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パニック作品

晩ごはん


2人の子供が荒れ地に林立する白蟻の巣である蟻塚の土で出来た堅い柱の根元を掘っていた。


根元を掘ると白蟻が巣を修復しようと溢れ出て来る。


子供たちはその溢れ出てくる白蟻を掬い袋に詰めていく。


壊している白蟻の巣は此の蟻塚だけでは無いようで、子供たちの脇には白蟻で満杯になっているらしい袋が4つ転がっていた。


無心に白蟻を袋に詰めている子供たちに満杯になった大きな袋を背負い、腰に鉈をぶら下げ片手に弓と矢を持った老人が近寄って来て声をかける。


「そろそろ日が暮れる、帰るぞ」


無心に白蟻を袋に詰めていた2人の子供の大きい方が顔を上げ返事を返す。


「もう少しでこの袋も満杯になるから、ちょっと待って」


老人はその返事に無言で頷き、足下に転がっていた白蟻が詰まっている袋の1つを空いている手で拾う。


暫くすると袋が白蟻で満杯になったのか子供たちは立ち上がり、両手に1つずつ袋を持って先に歩き出した老人の後ろに続く。


「木の葉沢山採れたみたいだね」


子供の1人が前を歩く老人に声をかけた。


「あぁ、部落の皆に分けてあげられるくらい採集できたな」


もう1人の子供が老人に質問する。


「ねえ爺ちゃん。


婆ちゃんに聞いたんだけど、昔はすごく高い木が生い茂っていたって本当かい?」


「本当だ。


蟻塚の数倍以上ある木々が生い茂っていた。


だけど戦争でばらまかれた放射能の所為、儂が少し背伸びして腕を伸ばせば届く高さくらいの木しか生えなくなってしまった。


爺ちゃんがお前らより小さかったころ起きた戦争で、生態系が滅茶苦茶になり放射能に順応できた物しか生き残れなかった、儂らを含めてな」


老人は白蟻が詰まった袋を心持ち持ち上げながら話しを続ける。


「放射能で汚れきった世界に一番早く順応したのがこの白蟻を含む虫たちだな。


殆ど姿形を変えずに順応した。


だが植物は駄目だった。


爺ちゃんが戦争が起きる前に見ていた植物とは同じ物なんだろうが、上に伸びずに横に広がり形も何処かしらおかしい、農作物も何処かおかしいが残った物と残らなかった物に分かれた」


「僕たちは?」


「そうだなぁー、人間は……偶々戦争が始まった時に地下深くにいた少数の者たちは生き残る事が出来た。


でも……放射能の影響で弱い者から次々と命を落としって行った。


それでも生き延びた者たちは身体が放射能で汚れた世界に順応できたのか、今も生きているって訳だ」


「フーンそうなんだ、でも順応出来ない人たちもいるんでしょ?」


「あぁ戦争が始まった時に核シェルターに逃げ込めた奴らは殆ど駄目だな。


儂らみたく放射能て汚れ切った世界に少しずつ身体がならされていった者たちと違い、20年30年と長い時を核シェルターの中で過ごしていた者たちは、核シェルターから出てくると放射能で汚れ切った世界に対応できずに、次々と死んで行く」


話しながら歩いているうちに彼らの住処がある部落が見えてきた。


部落は空掘りと土を盛り上げて作った塀で囲まれている。


部落に出入りするただ1つある門に近寄ると、当番で門を守る門番が内側から開けてくれた。


部落の中に入った3人の鼻腔を、部落の中の家々から流れ出てくる食い物の匂いが刺激する。


「爺ちゃん、良い匂いがするね」


「こ、この匂いは、か、カレーか?」


3人は木と土でできた20ほどある小屋の1つに入って行く。


「「「ただいま」」」


「「お帰りなさい」」


小屋の中に入って来た老人と子供たちを2人の女が迎える。


彼女たちは老人の伴侶と子供たちの母親。


「うちもそうだが、カレーの匂いが部落中から漂って来ているけど何処で見つけたんだ?」


老人の問いかけに老婆が答えた。


「川向こうの、数年前に核シェルターから出て来た奴らがいたでしょ。


あいつらを最近見かけないから見に行ったんだわ、したら皆死んでいたの。


だから部落に残っていた者たち総出で行ってあいつらの塒を物色したら、出てくるわ出てくるわ、レトルト食品や缶詰だけでなくカレーのルーや乾燥野菜にお肉まで出てきたのよ。


全部頂いて来たわ。


それで今日は部落中がカレーになったって訳」


「そうか、こっちも大漁だった」


老人は白蟻が詰まった袋を持ち上げる。


「そっちはごはんを食べてから炒りましょう、大鍋は今使っているから」


夜警の当番に出ている子供たちの父親を除く5人は粗末な卓袱台を囲む。


「「「「「いただきます!」」」」」


モグモグプチプチモグモグモグ


老人2人は平和だった頃を思いだし煎じた木の葉のお茶で喉を潤しながら食べる。


パクパクプチプチパクパクパク


子供たちと母親は初めて食べるカレーに顔に笑みを浮かべながら食べる。


バクバクプチプチバクバクバク


食べる、食べる、食べる。


クチャクチャプチプチクチャクチャクチャ


子供の1人が母親に聞いた。


「お代わりあるの?」


「あるわよ。


こっちも沢山いたから今日はお代わり自由よ」


そう言いながら母親は大鍋の蓋を取り、炒られた大量の蛆を子供の皿に盛ってあげた。






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― 新着の感想 ―
蛆と多分蟻も米代わりか…………。 シュール! 蛆が大量なのって、死体に集ってたからだよね。 で、出てきた「お肉」って、保存されてた今でも食べられるようなお肉なのか、蛆虫の集ってたお肉なのか、どっちなん…
私が2年前ぐらいからはまっていること。 山を開拓して、そこに竹の家を作り、自給自足するベトナム人ユーチューバーたち(女性)の動画を見ることです。 その動画でときおり、彼女らはアリの巣から幼虫や卵を採取…
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