かけられなかった言葉
どうしてもかけられなかった言葉がある。
「本が売れなかったのは、あなたのせいじゃない」
たぶん、私が言っても何のなぐさめにもならない。
でもあなたの文章を読むのが、私は好きだった。
書籍化される話はどれも面白くて、だれかが夢中になって読んだ話。
みんな真剣に書いて、書籍化作業だって必死にやって、編集部の人たちも真面目に仕事をして。
けれど市場に出ると、その本を手に取って表紙をめくらせるのがいかに大変か、レジまで持っていかせるのがいかに難しいか、「読ませる」までのハードルがいかに高いかがよく分かる。
編集者というのは原石を拾うのが楽しいんだろう。
磨いて光るダイヤみたいな原石もあれば、そのまま打ち棄てられる石もある。
その価値はだれが決める?
だれにとっても自分の作品は宝物だよ。
どこか無責任にも思えるけれど、そんな性懲りもない所がなければ、次々に本を出したりなんて出来ないのかもしれない。
ただそれだけ。
物語を創るのが作者。
本を作るのが編集者。
本を育てるのが読者。
私の本が出るのは「出版社に損をさせない」からだ。
出版しても損をしないし、他作品の売り上げにも貢献する。
ラインナップのバリエーションのひとつとして価値がある。
ただそれだけ。
ダイヤにもなれず、打ち棄てられることもなく。
今にも深い海にさらわれそうな波打ち際で、誰にも見つかることのない鈍い輝きを、あると信じて必死に磨く。





