第21話 ミレナ視点
お父様の仕事を手伝っていると…。
「ちんちくりんな格好をした女の子が冒険者ギルドの床に大穴を開けて建物を潰しかけた」と通りを行き交う人々が物騒な会話で盛り上がっています。犯人は間違いなくリルリルお姉ちゃんです。
「お父様!? リルリルお姉ちゃんが心配です」
居ても立っても居られません! お父様に許可を取り、傾いている冒険者ギルドに立ち寄ると、冒険者と魔物が戦っている!?
冒険者ギルドから溢れ出る大量のゴブリン達に、冒険者たちは撤退を始め、逃げ遅れた女子供を捕らえて、冒険者ギルドの奥へ引きずり込んでいました。
あぁ…。逃げないと…。ゴブリンたちに犯される!? そんなの世界の常識です…。例え子供が産めない幼女でも老婆でも…。ゴブリンたちには関係ないのです…。
お父様に知らせなければと、方向転換して走り出そうとすると、私と同じ背格好のゴブリンがニタァと嫌らしい顔で私の腕を掴みました。
私は恐怖で腰が抜け、そのまま失禁してしまいました。すると「ギャッ! ギャッ! ギャッ!」とゴブリンは大笑いして、私の衣服を両手で破り始めました。
「止めて!」と右手で抵抗すると、思い切りビンタされ地面を転がった私の髪の毛を掴んで、「ギャギャ!!」と睨みました。
助けて…。誰か、助けて…。
冒険者たちと目が合いましたが、彼らは目の前のゴブリンに手一杯で、目をそらされました。涙で視界が歪んでいるからは、ゴブリンの表情が読み取れません…。
「お祓い棒です!!」
えっ!? 私は袖で涙を拭う。頭部を失ったゴブリンが崩れ落ちていく、その後ろにリルリルお姉ちゃんがドヤ顔で立っていました。
「リルリルお姉ちゃん!! 怖かったぁ…わぁぁぁん!!!」
リルリルお姉ちゃんに抱きつき抑えていた感情を解放しました。
「ボク、思うんだけど、このゴブリンって、リルリルが開けた穴から出てきてない?」
「知りません!! でも、ゴブリンやっつけます!!」
褐色の肌のボーイッシュな女の子です。リルリルお姉ちゃんの新しいお友達でしょうか? リルリルお姉ちゃんのぼーっとした眼と違い、固い意思を感じる鋭い眼の持ち主でした。
リルリルお姉ちゃんは、私に抱きつかれながら、いつもの本を取り出すと、「एक तीर मारो」 と不思議な言葉で何かを唱えました。
すると、リルリルお姉ちゃんの頭上から放たれた一本の光の矢は、真っ直ぐに冒険者ギルドの正面で固まるゴブリンの集団に命中して、大爆発を起こしました。
「破魔矢です!!」
リルリルお姉ちゃんの一撃は反撃の狼煙となり、リルリルお姉ちゃんが特攻を開始すると、冒険者たちも少女に負けてられないとばかりに、命を捨てる覚悟で冒険者ギルドの床にから続く古代遺跡に下りていきました。
これがリルリルお姉ちゃんの壮絶な半生が描かれた伝記、『巫女の英雄譚』にある最初のエピソードとなるのでした。