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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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17.収穫なし

 エストたちは依頼人のユーインと共に、北の修道院まで到着した。

 ここまで来るのに一日と半日。前回の修道院まで行くのに三日も掛かったのは馬車でゆっくりと移動したからだ。

 今回は馬で出来るだけ早く移動したため、前回より早かった。……最もエストは自分の足で行けば半日も掛からない距離だが。


「修道院にはやっぱりいなかったですね……」


「ええ……」


 ジャスミンの言葉にユーインが頷く。二人は先程、修道院の中に礼拝をしに来たと言い、中に入れてもらっていた。

 もう一度、今度は自分の目で確かめたいというユーインの願いから、修道院を訪れたのだ。

 ユーインに同行したのはジャスミンだけ。エストは仮面を被っていて目立ち過ぎるし、ランディは言わずもがな。騎士嫌いのレイモンは、まだユーインのことは苦手なようで、結果的にジャスミンだけが付いて行った。

 ……正直に言って、【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】は実は人探しの依頼を受けるには向いていないパーティだ。

 戦闘能力だけで見るなら他の追随を許さない実力を持っているが、ジャスミン以外は人探しに使える能力があるわけではない。

 しかしユーインはそれを承知で彼らに依頼していた。というのも、どこかに囚われているなら戦力はあった方がいいと考えているからだろう。


「とりあえず、また山道を降りながら手掛かりがないか探してみますね、ユーイン様……じゃなかったジョンさん!」


「はい、お願いします」


 そう、妹のエステルは何かしらの陰謀に巻き込まれている可能性が高い。そのため、エストたちは出来る限り目立たないように行動していた。

 ユーインも今は完全に偽名を名乗って変装している。ギルドでは自分の立場を示すための軽い変装であったが、今は髪色も変わっていた。

 ローアンバーの長髪となった髪を後ろで束ね、眼帯を外し、代わりに前髪で顔の左側を隠していた。

 唯一見える片目も髪と同じ同色に染めている。

 鮮やかな色や目立つ眼帯が無くなったことで、地味な印象に変わっていた。


(いつものお兄様も素敵ですが! こっちのお兄様もすごく素敵です!)


 変装姿の兄なんて、レア中のレアだ。こんなこともあろうかと、今回は抜かりなく写影機を持ってきている。なので隙を見て撮っておこう。

 しかも撮影音もしない小型の物を大金叩いて作ってもらったのだ。どう見ても盗撮目的のヤバい代物だが依頼などで魔物相手に使うと言ったら、S級の貴方が言うならと作ってくれた。S級の肩書きって便利。


 ユーインをこの姿に変えたのは当然、変幻魔法だ。いつもは付けていない指輪をしているから、それが変幻の魔道具だろう。

 髪や目の色を変える程度の変幻の魔道具はファションとしてよく使われているから、様々な形で出回っていた。



「全然手がかりが見つからなーい!!」


 ジャスミンが頭を抱えながら机に突っ伏した。

 結局山道を歩いても特に収穫もなく、麓の街までやってきた。その街中でも聞き込みをしてみたが、特に有力な情報は掴めずに今日が終わった。

 仕方なく調査を諦め、夕食を食べるため訪れた食堂のテーブルを、ユーインを含めた五人で囲んでいた。いや正解には一人、ランディだけはそこから離れて食事を摂っているが。


 ちなみにユーインは公爵家の従者などは連れて来ていない。目立たないために敢えて連れてこなかったそうだ。

 王家からは妹に接触することは禁止されているから、オルブライト家の者がこの修道院周りにいたと目撃されては面倒だからだろう。

 だからこそ変装しているとは言え、兄本人が来るなとは少し思うが。


「修道女さんにそれとなく妹さんのことを聞いてみたけど、ちゃんといるって言われたわ。でも妹さんは見当たらなかったのよね」


 流石に修道院の奥まで調べられなかったけど、とジャスミンが嘆息しながら言う。

 ちなみにエステルとしての姿はユーインが持ってきた写真を見て全員覚えていた。


「街の噂も対して王都とは変わりありませんでしたね。あの修道院に令嬢が入ったというのは周知の事実のようでした」


 エストがしれっとそう言う。

 どうやらあの院長は上手く誤魔化し続けているようだ。大量に寄付金を置いていって良かった。

 修道女だからてっきり嘘は付けないとしてすぐバラすかと思っていたが……そうでもないらしい。


(それともすでに王家に報告済みで、変な騒ぎにならないように今度は王家から口止めされたのでしょうか……うーん、分からないですね。本当に何を考えているのでしょうか……)


