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10.私のお兄様

「それにしても……あの人綺麗でイケメンだったなぁ」


「うわ、また始まった……」


 ジャスミンがうっとりした顔をし出して、レイモンの顔が渋る。

 実はジャスミンは顔のいいイケメンが好きだ。恋をしているというより、綺麗なものを眺めていたい推したいという感覚のようだが。


「あの人って副団長のユーイン様よね! 噂では聞いてたけどあんなに格好いいだなんて! サインもらっておけば良かったかな?」


「あんな全身から冷気垂れ流してるみたいな奴のどこが――」


「とても分かりますよ、ジャスミン」


「え、エスト兄ちゃん……!?」


 ジャスミンの言葉に速攻で何度も頷いた。


(そう、私のお兄様は超格好いいのです! 今日のお兄様もとてもクールで最高でした!!)


 今も後ろで現場の指揮を取る兄の姿は実に格好いい。普段の仕事姿を見ないから貴重だ、ぜひ目に焼き付けていきたい。

 エストは表には出さないが……密かに兄のことを推していた。馬上から降りてきた時なんて思わず手を振りそうになった。

 そんなことはできないので、グッと堪えて心の中で手を振ったが。


(今日一日だけで普段見れないお兄様の姿が沢山見れました……ううっどうして写影機がないのですか……ぜひ撮りたかった……)


 写真を残せる魔道具が手元にあれば、きっとずっと撮り続けていただろう。もちろん盗撮で。

 当然だが、こんな姿を兄に見せたことはない。そんなことをしたら引かれるかもしれないからだ。

 大好きな兄に嫌われるのが、一番嫌だ。


「エストーーー!」


「うわぁ!?」


 兄のことを考えていたせいか、ランディの突撃に反応が遅れた。そのまま押し倒されるように、二人で地面に転がった。


「あ、悪りぃ!」


「いえ……大丈夫、です」


 エストなら必ず受け止められると思っていたのか、ランディが慌てていた。


「ランディ兄ちゃん、聞いてくれよー! ジャスもエストもあの副団長が格好いいとか言うんだぜ……!」


「ああ……ユーインか。あいつは確かに格好いいよな」


「嘘だろ……ランディ兄ちゃんも!?」


 ランディの反応にレイモンは一番驚いていた。まさか彼まで同意するとは。


(あれ?)


 ……たが、ユーインの名を口にした時、ランディは僅かに眉を寄せていた。

 疑問に思う前に、ランディはエストの上から離れて立ち上がった。ランディは手を差し伸べてきたので、その手に捕まって立ち上がる。


「なんでだよ……オレはあんな奴より、ランディ兄ちゃんの方が格好いいと思ってるのに……」


「ははっ、そう思ってくれてたのか! ありがとな、レイモン!」


 レイモンの言葉に、ランディは満面の笑みを浮かべる。そこに先程見えた陰りはもうない。


「確かにランディもイケメンだけど……」


「おや、ジャスミンが悩むとは」


 ランディは確かに顔立ちが整っている。鮮やかなオレンジの髪に金の瞳。笑顔が似合う青年で、彼のファンは多かったはずだ。


「ちょっとこう、子供ぽいのがね?」


「あはは、確かに」


 ずいぶん前にランディに嬉々として見せたいものがあると言われたことがある。なんだろうと見に行ったら、虫の抜け殻だったのだ。


 ジャスミンはパーティを組んで、ランディのことをよく知ったから、そういう感想が出てきたのだろう。

今は兄のように慕っている様子だ。レイモンがランディを慕っているのも、いい兄貴分だからだろう。


「あ、エストのことも、もちろんイケメンだと思ってるよ!」


「僕は素顔を隠してますけど?」


「確かにあたしは見たことないけど、エストは雰囲気というか、佇まいがイケメンなの!」


「そうですか? ありがとうございます?」


 よく分からないがそう返しておく。

 エストの仮面の下に付いては色々と憶測があるが、一番の説はひどい怪我の痕が残っているからだと言われている。

 冒険者を始めた頃、顔を隠す為に仮面ではなく包帯を顔に巻き付けていたから、こんな噂が広がってしまったのだろう。都合がいいので、肯定も否定もしてないが。


「僕はジャスミンのことは、可愛らしいと思ってますよ」


「そういうところだよ、エスト」


 お返しとばかりに褒めたら、何故か呆れられた。

 でもジャスミンは年相応で可愛らしい少女だとエストは本当に思っている。


(それに年代が近くて、気の置けない女性の友達ってだけで貴重ですし……!)


 エステルの方にはこんな風に気楽に話せる友達はいなかった。公爵令嬢と王子の婚約者という立場が、周囲との壁になっていたのだ。

 まぁジャスミンはエステルのことを、男のエストとして見ているから女性友達とは言えないのが残念だが。

 叶うことならいつか、ジャスミンと女子らしい会話をしてみたいと密かに思っていた。

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