発売して2年たち、3巻を振り返る
2022年1月28日は『魔術師の杖③ネリアと二人の師団長』の発売日でした。シリーズで刊行させていただいて、振り返ってみると3巻と5巻と7巻が、それぞれ節目だった気がします。
実はね、2巻は自信があったんです。なろうでもぐんとブクマ数が伸びて日間1位を取ったし、ユーリと学園生たちのエピソードは面白く書けたと思います。
それでも2巻って1巻より売れないものですね、レビューも高評価でしたが部数は減らしました。自信のあった2巻でそれでしたから、3巻はどうなるだろう……と不安でいっぱいでした。
実はなろうでは、2巻にあたる4章の職業体験を終えて、3巻にあたる5章で恋愛パートを書き始めたとたん、ブクマ数は減らないものの、最新話を読みにくる方が500人減ったんです。これは連載時ショックでした。
どうも男性読者さんの中には、恋愛パートは面白くないと感じる方もいたようです。ネリアぐらいの年頃の女性を読者に想定していましたが、意外と男性にも読まれていました。
だから3巻も発売したら、同じことが起こると覚悟しました。
きっと読者離れが起きる。
まわりからは順調そうに見えたでしょうが、当時の私は不安でしかたありませんでした。
『魔術師の杖』は異世界恋愛ジャンルに掲載している恋愛物です。ハタチの女の子が仕事だけなんて、不毛ですもの。お仕事シーンの評判がいいものだから、恋愛シーンが後回しになって焦ってたぐらいです。
とはいえティーンズラブでも溺愛物でもなく、ただ視線のやり取りだけで静かに進行する恋愛です。だからヒーローもヒロインも、自分の想いを口にしません。たがいに相手を見ているだけで、ストーリーが進んでいきます。
3巻にあたる、なろう5章はとても短いです。もともとは4章部分と同時に進むエピソードを、2巻に入りきらないという理由で、主に竜騎士団とヒロインの恋愛にまつわるエピソードを抜きだして再構成しました。本にすると0.5冊分ぐらいで、これだけでは本になりません。
けれど6章のマウナカイア編を入れると、ガラリと雰囲気が変わってしまいます。それに6章はそれだけで、ちょうど本になる量でまとまっていたのです。
恋愛要素を求めていない読者さんには不評だった、短い5章をどうするか……それが課題でした。
たしかに5章に入って最新話を読む方は減ったけれど、主役ふたりと重要なサブキャラの関係性が大きく動き、連載時の反響も一番大きかったのです。悩みましたがそれに賭けました。
新しいエピソードを追加し、既存のエピソードも加筆して、キャラクターたちそれぞれの心の動きがわかるように描写を増やしました。
男も女も、恋をすることで人間は成長します。
むしろ恋愛要素にがっつり振り切り、「それでも私たちは恋をする」というセリフをキャラクターに言わせました。加筆部分は10万字になりました。
表紙は編集部にメッセージを送ってくださった読者さんの要望を採りいれ、ギリギリまで何度も文章を見直して、ひたすら丁寧に本を作りました。
やり切りましたが、やっぱりフタを開けたら2巻よりも更に部数は落ちました。予想通り、なろうと同じように一部の読者さんが離れていきました。
「(続巻には)部数がギリギリなのでは?」
そう心配しましたが、編集長は「いける」という判断でした。
「今回、初めて1巻を手にした人が、続けて2巻を買う確率が高い。『読者がついた』ということです」
新刊の3巻ではなく、既刊の売れ行きに注目され、単純な数字だけではない何かを、編集長は見ていました。しかもそのときは1巻もかなり読まれ、新しい読者さんを獲得できていました。
今思えば自信がないぐらいで、ちょうど良かったのです。読者さんが減ることが分かっていたから、ない頭をふり絞って必死に文章を見直して、内容を工夫することができました。
それを教えてくれたのはあの時「もういいや」と去っていったなろうの読者さんです。
『恋愛パートに入ったとたん面白くなくなった』
投げつけられた言葉は連載時にはショックでしたが、プロとして考えたら今はお礼を申し上げたいぐらいです。
「ありがとう。おかげさまで生き延びてます」
そうして3巻で山をひとつ乗り越えたので、4巻は楽しく作業が進められ……ようやく私も「書く楽しさ」をとり戻すことができました。
山あり谷ありなのです。





