第5話 ???視点
「なるほど、すり抜ける仕組みは理解りましたが、あの棒は何なのですか?」
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神具:お祓い棒
贈主:勇気と戦いの神シーガレフ
加護:魔を退ける『降魔』の効果があります。また主
が邪魔とみなす物も弾き飛ばせます。必中効果
あり。使いすぎると眠くなるので注意。
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飢えた魔狼に効果を掻い摘んで教えてやると、俺に文句を言ってきた。
「しかし、必中であの威力は世の中の常識を逸脱してませんか?」
「知らん。俺に言うな」
リルリルは突然止まると、体をひねり腕や脚、そしてお尻を見る。
先程転んでときの汚れや飢えた魔狼に噛まれた箇所が気になったらしい。
しかし、汚れが付着していないので不思議そうな顔をしている。
『巫女装束』は汚れない仕様なのだ。
それよりも「『巫女装束』が透けて素肌が見え始めてるのを気にしろよ!!」と俺は叫びたい。
きっと、スケスケの状態でも誰も居ないだろう高を括っているのだろうが、俺も魔狼も天界の神々も観ているんだからな!!
街道を進み続けたが、森に入る手前で日が落ちた。
真っ暗な森は不気味である。
『巫女装束』が強くても、森の中で夜を過ごす気にはなれないのか、リルリルは森の入り口で野宿をするらしい。
いつものように、両手を胸の前で合わせ目を瞑ると、ボフンッ!? と煙と共に現れた『経典』。
『インベントリ』の開き方と書かれたページを開き、「गोदाम」と不思議な念仏を唱える。
そして、空中に手を突っ込むと、野宿に必要な道具と次々と地面に置く。
リルリルはランタンに灯りをつけ、天幕の部品を手に取っては地面に置いていた。
恐らく、何から始めれば良いか理解ってないのだろう。
俺と飢えた魔狼は、何度も手助けをしそうになったが、ぐっと堪えた。
「しかし、魔狼、お前って人間の暮らしに詳しすぎないか?」
「さぁ、昔から…人間の記憶があるんですよ」
そうこうしているうちに、寝袋を敷いて横になる頃には夜が更けていた。
最後の方は自分の情けなさに泣きべそをかきながら、リルリルは、ようやく天幕を完成させたのだ。
肉体的な疲労は『巫女装束』がカバーする。
しかし、精神的な疲労が蓄積したのだろう。すぐに寝てしまったのだ。
結局、何も食べてないから、ほぼリルリルの『巫女装束』は衣服の意味を成さない状態になってきていた。
空腹の度に衣服が透けるとか、ド変態な仕様を考えた『衣装と装飾の神ゼレーニン』には、今度逢ったら説教しようと、ナニカは決意した。
「ト、トイレ行きたい…」と、呟くリルリルの声で、俺達は明け方に目を覚ます。
行けば良いじゃないかと思ったが、何かを悩んでいるようだ。
『巫女衣装』に手をかけ脱ごうとしているが、やはり脱ぐのが怖いのだろう。
無防備で飢えた魔狼に狙われたらば、待っているのは確実な死なのだから。
今度は緋袴をめ、捲り上げ!?
「駄目だ!! 観てはいけません!!」と魔狼の目を塞ぐ。
座ったり…何かをシミュレートしているようだ。
そして、「もう、我慢できない!!」と叫び…。
幸せそうな顔で立ち上がり、汚れを確認して…「汚れてない!? 服も!? 足も!? おしっこが跳ねてなーーーい!!」と両手の拳を天に掲げて喜んでいたのもつかの間だった。
「全身を神様の力で護ってくれているのかな?」と腕を組み、また何やら悩み始めたリルリル。
今度は一体…何がしたいのだ!?