 どちらにせよ、王家の動きは見えないので考えが読みづらい。


「オレが聞いた話は平原を高速で走る人影の噂くらいだなぁ……」


「なにそれ、絶対関係ないでしょ」


「だよなぁ……」


(それ、絶対私じゃないですか! え、あれ見られていたんですか!?)


 修道院から王都まで全力で走った姿を見られていたとは……。

 まさかそれが妹のエステルの唯一の手掛かりだとは誰も思っていないようだが。


「他に分かったことは、馬車を護送した騎士たちはこの街に来たことですね。私も王都に戻ってきた時に話を聞きましたが、全員エステルはあの山道の入口まで送り届けたと言っていました。……彼らが嘘をついていたようには見えません」


「あんたの身内だからそう思うだけなんじゃないのか?」


「そうかもしれませんね……」


 レイモンの嫌味のような物言いを、ユーインは渋い顔をして受け取る。

 ユーインだって騎士の仲間を疑いたくないが、そう考えなければエステルが忽然と消えたことの説明がつかない。真実は本人が自らの意思で消えただけだが。


(これ以上、兄にも家にも迷惑は掛けられませんね……今夜にでもエステルとして会いに行きましょう)


 そしたらこの捜索依頼もきっと打ち止めになる。

 ユーインのことだから途中で切り上げても依頼料は払ってくれるだろう。

 ジャスミンたちは不思議に思うかもしれないが、これ以上見つからないものを探してもらうわけにもいない。


「そういえばエスト、今日の宿の部屋なんだけど」


「ああ、部屋の鍵ですか?」


「うん、これ鍵ね。なんか祭りが近いってことで殆ど部屋が空いてなくて、三部屋しか取れなかったんだ。だからランディと相部屋だから」


「はい分かり……え? 相部屋ですか……?」


 思わずランディの方を見る。彼は今の会話は当然聞いていたのだろう、嬉しそうに笑って手を振った。


「まさか、ダメだった?」


「いえ、そんなことはないです。大丈夫ですよ、ジャスミン」


(……全然大丈夫じゃないんですけど!)


 今まで相部屋などしたことはない。当然、自分の正体がバレるのを恐れて避けていた。

 パーティを組んでからもそれは変わっていない。泊まる必要がある依頼の時は部屋は一人一部屋取っていた。金欠のパーティなら男女であっても一部屋に泊まるが、【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】はA級パーティだ。金には困っていないので、一人一部屋が常だった。


 しかし、今回は三部屋しか取れなかったと言う。

 しかも依頼人であるユーインもいる。当然パーティメンバーでもなければ、貴族で依頼人であるユーインには一人部屋を与えるべきた。


 残りの二部屋の分け方は簡単だ。片方は双子で埋まる。このパーティ唯一(・・)の女性であるジャスミンを、流石に他の男性と一緒にするわけにはいかない。

 なら男であっても双子の弟であるレイモンが、必然的に彼女と相部屋になる。


 あとは残ったランディとエストを余りの部屋に入れれば完璧だ。


(何も、完璧じゃないです!! 私も女性なんですけど……!)


 今になって男装していたことを悔やむ。性別を明かしていればジャスミンと女子同士の相部屋だったのに。

 しかし自分の正体を隠すために徹底した結果、性別まで隠してしまったのだから仕方ない。


(いや、相部屋よりも問題があります……)


 今夜、エステルとしてユーインに会いに行くつもりだった。しかし、相部屋となると部屋を抜け出すそのタイミングを測るのも難しくなる。

 どうしようかと悩んでいるうちに、夕食の時間は終わったのだった。



この兄にしてこの妹。君も相当なブラコンだよ……。

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