せっかち勇者の犬死
「勝手にこの世界にお呼びしてしまい申し訳ない。しかしお願いです、勇者様よ、この世界をどうか救っていただきたい」
気が付いたらいきなり王道RPGのお城のような場所にいた僕は、なにやら高級そうな服と豪華なマントを身に着け、冠を頭に乗せた初老の男性に頭を下げられていた。
そしてその男性、つまりは王様の話を聞いている内に、どうやらこれはいわゆる異世界転移というものであるらしいと察しがついてくる。
先ほどの王様の話と合わせて考えると、つまり……。
「この世界の人たちはいま魔王の脅威によって滅びに瀕していて、その状況を打開するために古より王国に伝わる魔法で勇者、すなわちこの僕を呼び出したということで合っていますか?」
僕の言葉に王様は目を丸くする。そして、その通りですと僕の言葉を肯定した。
それから僕はこの世界にはレベルの概念があるのかを尋ねてみた。すると王様はなにを当たり前のことを言うのだというような表情で頷くと、魔物を倒すことでレベルが上がり強くなること、この世界の人にはレベルの上限が存在しているせいで頭打ちになってしまうこと、そして異世界から来た勇者にはその上限が存在しないことなどを教えてくれた。
なるほど、つまり僕のするべきことは分かった。僕は王様から武器や防具をもらい、使い方を教わると、王城を出た。
雑魚モンスターをたくさん倒してレベルを上げてから、魔王を倒せば良いのだろう。世界を救った勇者となれば、どんなにみんなに尊敬されるようになるか。
僕はもうこの世界を救った後のことを考えていた。だがその尊敬を受け取れるようになるためには、まずは雑魚モンスターを探さなければならない。
僕は城門にいた兵士に尋ねた。
「スライムがたくさんいるところってありますか?」
勇者が自信満々に王城を出たことで、城の中には最近なかった明るい雰囲気が戻って来ていた。
王様もこれでようやく魔王の脅威から解放されると、肩の荷が下りたような気分だった。しかし、その気分もすぐに吹き飛ぶことになる。
勇者が、スライムの大量にいるダンジョンに単身乗り込み、そこであっさりと命をおとしたというのだ。
その報告を受けた王様はショックと、そして大きな困惑を感じながらこう呟いた。
「なぜ勇者様は、物理攻撃に対して高い耐性を持つスライムたちがいる森に、まだ魔法も使えないような低レベルの内から乗り込んだのだ……?」
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