第4話 飢えた魔狼視点
もう一週間、何も口にしていない。
そこに現れたのが妙な格好をした人間の少女だ。
正直、人間を食い千切るのは好きじゃない。
奴らは往生際が悪いのだ。
こっちだって生きるために食わなければならないのに、その泣き叫ぶその声に、俺は…自分が最低なんじゃないかと思ってしまうからだ。
肉付きが良くないな。
あまり食うところが無さそうだ。
多勢に無勢であり、俺達は戦士で相手は少女だ。
俺は完全に舐めていた。
しかし、何だよ…こいつは!?
爪で引っ掻こうが、 脚や腕に噛み付こうが、何か…すり抜けてしまう。
もしかして、こいつは死霊か何かなのか!?
つい先程まで泣きべそをかいていた少女が、俺達の攻撃が当たらないと知ったからか、ゆっくりと立ち上がり、両手を胸の前で合わせ目を瞑った。
くそっ!! 舐めやがって!! 俺達は数匹同時に攻撃を仕掛けるが、またすり抜けてしまった。
ボフンッ!? と煙と共に分厚い本が、合わせた両手の前に現れ、プカプカと浮かんでいた。
あれは…魔術書か? 不味い…こいつ、魔術師なのか?
そして、少女の口から、「शुद्ध करने की छड़ी」と何かが紡がれると、右手には、先端に白いギザギザの紙が付いた棒きれが握られていた。
「ガルルルルゥ!! 舐めんな!! そんな棒きれで俺達が止められるか!!」
「馬鹿、それは…フラ…グ」
ギャオォォォーーーン!? 俺のダチが…大きな弧を描きながら300m位吹き飛んでいった!?
「お祓い棒です!!」少女はドヤ顔で説明する。
はっ!? どんなに性能の良い武器だろうが、俺たち魔狼が…簡単に殴られるはずはないのだが…。
すると今度は頭に指を当てて「Lvアップ?」とか、意味不明なことを言い出す。
そんな少女に俺は…恐怖を感じ怯えていた。
数歩後ずさりするが、俺の仲間は果敢にも飛び出す。
ギャオォォォーーーン!? ギャオォォォーーーン!? と、次々仲間が倒されていく。
何と言う馬鹿力!? この世は弱肉強食の世界だ。
しかし、幼気な少女が、あんなにも楽しそうに…俺達を…殺すのか!!
どうやら、この短時間で、優しいだけでは生きられない事を悟らしてしまったようだ。
「て、撤退だ!! お前ら、逃げろ!! あの少女は化物だ!!」
半数が殺られた。
しかし、これ以上犠牲を出すわけにはいかない。
興奮して冷静さを失った仲間を誘導して安全圏に逃した俺は、仲間と別れ…再び少女を追いかける。
あれは一体、何なのだ!?
正体を確かめなければ…。
俺は一生あの少女の陰に怯え暮らすのはごめんだ。
街道沿いに進むと、少女の後ろ姿を簡単に見つけることが出来た。
俺はゆっくりと近づく。
しかし、「おい、お前…いい加減にしろ」と首根っこを何者かに掴まれた。
それは、全く姿も見えず、全く気配を感じさせず、俺に近づいてきのだ。
その力の差は、到底覆せるものでもなく、人間に対して往生際が悪いと言った俺は死を受け入れる。
「……何をしている、さっさと殺せ!!」
「リルリルの邪魔をしなければ殺しはしない。お前、あの少女が気になるのだろ?」
こうして俺は、謎のナニカに従うこととなった。