私と恋と店長と
上原美月sideのお話。
「あいつ馬鹿なのか笑」
今レジの担当をしているが、この時間お客は少ないため結構暇だ。
「あら美月ちゃん、若い子がそんな言葉使っちゃ駄目よ」
隣でにこりとしながら優しく注意したのは、この店の店長 新井千代さん。ショートカットで小柄な女性だ。今年で50歳になるそうだが、そう見えないくらい若々しい。
「だって高野、佐野に好き好きアピールでグイグイ行ってますけど、佐野には逆効果ですよ。高野はそれに気づいてないのか、懲りずに行くんですもん」
「うーん…航平くんは気づいていて、でも不器用だからこうなってるんじゃない?」
「えっ?」
「押して引いてが苦手なだけだと思うわよ」
「そういうもんですか?」
「そういうもんよ。それに可愛いじゃない、4年も押し続けるなんて」
ふふふ、と新井さんは笑いながらレジに来たお客さんの方に向かっていった。
私は年齢=彼氏いない歴では無い。今までに3~5人くらいと付き合ってきた。
でもそのどれもが告白されて、流れで付き合った感じ。私が好きになって付き合ったことは無い。
だから好きとか嫉妬とか恋愛のことは2次元の知識くらいしかない。
「美月ちゃん?どうした?そんなに考え込んで」
いつの間にか接客が終わっていた新井さんが私の顔を覗き込んできた。
「分からないなぁって」
ぼやかして言ったつもりだったが、新井さんには伝わっていたらしい。
「恋愛は考えても分からないわ。待つしかないの、来る時を」
「来る時…」
「そうよ。美月ちゃんにはまだその時が来ていないだけ。私だって美月ちゃんくらいの歳の時恋愛なんてって思っていたけど、旦那さんと出会って変わったもの」
にこにこしている人生の先輩の言葉が腑に落ちたような、腑に落ちないような不思議な感じがした。
私もその「時」が来るのだろうか。その「時」はいつ来るのだろうか。
もし来たら高野みたいにグイグイ行くのだろうか。どうなのだろうか。
「分からん」
高野と佐野を見てそう呟き、頭を掻きながら会計を待つお客の方に向かっていった。