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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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19/73

19.好かれすぎるのも困るもの

※ギャグよりですが、センシティブ注意。

「エスト、どこに行くんだ」


「どこって……ランディには関係ないでしょう」


 何でそんなに険しい顔をしながら近づいてくるのか。しかも真っ裸のままで! その状態でこっち来ないで欲しい!


(意外と大き……って何を見てるんですか、私は!)


 淑女がマジマジと見ては、はしたないではないか!

 慌てて手で目を塞いだ。顔を覆うひんやりとした仮面の冷たさが手のひらに伝わるのに対して、体温は気恥ずかしさから上がっていく。


(いやいや、何を慌てているんですか、私! 今の私はエスト、男なのですから恥ずかしがる必要もないわけで!)


 男の裸を見て恥ずかしがるような男はそういないだろう。むしろ、慌ててしまうほうが絶対不審だ!

 というかランディの半裸くらいなら割と見たことあるじゃないか、何を今更慌てる必要がある。

 すぐに目線を遮っていた手を退けたが、すぐに後悔した。


(ひっ……!? なんかさっきより近くなってませんか!?)


 殆ど目の前にランディが居てびっくりして後ろに下がる。ランディも何故か追いかけてくる。

 壁際に追い詰められて、ランディが逃さないように、エストの顔の横に手を付いた。

 所謂壁ドンされている状態だ。それも全裸のランディに。本当になんでこんな状態になったんだ!?


「関係ある。俺は【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】のリーダーだ。メンバーがどこに行くか知る必要はあるだろ?」


「……一理、ありますが……その、言いたくありません」


「なんで?」


 今ランディと目を合わせられない。さっきからエストは横を向いている。鍛え上げられて筋肉がついたがっしりとした腕から、水が滴り落ちていた。


 しかし、先程なんで?と口にしたその言葉は、幼い子供が親に疑問を投げかけた時のそれに似ていた。彼は純粋に、エストの行き先を気にしているだけだ。


(考えるのです、この場をうまく誤魔化せるような行き先を……)


 ……やはり、あれか。あれしかないか。

 少し口ごもりながらも、エストは行き先を告げた。


「……女の子のところです」


「女の子?」


「ほら、あなたも男なら分かるでしょ。……そういう、その、花街の……」


 ちらりとランディの顔だけを見れば、彼はぽかんとした表情をしていた。


「あ……あー! そうだったか……!」


 ランディは苦笑しながら、壁についていた手を退けた。咄嗟に付いた嘘だったが信じてくれたようだ。


「悪りぃな。お前がまた何処かに行ったまま、戻って来なくなるかと思って」


「あのですね……僕をなんだと思っているんですか。子供じゃないんですよ?」


「そうじゃなくて……お前が次に俺の前から居なくなったら……夢見たいなこの状況が終わっちまうんじゃないかと思って……もう二度と会えなくなるんじゃないかって思って……」


 ランディは縋るようにエストの腕を掴んだ。


「……エスト、何処にも行かないでくれ……ずっと側に居てくれ……」


 まるで親を求める子供のような、孤独と悲痛をランディの瞳の奥に感じた。


「ランディ。そういうのは僕のような人ではなく、将来伴侶となるような人に言うべきですよ」


「……そうだな」


 エストはゆっくりとランディの手を自分の腕から外した。ランディは苦笑しながら、外された手を引っ込めた。


(ランディがこうなってしまったのには、私のせいな気がします……殆ど刷り込みのようなものですけど……)


 たまたまエストが近くにいて、彼に手を差し伸べたら、その手を掴まれて離してくれなくなったようなものだ。

 手を差し伸べたのがエストじゃなければ、きっと彼は同じことを他の誰かにやっていたはずだ。


(慕ってくれているのは嬉しいですが、少々度が過ぎます。将来のことを考えて、もう少し私以外の人にも目を向けて欲しい……)


 そうなればきっと、彼はエストに拘ることもしなくなる。……それが簡単ではないのは、よく分かっているけれども。

 最近は他の冒険者たちや、ジャスミンやレイモンと打ち解けた様子だったから油断していた。

 この一ヶ月、一緒に行動していたせいもあるか……。やはり少し距離を取るべきか。


「それにしても、エストにそういう女の趣味があったとは」


「……そんなに意外ですか?」


 女の趣味も何も、本当は女なのだが。

 ただボロが出ないように会話を合わせた。


「ああ、お前ってなんかそういうのに行かないイメージがあって……潔癖って言うか真面目と言うか」


「そう言うランディはどうなんですか?」


「え、ないけど? 俺にそういうことが出来ると思うか?」


「……すみません、聞かなかったことにします」


 他人を寄せ付けさせない時点で分かることだった。

 聞かない方が互いのためだった。


「それで花街に行くんだな?」


「ええ、まぁ……」


「俺も付いていっていいか?」


「……!? ダメに決まってます! 僕は一人で行きたいんですよ! そんなキラキラとした興味津々な目をしてもダメです、連れて行きませんよ!」


「そんな〜エスト〜」


 何がそんなに気になると言うのか。

 そんなに女の趣味が気になるのか? それとも花街の女性が気になるのか???


 エストはさっさと部屋から出て、宿屋の廊下に出た。ランディは全裸だったので流石に廊下まで追いかけて来なかった。

 ……というか今まで全裸だったなぁと余計なことまで思い出してしまった。


(ああもう! これから兄に会いに行くのに、なんてもの見せられたんですか! ランディのバカ!)


 ペシペシと頬を叩いて、今起きたことを何とか頭の隅に追いやる。

 これから大事な時だってのに、まったく予想外な出来事で時間を取ってしまった。

ちなみにレイモンとランディはわりと平気でそういう話をする。男子中学生みたいなノリで。

ランディがどうしてこうなってしまったのかは、次の話で少しわかります。

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