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開け方、北極星と航る  作者: 澄乃しろ
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01「あう、まちで」⑥

 俺と星波は落ち武者に会いに行くため家を出た。

 ちゃんと昨日と似たようなジャージに着替えもした。星波はジャージ姿の俺を見て一瞬、目を見張ったが、そんなに似合っていたのだろうか。

 隣を歩く星波はよく見ると、こんな田舎では見ないようなオシャレな服を着ている気がする。だが俺はオシャレにまったく興味がないため服の名前とかブランドとかはさっぱりだ。

 それにスタイルもいい。身長一七三センチの男子高校生の俺の隣に立っているが、身長差はほぼない。俺の方が高いが。

 星波は顔もスタイルもいいしオシャレである。

 だが俺は見てしまった、家を出る前のことである。俺が着替えるために自室がある二階に上がろうとしたところ、リビングからガサゴソと音がした。気になって見てみると、そこには俺が出したせんべいを全てバッグに隠している星波の姿があった。俺は絶句した。

 星波は俺が見ていることに気づかなかったため、俺はそれを見て見ぬふりをして二階に上がった………。

 そもそもこの星波綾華という人間は何かおかしい。せんべいを持ち帰ったり、インターホンを連打したり、突然乾杯しだすなど奇行が多い。

「何をそんなに人の顔をじろじろ見てるの」

「……なんでもない」

「私の美貌に見とれてしまったのね。別に照れなくてもいいわよ」

 星波はそう言い自分の髪をなびかせる。

 いやむしろ逆なんだが。

 本当に余計なことが多すぎる。

「そう言えば星波ってどこ高なんだ?」

「ナンパがへたね」

「……単純な質問だ」

 そもそも会いにきたのは星波の方だろ。

「近くの灯来高校よ」

「え? 俺と同じじゃん…」

「あ? そうなの?」

 警察からは俺の高校までは聞かなかったらしい。

「でも星波のこと一度も見たことないな」

 綺麗なのに、と付け加えようとしてやめた。調子に乗りそうだから。代わりに——

「奇天烈なのに」

 言ってやったぜ。

「〝き〟と〝れ〟だけあってるわ。あと〝い〟が足りない」

「……やっぱり色々と余計だな」

「ええ。〝れ〟と〝つ〟が余計ね」

 星波の方が一枚上手だった。

「一年の時と二年の時は何組だったんだ?」

「一年二組、二年四組よ」

「違うか…俺は一年五組、二年一組だったんだが」

 一学年五クラスしかない田舎の高校なのに、星波のような個性的な人物のことを知らないのは違和感があった。

「星波みたいなキャラなら一度会ったら忘れなさそうなのにな」

 なぜ星波のような綺麗で奇天烈なやつのことを知らなかったのだろう。と思ったが俺は気づいた。そういえば一年生の二学期ときあたりから、友達と呼べる人が減っていった。それに二年生は丸々不登校だった。

 だから俺は周りのことを、灯来高校にどんな人がいるかなんて何も知らなかった。

 星波の存在に知らなかった理由にも見当がついたのだが、本人は違う理由を口にした。

「学校では猫かぶってるからよ」

「え?」

「私自分が思ったことをすぐ口にしちゃうから、中学生の時はクラスメイトから嫌われていたわ。だから高校では大人しくしようと思って口数を減らしたわ」

 癖を直すのではなくそもそも喋らなければいいと、そう考えたのか。

「……でも俺には何でも言ってる気がするが」

「そうかもね、でもあなたが悪いのよ。いきなりパジャマで出てくるような人にはつい、気が緩むものよ」

「全く関係ない気がするが」

「弱そうなものを罵りたくなっちゃっただけよ」

「Sだな……」

 そんなおしゃべりをしているうちに例の公園に着いた。

「着いたぞ」

 三丁目の公園、ここには昨日来たばっかりなのに体感ではだいぶ月日が経ったように感じる。

「ここなのね………」

 星波はなぜか目を見張っている。

「どした?」

「……なんでもないわ」

 俺には思ったことを何でも口にするんじゃなかったのか。

 すると星波はなにかを見つけ、それを拾った。

「こんなところにフライパンが落ちてるわ」

「……実はそれ、俺ん家のだ」

「なんでここに?」

「……妹がそれで落ち武者を退治しようと家から持ってきたんだ」

「かわいい子ね」

 ふふっと、星波が笑う。笑うとこんな顔をするのか。

「でもこんなものじゃ落ち武者とは戦えないわ」

 やはりそうか。所詮は竹刀といえど相手は幽霊、物理攻撃は効かない……

「やっぱりこれじゃないと」

 星波はそう言いバッグから何かを取り出す。それは…………包丁だった。

「は? え、お前そんなもん持ち歩いてたのかよ……」

「ええもちろん、いざという時のためにね」

 星波はそう言い俺に刃先を向ける。

「ちょ、やめろ! 怖ええよ!」

 こんなもの持って俺の家に来たのか。やはり最初の俺の警戒心は正解だった。

「冗談はさておき」

「冗談でもやめてくれ!」

「それにしても……落ち武者、現れないわね」

 たしかにあたりを見渡してもどこにも落ち武者はいない。

「昨日はどうやって出てきてもらったの」

「昨日はたしか妹がブランコに乗ろうとして……そしたら突然現れた」

「じゃあそのブランコに乗ってみようかしら」

 星波は包丁をしまい、ブランコの方へ歩く。

「気をつけろよ……」

 星波はブランコの前で立ち止まり、あたりを見渡す。

 俺も落ち武者を探してみるが見当たらない。

「いないわね」

 星波はそう言い、ブランコに乗り出す。

「乗るのかよ」

「ええ、せっかく来たんだから」

 星波はブランコを漕ぎ出す。

「おいおいそんなに高いと、落ち武者が突然現れた時に対処しにくいんじゃないか?」

「大丈夫よ」

 俺は心配だ。落ち武者が現れた時の対処のしづらさもそうだが、それよりも———星波はスカートを履いているのだ。

「聡明君、そんなに私を見つめてないで落ち武者を探してちょうだい」

「あ、ああ」

「高いところからだと良く見えると思ったんだけど、やっぱりいないわね」

 ………俺は別のものが見えそうなのだが。

 その時だった、茂みから物音がした。

 そこには頭に矢が刺さり、鎧を着て、竹刀を持った落ち武者の姿があった。

「星波! 出たぞ!」

「ちょっと待って、今止まるから」

 そんな悠長なこと言っている場合ではない。落ち武者は竹刀で襲いかかって………こなかった。茂みから体を出したものの、ただこちらをじっと見ているだけだ。

「どうしたのかしら、落ち武者さん」

 星波ようやくブランコから降り、静止している落ち武者に話しかける。すると、

「……お嬢さん、あなたは何者ですか」

 落ち武者が喋った。

「私は巫女みたいなものよ」

 星波は意に介せず対話をする。

「そうですか、どうりで他の人と雰囲気が違うのですね。そして君、」

 落ち武者は俺を見る。

「昨日も会いましたね」

「……そうだな」

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