだけでもいい、そいつだけは絶対に連れてこい」


 思わず息が止まった。やはりリナルドは、ユーインと彼らの関係を知っている。


「……絶対に断られます。無理です」


「無理を通せ。これは命令だ。従えないというなら……妹の命はないと思え」


「……っ!!」


 妹の無事は確認できたとはいえ、あれからどうなったかは分からない。まさか、リナルドの手に落ちたというのだろうか?


 いや、もしかしたら、やはり妹はリナルドに捕まっていたのだろう。そこからなんとか逃げ出したのだ。

 しかしその後、魔物の騒動中に再び捕まってしまった。そう考えればすべての辻褄が合う。妹を追跡出来なかった謎も。


(そうか、そういうことだったのですね……!)


 自分に会いに来たのはもしかして、助けを求めて? ……いや違う。心優しい彼女のことだ、ユーインを巻き込まないために、捜索しないように忠告しに来たのだろう。ランディに残した伝言からもそれが伺える。ユーインの元に会いに行けなかったのも、追っ手がせまっていたのかもしれない。


(ああ……! 申し訳ありません! 私はあなたの真意に気付かず!!)


 なんて健気で、優しい子なんだ自分の妹は!

 それに比べて自分はなんだ! 妹が近くにいたのにまったく気づきもしないで、みすみすと再び敵の手に妹を渡してしまったではないか!

 こんなのではやはり騎士失格だ。やはりあの時、あの方を護れなかった時に、潔く断頭台の上に乗っておくべきだったんだ! 何が王家の盾だ!


(しかし、反省をするのはあとです。……妹を助けなければ)


 妹の命を守るためにも、今はこの男の指示に従わなければ……。

 例え妹が捕まっていなかったとしても、彼の命令一つで妹はどうとでもなる。例えば逃亡犯として指名手配すれば、妹に逃げ場はない。

 しかし、何故。


「何故、そこまでして……」


 わざわざ妹の命を盾にとってまで、こいつは何をしたいというのか……。

 するとリナルドは僅かにまた面白くなさそうに笑いながら話した。


「メリナだ。彼女があのエストにも会ってみたいと言っていたのだ」


 ――またか。またあの女なのか。

 あのメリナ・ダレルが現れてから、妹のエステルは婚約者の地位を奪われ、さらには罪人として扱われた。今この状況になっているのも、メリナのせいだ。

 ――そうだあのメリナだ。メリナさえ、あのメリナさえ居なければ、こんなことには……!


「……承知しました。最善を尽くします」


 奥歯を噛み締めながら、ユーインは頭を下げた。

 左手の感覚はもうなかった。

変なピタゴラスイッチしてます。

ここまで二章です。次回三章、やっとあらすじの後半に辿り着きます。

いつも読んでくださりありがとうございます。少しでも面白いと思いましたら評価など、どうぞよろしくお願いします!

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