第7話 セラフィーナ視点
二週間ぶりに小さな街アビーに帰ってきた魔女セラフィーナは、リルリルが『ロールプレイングゲーム』該当者で『巫女』となり街を旅立ったと聞いて、ショックのため倒れてしまう。
魔女セラフィーナは、とある貴族の庶子である。しかし、他の子供同様に愛情とお金を注がれて育てられ、専属の家庭教師の元しっかりと修行し、3年前の洗礼式には、幼少の頃からの希望であった魔女になっていたのだ。
そして、14歳になった魔女セラフィーナは、配達の仕事で偶然立ち寄った小さな街アビーで、リルリルと運命の出会いを果たしたのだ。いや、本当は偶然見かけただけだけど…。
一目惚れ。
それは神のみぞ知る奇跡の一致。つまりパーフェクトラブなのだ。そこには性別も年齢も身分も何も関係ない。純粋な愛があるだけだ。
リルリルを落とすならば、まずは母親からだと、偶然を装い市場で何度も何度も自然と母親の視界に入るように足繁く通う。そして、ある日、母親から声をかけられ…立ち話から夕食に誘われるまで、順調にステップアップしていった。
「お姉さんは、魔女様なの?」
そして夕食の席で、初めてリルリルに話しかけられる。もう死んでもいい!! 透き通る声に甘ったるい話し方のリルリル。その瞳は宝物を見つけたときのような輝きを放っていた。
あぁ…。抱きしめたい!! 抱きしめて、いっぱいリルリルの匂いを嗅ぎたい!!
「うん。お姉さんは、魔女なの。今度、魔法の箒でお空を散歩しましょうね!」
「えーっ!? お空…飛べるの!?」
座っていた私の顔にリルリルの顔が迫る。もう…ちょっとで…キ、キス…出来そうな位に!!
「こらっ! セラフィーナ様が困って…」
「だ、大丈夫ですよ…」
折角の密着を邪魔されてなるものですか!!
そして、魔法の箒で空を飛ぶ約束の日。リルリルは、ちょっと怖がって私に背中に、その胸をピタリと…。いや、まったく何も凹凸を感じないのですが…。でも密着していると、リルリルの優しくも生命力に満ち溢れた体温が伝わって来ます。
ただ上へ上へと高度を上げていく。震えるリルリルに「地上を見てご覧なさい。とても美しいわよ」と伝える。
「うわぁぁぁっ!? これが…私の住んでいる…世界なの!?」
街は小さく、草原は森まで続き、森は果てしなく、遠くには残雪で白く化粧をした山脈が、さらに遠くには…絵本でしか見たことがないだろう海が見える。
その美しい風景と、それを見せた…わ、私を…記憶にしっかりと刻み込んで欲しい。何処の誰よりもリルリルの生きる価値観を変えてしまうだろう…私の名前と姿を…。
地上に下りると、興奮しっぱなしのリルリルが、母親に夢物語のような風景を一生懸命説明していた。リルリルが「ご飯を一緒に食べよう?」と誘ってくれたのだが、残念ながら私はこの後仕事があったため、血の涙を流す想いで…「ま、また今度ね」と断った。
リルリルの家から飛び去った私は、途中で…リルリルの座っていた場所の匂いを嗅ぎたくて、森のど真ん中で、クンカクンカしていたら、依頼の時間に遅れて…酷く怒られたのだ。
リルリルとの思い出は、これだけじゃない…。追いかけないと!! 私はベッドから下り、魔法の水晶で森にいるリルリルの姿を確認すると、魔法の箒に跨って空高く舞い上がった。