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プロローグ

カクヨムから

 私は、どこか欠けているのだと思う。

 それがなんなのか。

 あるいは愛情。

 あるいは憎しみ。

 あるいは生きる意味。

 あるいは全て。

 嘘を重ね、嘘を固めた私には自分の存在すらも、怪しいものだ。どこから私の自己認識が正しくて、どこから私の自己認識が誤っていて。本当の嘘つきとは、自己認識すらもままならないのだろうか。

 『無知の知』という言葉があるけれど、この場合は無知なのかすら不明瞭だ。

「そんな事はわかんないぜ。案外、目を逸らしているだけなのかもな、自分自身によぉ」

 そうなのかもしれない。私は、知るのが、見るのが、自覚するのが恐ろしいのかもしれない。そうだとするならば、それは臆病で、知らないという事実に安心感を得ている引きこもりにすぎない。

「へーん。随分と自虐的じゃんか」

 自虐的とは少し違うかもしれない。向き合うのが恐いなんて思っていると仮定した推定深層心理に対する私個人の憤りだ。

「自分の深層心理に自分自身が憤るねぇ。なんとも珍妙な一人芝居だこって」

 そうだ。これは私個人の一人芝居にすぎない。どこまで行っても深層心理は私で、自分自身とあたかも別人のように語っている存在も私自身なのだ。それは哲学的で、心理学的で。なんと称すればいいかごちゃ混ぜで――

「――脳みそが焼け切れそうってな。まあ、自問自答ってのは難しいもんだよな。段々、頭をシェイクされていく。数多の人間を破滅に導いてきた<人類自滅機構>なんて大層な呼ばれ方をしている詐欺師様も、身体は意外と人間的なんだな。てっきり血も涙もないと思ってたぜ」

 そう言って、ケラケラと笑う。……とても心外だ。<人類自滅機構>なんて、おおよそまともな人間につける二つ名じゃない。(そんなことを発言したら「まともじゃねえんだから当然だろ。私に対してつまらねぇ嘘をつくんじゃねぇよ、詐欺師」と返された)それに、私だって《《一応は》》人間だし、血も涙もあるつもりだ。

「『一応は』とか『つもり』ってなんだよ。お前は詐欺師だろう。保険とか、躊躇いとか必要ねぇんじゃねぇのか?」

 それもそうだが、今までの自分が揺らぐのは恐ろしい。嘘というのは、バレなければ幾らでも真実として扱える。しかし、裸の自分というのは誤魔化しが効かない。真向勝負だ。私のような卑怯者には、捻くれ者には難しいのだ。日の当たる場所に出るのが。

「まあ、本当は自分がどうとかどうでもいいんだよ。要するに、欠けているものがわかんねえんだろ。なら、良いじゃねえか。それでよぉ。存在していることすら不明瞭な物なんざ、気にする必要ねぇだろ」

 私の中の何かが、吹っ切れたような気がした。

 あの屋敷に集った人間誰しもが、なにか欠けていた。欠陥品だったのだ。

 例えば天才闇医者。

 例えば天才画家。

 例えば奴隷商。

 例えば大学教授。

 ……例えば同級生の神童。

 皆誰しも、どこか欠けている。唯一人の例外もなく。

「そうだ。欠けていねぇ人間なんざ唯の一人もいやしねぇ。いたら逆に怖えよ。そして、一人一人欠けているものが違がえば、人それぞれ見ている世界も変わってくる」

 ブルッと、震えているような演技をする。驚くほど似合っていない様に、心の中で苦笑を浮かべる。そう思えば、悩みがちっぽけとさえ感じられる。

「いい顔になったじゃねえか。で、だ。聞かせてもらおうじゃねぇの。お前から見た世界を」

 世界、ね。世界は90パーセントの嘘と、10パーセントの真実によって構成されている。

 私はそう考えている。

 狂気に塗れ、

 快楽に支配され、

 それでも奏でられ続ける演目。

 コーダは何時までも訪れない。

 そんな世界で、私は《《歌う》》。

 とびっきりハッピーな《《嘘》》を。

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