第8話 天界視点
天界の神々が住まう大神殿の大広間――
「どうだぁ!! 我が巫女の祈りの対象となった!!」筋肉ムキムキの『勇気と戦いの神シーガレフ』は盃を持って大はしゃぎしていた。
「ふんっ! 貴様だけではない。儂もゼレーニンもじゃ」『始まりと転職の神アバーエフ』は、儂が選んだ巫女じゃと自信満々であり、一番最初に祈られたのも当然じゃとふんぞり返っていた。
『衣装と装飾の神ゼレーニン』は、うっとりとした表情で、笑顔のリルリルが写ったブロマイド写真を見つめていた。
「で? お前ら三人は、祈りのポイントを何点あげるんだ?」『酒と女の神バジョーフ』が尋ねた。
「「「30ポイント!!!」」」三人は見事にハモった!!!
神々は祈りの対価として与えられるポイントの最高30ポイントを惜しげもなくリルリルに贈ると宣言した。ちなみにポイントとは経験値のことである。
それを受けて『報告と美声の神ストゥーリン』は、「『Lvが上がりました』、『合掌に金縛が増えました』」とリルリルの頭に話しかけた。
降って湧くリルリルの初『神楽』初『祈祷』以来、お祭り騒ぎが続く天界。ナニカが呼びかけても通じないはずだ。天界の大神殿の大広間天井には、リルリルの姿が大きく映し出されていた。
まさか魔狼に驚いて転んだ場面、天幕が設置できなくて泣きべそをかいた場面、寝相が酷すぎてお腹を出して寝ていた場面、草原でおしっこをしている場面を…全て見られていたとは思わないリルリルは、マナーって美味しいの? と言わんばかりに、歯ごたえがありすぎる携帯食を齧りながら歩いていた。
また何かを考えているのだろう? 神々はリルリルが何をするか、「リルリルは何をするでしょうか? クイズ」を始めていた。
「恐らく携帯食が美味しくないのじゃろう。何か食べ物を得る手段を考えておるのじゃ」
「いや、た、多分…。おしっこの次は…」
「『巫女』はトイレなど行きません!!」
「い、行ってたではないか…」
「行きません!!」
「ふむ…。では…。寝足りなかったのかな?」
リルリルは、地面に打ち込んだペグだけを外し、天幕を組み立てたまま『インベントリ』に入れた。するとリルリルは、可愛く飛び跳ねながら喜んでいた。きっと昨日の組み立てがトラウマになったのだろう。そして、塩分高めの携帯食のため、リルリルは革袋の水をグビグビ飲む。
「あまり飲むとまたトイレに行きたくなるぞ!!」神々が叫ぶと、女神が「『巫女』はトイレなど行きません!!」と怒鳴る。
そして、「今日は、この森を抜ける!!」と気合を入れるリルリル。だが太陽の光が届き難い森の中を歩いているからか、その表情は暗い。
リルリルがボソボソと独り言を呟いていると、「聞こえん!! ボリュームを上げるのじゃ!!」と耳の遠い神が叫ぶ。
「森から出られないと…食べ物がなくなっちゃう」とか、「一生出られなかったらどうしよう!?」などと、呟いていた。
リルリルは知らない。ここが世界でも有数のソルダーノ大森林だということを。この森があるため、リルリルが暮らしていた街は、領地の中で最果ての街アビーと呼ばれていたのだから。
そして、リルリルは四日連続、森の中で夜を迎えることになった。
「ふぇ〜。誰かと話したいよー」寝袋に包まれたリルリルは、人恋しさに涙を浮かべていた。