書きだしたら止まらなかった
たぶん最初はあぶくのようなもの。
人の姿も鮮明ではなく、舞台すらもおぼろげで。
「空を飛びたいよね」
「めっちゃ強気な子で行こう。ていうかお話でしょ、何か遠慮する必要ある?」
「異世界ったらドラゴンでしょ」
辺境の荒野からいきなりやってきた女の子、師団長なんかやる気はぜんぜんなかった。
謎多き老錬金術師はどうしても作りたくて作れなかった、杖の製作を彼女に依頼する。
炎の向こうから呼びかけてくる魔術師……うん、ファンタジーっぽい。
彼女の目の前にはどんどん見知らぬ世界が広がってくる。
「とりあえず書いてみよう!」
ポンポンと思いつきで言葉を置いていった。
次はどうする?次はどうなる?
書くそばからストーリーを考えていく。
錬金術師は何人?
彼女を真ん中にして左右対称にひろがる感じ……。
じゃあ彼女を入れて7人、てことは6人だ!
どんな錬金術師?
ひとりは老人の側でずっと後釜を狙っているの。叩き上げの副団長、悪役!
もうひとりは副団長の陰に隠れて……語り部役だね、いろいろ説明する役。
うんうん。
錬金術っつーたらオートマタだよね。
ニーア!
ドラゴンと戦う……うーん、うーん、決戦は河の上空。何がインパクトあるかなぁ。
ヘンじゃないとね!
じゃ、あれだわ。水の中からドッパーンと。
あれ、かあ。オートマタに詳しい変人錬金術師!
オジサンがいいね!3人目!
で、王都に着いたらいきなり研究棟がモジャハウスなんだわ。
植物を使う錬金術師!植物大好き!これで4人目!
中入れないの、困るねぇ。
でも中に入らないといけないの。だって人がいるんだもの!
ヤバ!
気弱なの、でも最強。毒の魔女なの。毒の小瓶握りしめてベショベショ泣きながら震えてるの。
助けに行かなきゃ!
うんうん。これで錬金術師は5人。
最後は……王様がいるんなら、王子様もいていいよね。
あっ、それもそうね!
じゃ、それで決定ー。(パチパチ)
老人の最期は夢で降ってきた。目が覚めてびっくりした。
「そうだったんだ……グレン!」
彼の想いや真実は私が考えたものじゃない。夢の中で彼が語り、そして動いた。
女の子の生と老人の死が重なる。
ラストシーンがパッと浮かんで、なんとなくつけたタイトルは『魔術師の杖』。
なろう初心者、行ってみよー!
ノリと勢いで書き始めた物語。
夢中で書いて半年たたぬうちに、書籍化の打診がきた。
デビューして後から知った。Twitterで「面白い」と取りあげてくれた人がいたこと、更新するたびに紹介してくれた人がいたこと。
あの時みたラストシーンを書くために、今も必死で書いている。





