ラノベの表紙はイラストレーターさんの戦場
私はさして大望もなく「イラストがつくんだ、わぁい♪」なノリで書籍化をOKしたのです。
考えてもみてください。
「明日は休みだ。ウェーイ♪」とウキウキ書き散らかした、イケメンたっぷりのゆるふわ異世界ファンタジー。
およそふだんの仕事や生活ではまったく必要とされない、私のロマンチストな部分を全開にした小説です。
そんなん読まれたら恥ずかしいに決まってるじゃないですか!
本の発売日には毎回庭に穴掘って埋まりたくなります。なのになぜウチの庭に穴が7つないのか……マンションだからです。
家族からも「黒歴史だからさ、もう決して後ろを振り返らず、突っ走っちゃいなよ」と激励(?)されています。
学校の後輩にも念を押します。
「先輩、がんばってください。応援してます!」
「うん。応援はうれしいけど……読まなくていいからね!」
イラストは見たい。けれど本の発売日は永遠に来なければいい。みんなから「おめでとう!」と祝福される日、私は緊張で死にそうです。
本当に心臓が止まったらどうしよう。だいじょうぶラノベだもの、5年経ったらみんな忘れてる!
……それではダメです。
「私の本じゃない、イラストレーターのよろづ先生の絵を売るんだ」と発想を切り替えました。
本に著者とイラストレーターさん、両方の名前がクレジットされるのはラノベだけです。それだけ絵が重要で、表紙絵は物語への入り口であると同時に、イラストレーターさんの作品でもあるのです。
『魔術師の杖』のイラストを手がけてくださる、よろづ先生は長年お名前を出さずに活躍されていた方です。キャリアは長くとも「自分の名前が表に出るラノベの表紙は初めて」と、とても喜ばれました。
作者は素人でもイラストレーターさんはプロです。
ラノベの表紙はイラストレーターさんの戦場、書店で販売サイトでいかに目立つか……各表紙がしのぎを削ります。本を手に取らせることができる絵は「力がある」と出版社にみなされます。
フリーのイラストレーターさんにはお仕事の評価につながり、続巻が出たら安定収入にもなります。「私の本を読んで!」は恥ずかしくても、「よろづ先生の絵を見て!」なら大声で叫べました。
この表紙を見て!すごいでしょ!挿絵も見て!がんばったの!(よろづ先生が)
本文はついでにサラッと流し読みでいいから!
できたら読まないでほしい!(切実)
今も『よろづ先生の絵を100万回表示させよう計画』をひとりで実施してます。さすがに本を100万部売るのはムリなので、なろうのあちこちや更新報告に貼りつけたりして。
表紙に描かれたキャラクターに命を吹きこむのが本文の役割、本一冊まるまるイラストレーターさんの絵に添える宣伝文のようなもの。
そう考えたら読まれても全然オッケー、何ならもっと盛ります!……となりました。
私は『魔術師の杖』が完結すれば、その後は白紙です。けれど彼女のイラストレーターとしてのキャリアは今後も続いていく。
その時にこの仕事が少しでもプラスになればいい、そう思います。
今でも発売日はガチガチに緊張するし、穴掘って埋まりたいし壁があったらめりこみたい。
けれどそう考えてやり過ごしています。
自分だけなら「イヤだ、逃げたい!」となっても、誰かのためと思えば踏んばれたりするものです。