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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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14.自分探しの依頼

 詳しい話は別室で。ということになりギルドフロアから相談用の個室に場所を移した。

 ここは他人に聞かれたくない秘匿性の高い依頼に関して相談をするための部屋でもあり、盗聴対策の防音魔法が張られていた。


 部屋の中央には、低いテーブルを挟んで向かい合わせに置かれたソファが二つ。

 片側のソファにエストとジャスミンが座り、反対側のソファにユーインが座った。

 レイモンは一人掛けの椅子を持ってきて、近くに座る。ランディは相変わらず依頼人のユーインから距離を取るように、部屋の隅に立っていた。


「これから話すことは公表されていないものですので、どうか内密に願います」


 そう前置きをしてからユーインは話し始める。

 帽子が取り払われ、隠していた長い銀の髪がさらりと揺れた。


「改めまして、私の名はユーイン・オルブライトと申します。今日はオルブライト公爵家の嫡男として参りました」


 わざわざ公爵家の名前を出したのは、これが個人的な依頼であると示すためだろう。

 先程言ったように騎士……騎士団の副団長という、王国の関係ではないという意思を明らかにしてきた。


「……オルブライト公爵家って、この前、婚約破棄されたっていうあの公爵令嬢の?」


「レイ、まさかそれ知らなかったの? 知らないでこの方にあんな口聞いてたの?」


「ごめん、だって言われてみればそうじゃんって今なって!」


「このバカ……!」


 何やら慌て始めたレイモンに、頭を抱え始めるジャスミン。話が止まったことで慌ててジャスミン謝りながら、ユーインに続きを促した。


「ええ、その婚約破棄された令嬢が、私の妹のエステルです」


 ……久々に兄から自分の名を呼んでもらったが、それがまさかこんな形になるとは。

 仮面で隠しているとはいえ、表情がバレていないかエストはひやひやとしていた。


「あれ、でもそのエステル様って確か聖女だと嘘をついただとか、真の聖女様を暗殺しようとしていたとかで捕まって修道院に送られたはずじゃ――」


「――私の妹は断じてそんな非道な行いをしておりません」


「……ひっ!?」


 アイスブルーの独眼がギロリとジャスミンを睨んだ。まるで鋭い氷の刃を思わせる視線に、彼女は思わず隣に座っていたエストの裾を掴んだ。


(……お、お兄様?)


 エストもそんな兄の姿に内心驚いていた。こんな兄の姿は見たことがない。


 失礼、と兄は一旦目を閉じて落ち着かせるように息をはいた。再び目が開かれた時に、鋭さはなくなった。


「妹の処罰については我が公爵家としては納得がいっておりませんが、確かにエステルはその罪で罰せられ、修道院に送られました。……しかし、私が個人的に調べたところ、その修道院にエステルの姿はなかったのです」


(し、調べたんですか!?)


 まさか兄が調べるとは思わず、エストは仮面の下で驚いた。……本当に今、顔を仮面で隠していてよかった。

 エステルでいる時は表情を殺せるが、エストとしている時は仮面がある油断からか、表情が出やすいのだ。……何も気負う必要がなく、自分らしくいられるからというのもあるが。


「王家からは私たち家族は彼女と会うことは禁止されていました。……しかし、どうしても気になり、人を遣わせて様子を見に行かせたのですが……まさか、姿がないとは思わず……」


 ユーインの顔色がどんどんと悪くなっていく。

 よく見ればその目元には隈ができており、少しやつれていた。こんな兄の姿も見たことがない。


「もしかしたら、何かの陰謀に巻き込まれたのかもしれません。修道院に送るというのはただの建前で、本当は妹を別の場所に移送したのかもしれません……。しかし、他に手がかりはなく、妹が、エステルが無事かどうかも分からなくて……!」


 突然、ユーインは立ち上がると、エストの側に跪き、その手を懇願するように取った。


「王家や他の貴族は信用できない。当然所属する騎士団もです。……もう頼れるところがここしかなかった。あなた方は高ランクの冒険者。その評判と腕を見込んで頼みます……どうか、私の妹を、エステルを探し出してください……!!」


(いや、その……私はここにいますけど……!)


 ……とは、やはり口が裂けても言えなかった。


(確かに王家の陰謀には巻き込まれたような感じですが、自分から抜け出したんですよね……。だから王家はそんなこと知らないと思うんですが……お兄様から見たらそうなりますよね……!?)


 心配してくれるのは非常に有難いのだが、少々困ったことになってしまった。心配をかけてしまったことも申し訳なく思う。


(というか、お兄様は私のことは気にもしてないと思っていたのですが……)


 そう思っていたのだが、どうやら違うらしい。

 何も言えずに黙っていたら、ユーインは焦ったように顔を歪ませた。独眼のアイスブルーは悲壮感たっぷりに震え、エストの手を痛いくらいに握り締めた。


「本当にお願いします……! 妹は清らかで美しく、それでいて儚い子で……今もきっと見知らぬ地で心細く震えているのではないかと思うと、私はどうにかなりそうで……」


(清らかで美しく、それでいて儚い子……? それって誰の話でしょうか……?)


 きっと自分のことだろうが、その特徴はどうにも合わない。本当に自分の話だろうか?

 ……いや、静寂の令嬢と呼ばれていたのだから、そう見えても仕方ないかもしれない。

 銀糸のように細い髪に、宝玉のような瑠璃の瞳。エステルの見た目は人形のような美しさがある。

 女性にして少し高い背があるが、それを抜きにしても庇護したいと思わせる。

 ……断じて剣を振り回して魔物と戦ったりするバイオレンスさも、修道院から勝手に抜け出してきたりするアグレッシブさも、絶対に想像できない。


(いっそのこと今、私の正体を話そうかと思いましたが……それを言ったら私がS級の冒険者だと言うこともバレるわけで……)


 それはあまりにも、兄が語る妹像とはかけ離れている。天と地ほどの差だ。


(……い、イメージと離れ過ぎているから……お兄様に嫌われるのでは!?)


 こんなにも自分のことを心配して心を痛めてくれている兄に、実は自分から勝手に抜け出してきたのだとは言えなかった。最悪幻滅されて、嫌悪されるかもしれない。いやきっとそうなるに違いない。

《女神の寵愛》の本当の力がバレることよりも、何よりも恐ろしい事実に直面した。


(言えない……絶対に私の正体は言えない……! お兄様に嫌われたくない……!!)


 兄に嫌われることが、何よりも一番、耐え難いことだ。


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