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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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16.追跡のプロ

「……すみません、見苦しいところをお見せしました」


 依頼を受けただけで感激していたユーインがやっと落ち着いたらしい。

 いつもの生真面目な、悪く言えば堅物のユーインに戻っていた。


「全く、まだ妹さんを見つけた訳でもないってのに……」


「でも安心して! 妹さんはすぐに見つけるわ! なんたってあたしがいるもの!!」


 思わず呆れるレイモンの後に、自信満々にジャスミンが言った。


「どういうことでしょうか?」


「それはね、あたしが《追撃者》の【恩寵(ギフト)】持ちだからよ!」


 ジャスミンは【恩寵(ギフト)】を隠していないため、素直にその名を口にした。レイモンも隠してはいない……というのも二人の【恩寵(ギフト)】は分かりやすいから、隠してもあまり意味がない。


 《追撃者》とはその名が示す通り、逃げる獲物を追いかける能力に長けている。……つまり、こういった追跡調査にもってこいの【恩寵(ギフト)】だ。

 さらにジャスミンの【恩寵(ギフト)】は狩猟と森の女神フリージアと冒険と風の神ヴェンディの力が混ざったレアなものだ。どちらの神も追跡には適した力があり、僅かな手掛かりさえあれば、簡単に対象を探し出せる。


「何か、妹さんの私物とか関係があるものはありますか? できれば普段使いしているような物とかがいいのですが……」


 流石に依頼をしに来た当日だ。そんな物は持って来てはいないはず――


「ああ、それでしたらエステルの髪の毛ならここに……」


(……お兄様!?)


「妹が修道院に行ったその日から、肌身離さず持ち歩いていました」


(お兄様!?!?????)


 胸ポケットから大事そうに取り出した小さな布の袋の中から、銀糸のような長い髪の毛を数本取り出してみせた。


 なんで自分の髪の毛なんて持ち歩いているのか。あとそれお守りみたいじゃないか? 本当に一ヶ月前から持ってるの??


 何かの間違いかと思って見てみたが、どう見ても自分の髪の毛だ。本当になんで持っているの?

 兄の髪と殆ど同じだが、真っ直ぐで癖がない兄の髪質に対して、エステルの髪は母親譲りのゆるい癖がある。父親の髪も同じ色だが、父親のは短い。


(いやでも……私も同じことするかもしれない……)


 兄のユーインが居なくなったら……と考えたら自分も心配と不安から同じことをしそうだ。……なら、この行動はきっと普通だ。何も問題ないはずだ。


「……そ、そうなんですか」


 ……ダメだ。ジャスミンがちょっと引いてる。レイモンもそんな顔している。ランディだけはちょっと驚いている感じだった。

 まぁこの部屋にはユーインとエスト以外はこの三人しか居ない。世間一般的にはまた違うかもしれないから、きっと普通なはずだ。そう思っておこう。

 だからそんな残念なものを見るような目で兄を見ないであげてほしい。本当に。

 兄はただ、エステルを心配しているだけなのだから……ちょっと心配し過ぎてしまっているだけで。


「髪の毛で大丈夫ですか?」


「はい! むしろこれ以上ないほどに!」


 ジャスミンは髪の毛の一本を拝借すると、自分の手のひらに乗せた。


「かの者に導け、〈追跡(チェイス)〉」


 髪の毛が魔力を帯びて僅かに光り始める。

 ジャスミンは今までの依頼でも、逃げ出した魔物を見つけるためにこの力を使っていた。魔物の足跡から、抜け落ちた体毛、流れた血痕など。

 痕跡が一つでもあれば、どこに隠れようと《追撃者》からは逃げられない。――だが。


「――えっ!? 痛っ!?」


 バチリと彼女の手のひらの上から火花が散った。それは強い光と共に彼女の手を焼いた。

 痛みでジャスミンが手を振ると、銀の髪の毛はひらひらとテーブルの上に落ちていく。


「ジャス、大丈夫か!」


「大丈夫、ちょっと火傷しただけ……」


「見せてください。治療します」


 ユーインがジャスミンに治癒魔法を施す。

 さすが、《聖騎士》だけあって、治癒魔法は使えるのだ。


「今のはどういうことでしょうか……」


「……たぶん、何かの力に追跡を妨害されたのだと思います。あたしの追跡を振り切るなんて……相当高度な妨害魔法ですよ」


 ジャスミンはA級冒険者だ。そんな彼女の《追撃者》の能力を妨害できるのは、同じA級かそれ以上の能力を持つ者に限られる。


「では……エステルはやはり何者かに攫われたと考えられますか、それも相当な実力者に……」


「その可能性が高いと思います……」


 ジャスミンの言葉に、ユーインの顔が曇っていく。


「あの! でも安心してください! この魔法が反応したということはエステル様は生きてます! この魔法は死者には効果がなくて!」


「そうなのですか……!」


 その言葉に僅かに希望を抱いたユーインだった。

 今まで生死も分からなかった状態から、生きていると明確な情報が出たからだろう。


「良かった……。いえ、まだ良くないです……早く助けに行かないと」


 安堵したのも束の間、ユーインはすぐに険しい表情をした。


(……やっぱり、無理ですよね)


 テーブルの上に落ちたままの自分の髪の毛を、エストは見つめて溜息を付いた。追跡が失敗したことの安堵が半分、やっぱりそうなったかという呆れ半分。


 ジャスミンの追跡魔法を妨害したのは他でもない、《女神の寵愛》だ。

 《女神の寵愛》は自身を対象とした魔法を無効化(レジスト)してしまう。当然、今回の追跡魔法もその無効化の対象になったようだ。


 以前、依頼中に一人逸れたエストに対して追跡をかけられた事がある。その時も今と同じように、無効化されてしまったとジャスミンが言っていた。


『S級のエストだからそういうこともできるよね!』


 流石に《女神の寵愛》のことは言えないので、はぐらかしたら、妙な納得の仕方をしていた。S級の肩書きって便利。


「……一先ず、ここで出来ることはこれくらいです。修道院まで行ってみれば他の手がかりがあるかもしれません……」


「分かりました。ではそちらまで行きましょう」


「ランディたちもそれでいいよね?」


 ジャスミンの言葉にエストたちは頷いた。

 これから手掛かりを求めて北の修道院まで行くこととなった。

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