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公爵令嬢の隠しごと 〜巷で噂のS級冒険者、実は私です〜  作者: 彩帆
第二章

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13.よく知っている依頼人

 S級冒険者エストが本格的に冒険者として活動を始めて早一ヶ月。

 すでに王国中ではエストと、そして共に行動するA級冒険者パーティ【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】の話題で持ちきりだった。

 エストは【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】に加入することを渋っていたが、ことあるごとにランディが依頼に誘ってきた。

 依頼を一緒に受けることが多くなり、結局加入しているのと変わらなくないか?となり、なし崩し的に入ったのだった。


 そんな彼らと一緒に解決した依頼はどれも楽しかった。

 東の平原に現れた音速で走る馬の捕獲。川に大量発生したヘドロスライムの退治。サンダーバードに連れ去られた人の救助など。

 ソロの時は受けなかった依頼を受けたりと、なかなか新鮮だった。


「なんというか……エストがここに居るのが夢みたいだな」


「それもう何度目ですか、ランディ……」


 朝のピーク時を過ぎた冒険者ギルド【魔女の翼(ウィッチ・ウィング)】。

 フロアに備え付けられたテーブル席で、いつものように依頼の相談をしようとした時に、ランディがそう言った。


「だって月一会えれば運がいいくらいに、今までのエストとは会えなかったからさ。急に毎日のように会えるようになったら、夢みたいだと思うだろ?」


「確かにそうよね〜」


「なんで急にこうなったのか、気にならないと言えば嘘になるよな」


「あはは……まぁ色々とありまして……」


 言えるわけがない。婚約破棄されたから自由の身になったのだと。しかも、殆ど抜け出してきたようなものだ。


(今のところ、王家は私の逃亡に気付いていないみたいなんですよね。もしくは気付いていて放っておいているのか……)


 メリナは正式に聖女として発表されており、彼女がリナルド殿下の新しい婚約者となるそうだ。

 ここまでは想定通り。問題は自分のほうだが、エステルに関する噂は修道院に送られた情報から変化はない。

 気づいていないなら好都合。放っておいてくれるなら、何も問題はない。

 困るのは捜索をされることだが……多分エストまで辿れないはずだ。

 公爵令嬢とS級冒険者を結び付けることは出来ないはずだ。婚約破棄してからこっちの活動が増えたとは言え。


(なんであれ、もうしばらくは冒険者稼業を楽しめそうです)


 さぁ今日の依頼は何にしようか。高難易度系は大体片付けてしまった。残っているのは遠方まで行かなければ達成出来ない長期依頼ばかり。

 今までそう言った長期依頼は避けていたから、それを受けてみるのもいいかもしれない。そうと決まればランディたちと相談を――


(……ん?)


 ギルドの入口から一人の男が入り、フロアを横切っていく。カウンターに向かっていくその男が、なぜか気になった。

 思わず〈感覚強化(センスブースト)〉で視力を強化して男を観察した。

 服装からしてあれは冒険者ではなく依頼者だ。簡素なシャツとジャケットを着ているが、立ち振る舞いに高貴さが抜けていないところから貴族だろう。

 帽子をかぶっており、髪をそこに収めているのか髪色は分からない。

 しかし、その横顔は凛々しい顔付きをしているが、不釣り合いな無骨な眼帯を左目にしていた。……とても、見覚えがある。というかあれはまさか。


(……ゆ、ユーインお兄様!?)


 どうして? なんでここに? まさか自分を探しに来た!?

 内心慌てながら、エストはカウンターで受付嬢と会話をし始めた兄の背中から目が離せなくなった。


(え、受付嬢と目が合った? ちょっとなんでこっち来るんですか!?)


 自分たちのテーブルの方に受付嬢とユーインがやってくる。真正面からも見たが、軽い変装をしているがやはり見間違いでもない、自分の兄だ。


「……エスト、悪いけど対応頼む」


「え……ああ、あれですね」


「会話は聞いてるから」


 エストが慌てる中、ランディが席を立ち、テーブルから一人離れていく。そのまま壁際まで行き、背を預けた。


「【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】の皆さん、ちょっとお話をいいでしょうか?」


「……構いませんよ」


 全然構うのだが。できれば今すぐこのテーブルから自分も離れたい。

 近付いてきた受付嬢が離れたランディのことには気にせずに、エストに話しかけてきた。

 なんとか冷静を装って、言葉を返した。


「実はこの依頼人の方が、このギルドで一番優秀な冒険者パーティに依頼をしたいとのことでしたので……」


 一番優秀……となればやはり【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】だろう。

 A級のパーティは他にもいくつかあるが、その中で唯一S級冒険者が所属しているのが、この【導きの星火(ヴァンガード・ライト)】である。

 一番優秀と聞かれて紹介されるのは当然だ。


「先日は世話になりましたね」


「……ええ、お久しぶりです」


 ユーインが帽子を押し上げて顔を見せてきた。ジャスミンとレイモンも彼が誰であるかに気付いた様子だ。

 レイモンは不機嫌そうにユーインを見上げており、ジャスミンは弟の様子に気が気でないので、必然的にエストが対応することになった。

 このパーティのリーダーは今壁際にいるし……。


「えっと……彼は……」


 ユーインも壁際に移ったランディが気になるのだろう。不思議そうにちらりと壁際を見た。


「彼はその……怖がりなんですよ」


「うちのリーダーは極度の人見知りというか……そんな感じで……」


「……そんな感じには見えないのですが」


 エストとジャスミンの言葉に、ユーインは片目を少し瞠って、再びランディを見た。

 確かに一見すれば想像も付かない態度だが、ランディは昔からああだった。


「あんたみたいな騎士には近付きたくないのかもな」


「レイ! ……すみません、弟が失礼なことを!」


 レイモンの不快を隠さない言葉に、ジャスミンは慌てながら代わりに謝る。


「いえ、お気になさらずに。……しかし一つ言わせて頂きますが、今日は騎士としてではなく、私用でここに参りましたので」


「私用……ですか」


「ええ、人探しをお願いしたいのです。――あなたたちに探し出して欲しいのですよ、私の妹を」


 ……妹。ユーインの妹とはエステルである。

 つまり、エステルの捜索依頼を、エストたちに依頼しに来たということらしい。


(わ、私の捜索依頼が、私に来るんですか!?)


 ……あなたの探している妹は今、目の前にいる。とは流石に口が裂けても言えなかった。

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