前編
これ企画的にセーフなのかな。
『牛の首』を異世界解釈してみたんですけど……
尚、『イリス王国』という国家こそ私が書いているシリーズの国を舞台を使っていますがキャラは全員新規です。
「なぁ友よ。『牛の首』って知っているか?」
「城下町で流行りつつあるくだらないうわさ話だろう?」
俺の名はエドガー。
大国、イリス王国の宮廷魔術師のひとりである。
友人である騎士団長ジェイクが振って来た話題に、思わずため息が出てしまう。
「えーと、何だっけ?『あまりの恐怖に聞いたものは皆死んでしまう』っていう怪奇話だろう?」
「それって何かの魔法的なものだろうかな?もしそうなら実用化できれば凄い事だ。敵国にこの話を流してしまえば」
「なぁ、君。よく考えてみたまえよ。『聞いたものは死んでしまう』のだろう?という事は『誰も知らない』って事じゃあないのかい?」
「あ……」
やれやれ、ようやく気付いてくれたか。
「まあ、大体の正体はわかっているよ。恐らくそれは『異世界産の怪談』だね。ほら、数年前に王都で厄介な噂が流れた事があっただろう?」
「ああ。『口裂け女』だったな。あれのおかげで私達は休みなしに警戒しっぱなしだった」
「結局あれは異世界転生者が持ち込んだ異世界の怪談、『作り話』だったじゃあないか。自身を美しくしようとして失敗して口が裂けた女なんてものは存在しなかったんだよ?あの時は俺達だって女王様からの命令で『ポマード』とかいう訳の分からない魔法を連日調べていたよ。失われた古代魔法かと思っていたけど結局、異世界の『整髪料』というオチだったじゃないか」
あの時は本気で脱力したなぁ。
噂を広めた異世界転生者は今、地下牢に繋がれている。
そんなわけで『牛の首』というのもどうせその類だろう。
異世界だからこそ通じる様な怪談に違いない。
□
「うん…………ああは言ったものの、やっぱり気になるな」
ジェイクと別れた後、俺は王立図書館へと足を運んだ。
くだらない鵜沢だと断じてはみたものの、やはり気になる。
何せ『聞いたものが死んでしまう』という怪談だ。
正直、好奇心が抑えられない。
俺の悪い癖ってやつだな。
まあ、大方の予想通り伝承やらを洗いざらい調べてみてもそういったものは無かった。
せいぜい、雨乞いの為に神へ牛の首を捧げる部族が存在するとかそういった儀礼があるとかその程度だ。
「うーん、これはやはり『あいつ』に聞いてみようかな?」
そう思い立ち、司書に本を棚に戻すよう伝えようと立ち上がった時だった。
隣にあった椅子に脚をひっかけて俺は盛大に転倒してしまう。
「おいおい何だよぉ。何でこんな近くに椅子置いてるの!?誰かイチャイチャしながら本でも読んでたわけか?」
俺が叫ぶと若い女性司書が血相を変えて飛んできた。
平謝りしてくる彼女が不憫なのと知的なメガネ娘だったのもあり
「あーいや。ちょっと最近運動不足でさ。色々なものに引っかかっちゃうんだよね。かっこ悪い所見せちゃったなぁ。あはは……」
このまま食事の誘いでもすれば、なのだが情けない事に俺はそれ以上は踏み込めずそそくさと図書館を後にした。
そうして俺が次に向かった先は……
□□
「よぉ、久しぶりだなぁ」
城の地下牢だった。
そのある房で一人の囚人が床に座り瞑想していた。
数年前に『口裂け女』の発信源となり王都を混乱に陥れたとして収監された男だった。
まあ、ただのくだらない噂話で捕まるというのも哀れだとは思うがそれ程までに王都が混乱したからな。
「お前さんにちょっと聞きたいことがあるんだ。『牛の首』って怪談を知ってるかい?」
すると男は瞑想を止めて目を開けこちらを見る。
「あんた、宮廷魔術師だったよな……『牛の首』について知りたいのか?それはもしかして王令かい?」
「いーや。個人的な興味だよ」
「そうか。それは……『良かった』よ。下手な事を言ってさらに罪が重くなるのは避けたいからな」
「てことは、あれかい?やっぱりこれもくだらない『噂』の……」
「悪い事は言わん。『牛の首』を追うんじゃあない」
こちらの言葉を遮り男が忠告する。
「何だって?」
「あの怪談に実体はない。実態が無いからこそ、知りたいという好奇心が沸いて様々な噂が付随する。それが『俺が居た世界』の『牛の首』の正体だ」
ああ、やはりそういう系統のものだったか。
「だけど『この世界』では違うんだ。『牛の首』は『知ってはいけない』ものなんだ。本来、こっちの世界に存在した恐怖なんだ。それが俺達の世界に輸入されていたにすぎないんだ」
「おいおい。随分とぶっ飛んだ事を言うじゃあないか。なら何でこっちの文献に何も残ってないのさ」
「俺は冗談を言っているんじゃあない。『禁忌』なんだよ。だから文献なんかに残されているわけじゃあないんだ。ともかく、『追ってはダメ』だ。あの怪談は封印されている。広まればそれこそ『大勢が命を落とす』!モンスターみたいに対処ができる代物では無いんだ!!」
こいつはどうやら完全にイカれちまってるな。
「なぁ、あんた。『牛の首』を調べていて何か『変な事』は起きていないか?何かちょとしたものに躓くとか、もしそうなら追うのは絶対止めろ。それは『始まり』なんだからな…………」
くだらんな。
嘘くさい詐欺師とかの常套手段じゃないか。
「はは、そうかい。忠告ありがとうよ。それじゃあな」
俺は囚人の忠告を笑い飛ばしながら地下牢を後にした。




