表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンワン生活  作者: 白雲
1/7

1.ふかふか

急にわんころへの愛が湧き上がりまして。

お好みに合いましたら引き続きよろしくお願い致します。

(あったけ……)

ふかふかの毛布がとても暖かくて気持ちがいい。

(今日、何限からだっけ)

考えてみるが半分以上寝ぼけた頭では全く分からない。まあでもアラームが鳴るまではいいかと思い、考えるのを諦めて目を閉じた。

(あったかぁ)

こんないい毛布持ってたっけと考えたのが最後。意識は強力な睡魔に負けて飲み込まれた。




「ミュウ」

「ミュミュ」

「ミュア〜」


(……うるさい)

次に目が覚めた時には周囲からなにかの動物の赤ん坊のような鳴き声がたくさん聞こえていた。

猫だろうか。何故自分の部屋の中から聞こえるのか分からないが、未だ寝ぼけた頭ではその理由を考えるよりもただただ不快だと思った。



もぞもぞと寝返りをうつと、口の中になにかを突っ込まれ微かに甘い液体が喉に流れ込んできた。

(うまい)

この時初めて自分がとても喉が乾いていて空腹だったのだと気が付いた。

夢中でゴクゴク飲み込む。先程まで苛立っていたのは空腹だったせいかもしれない。もうミュウミュウと鳴くなにかの声は全く気にならなくなっていた。



満腹になってケプリと息を吐き出すとまた強力な睡魔がやってくる。抵抗する気も無く体の力を抜いてまたふかふか毛布に顔を埋めた。




何度それを繰り返したのか。アラームは鳴らない。

疑問に思うことなど山ほどあるはずだがどうにも頭が働かずなにかを考えていてもすぐに忘れてしまう。そして結局眠って飲んでまた眠る、の繰り返し。

煩い動物はまだ部屋にいて時折鳴き声が聞こえる。

(野良猫でも入ってきたんかなぁ)

起きたらどうにかしなきゃと考えながらまた眠った。





『タクミ!あんた遅刻するよ!』

ガバリと起き上がった。

(何時!?…………いや、夢か。もう実家じゃねーし)

一年前に実家を出て大学の近くで一人暮らしを始めた。もう起こしにきた母親に布団を剥ぎ取られることもない。

(あれ?待って。アラームは?)

安心して二度寝しようと毛布に顔を寄せてふと気付く。

ここ数日ずっと意識がぼんやりしていたが随分と久しぶりにはっきりと考えられる。

(数日って……やばくない?)

大学は。バイトも。ざっと血の気が下がった気がした。



とりあえずスマホを探そうとぼやける視界の中手探りでベッド周辺を探るが手に伝わる感触が硬い。カシカシとなにか変な音もするし手の感覚に凄く違和感が……。

目を擦ろうとしたが上手くいかずまた違和感。

(俺、どうなってんの。なにこれなにここ)

焦りながらギュッと目を瞑って恐る恐る開いた。


(どう……くつ?)

徐々にはっきりとピントが合った視界に最初に映ったのは岩壁。意味がわからない。自分が住んでいるワンルームは普通の白い壁だ。こんな野性味溢れる部屋じゃない。

そこであのミュウミュウという鳴き声がまた聞こえていたことに気付いた。

あの、ここ数日お気に入りのふかふか毛布から。



横を見る。真っ白なふかふか毛布。ちょっと動いてる。

……動いてる。

手元を見る。むっちりした仔犬の白い前足。

(…………はぁ!?)

「ミュウ!?」

自分の喉から毛布と同じ鳴き声が。右手を上げる。視界の中のむちむち子犬の前足が上がる。

そしてバランスを崩してコロンと転がりもふっと反対側の白い毛布に受け止められた。こっちも動いてる。

これは、まさか、もしかして

(俺…………)



自分=白い子犬

毛布=自分の兄か弟か姉か妹



(嘘だろ……?)

「ミュウゥ……」

ひどく情けない鳴き声が聞こえた。







呆然としてたらまた眠気。そして起きたら口の中の甘い味を一生懸命飲み込み満足して寝る。起きたらゴクゴク飲んでケプリと息を吐き出しまたふかふか毛布に……


(ちがぁぁぁぁう!!)


ガバリと起き上がる。

この体はどうも睡眠欲と食欲にとんでもなく弱いらしい。赤ん坊だからだろうか。

(赤ん坊……つーか赤ん坊?なんで?)

自分は人間で大学生で一人暮らしで。彼女は今はいないが友達はたくさん。地元に帰れば家族もいる。

どうしていきなりこんな状況になっているのか分からない。




(え?俺、死んだ?)

そんな記憶はない。

最後の記憶を必死になって考えるが、大学の帰りにバイトに行くまでの時間をつぶそうとコーヒーショップに向かっていた途中。そこまでの記憶でブツリと切れている。

けれど。

(多分、死んだ……んだろうな)

足から力が抜けてガクリと地面に伏せた。死んで生まれ変わったんだろう。犬に。



(犬って)

家族や友人達の顔が思い浮かぶ。彼らはまだ生きているんだろうか。最後の記憶からどれくらい経っているんだろう。

というか自分が今いるのがどこかの洞窟ってどういうことだ。普通一般家庭とかブリーダーとかの家じゃないのか。



小説とか漫画みたいに生まれ変わったというのはひとまず理解した。受け入れられるかというと絶賛混乱中だが、なってしまっているのだからどうしようもないことは頭のどこかで分かっている。


だけど状況が全く分からない。

(ド田舎の野犬とか、か?)

生まれ変わったら突然のハードモードの気配。

(チート。チートは?カミサマとかどこよ)

「ミュウ、ミュア〜。ミュウゥ」

どこにもぶつけられない不満に泣きたくなる。そして口からは勝手になっさけない声が漏れた。

すると両側から毛布が迫ってきてもふっと挟まれた。

(おわ。ふかふか)

毛布からニョっとつぶらなおめめが現れペロリと頬を舐められる。反対側からは頭をもふもふぶつけられているようだ。



(これ、慰めてくれてんの?)

片側からペロペロ舐められもう片側からもふもふ頭突き。自分は兄弟達が鳴いていた時にイラついてたのに。

予想外なところからの優しさにさっきと違う理由で泣きたくなった。

(ありがと)

「ミュ」

お礼の気持ちで鳴き声を上げるとペロペロともふもふが止まり改めて両側からもふっと挟まれた。

(そうだ。生まれ変わってから俺、ずっとこの2匹に挟まれてぬくぬくしてたんだ)

さっきまでの不満も不安もどこかにいって、とても満たされた気持ちで目を瞑った。


(あったけ……)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