第11話 ミレナ視点
「で、神様に授かった職業が『巫女』なんだよ。そして、ずーっと森の中を歩いて…」
商人の護衛や使用人たちが戦闘の後始末をしている最中、リルリルと名乗った女の子は、商人の主人であるお父様のカレルと私に事情を説明していた。
「なるほど理解しました。私も『ロールプレイングゲーム』該当者にお会いしたのは初めてでして」
「そうなの? やっぱり珍しいんだね。それよりも、街の場所を教えてよ」
「はい。私達は領都ベントソンを出発し、ソルダーノ大森林にある森の街ヤノルスを経由して、湖の街カールグレーンに帰るところです。ですので…カールグレーンまで一緒にどうですか?」
「うん。いいよ」
リルリル様は生まれて始めた馬車に乗ったらしく、地面の凸凹に合わせて上下する度に楽しそうに笑っていた。運が悪いと舌を噛んでしまうけど、リルリル様と話してみたかった。
「リルリル様は、何処を目指していらっしゃるのですか?」
「ミレナ、もっと普通に話してよ? 私貴族じゃないよ?」私が話しかけると、お父様の隣から私の隣へ移動してきた。
「リルリル様。ノルドクヴィスト王国の法律では、『ロールプレイングゲーム』該当者には、子爵の爵位が与えられます。つまり、リルリル様は貴族なのです。正確には領都ベントソンにて領主様から爵位と領地を授かる必要がございますが…」
「なら、まだ貴族じゃないよ。二人共お願いだから…」
「しかし、私どもは商人ですが、まぁ…そうですね…。ミレナ。リルリル様からのお願い事です。街言葉でおしゃべりを楽しみなさい」
やった! お父様から許可が出た。本当はお父様の許可があっても、不敬罪なのだけど…。
「は、はい。お父様」
「リルリル…お姉ちゃんは、一人で旅をして魔物とかに襲われなかったの?」
「狼の集団に襲われてけど、神具の『巫女装束』のおかげで、かすり傷一つ付かなかったよ」
「神具とか…凄すぎです」
「神具ってそんなに凄いの?」
「リルリル様、武具の強さは、一般から始まり、高級、希少、古代、英雄、唯一、遺物、伝説ときて神話…つまり最高峰が神具なのです。まさに神話の世界にしか出てこないのが、武具なのですよ」私の代わりにお父様が答えてくれた。
「そうなんだ? で、私は…別に目的地はないよ。そもそも何をしなくちゃならないか…知らないし」
「噂では、永遠と旅を続ける者もいれば、何処かの街に留まり暮らす者、王族に仕える者など、『ロールプレイングゲーム』該当者の意思に任され、全ては自由らしいですよ」
「ふ〜ん…。それも酷い話だね。だったら元の街にいてもいいじゃない」
「それは、元の街にいると情に流されて、力を正しく使えないからと聞いたことがあります」
「そうかな? どうなんだろ?」
リルリルお姉ちゃんは、街から離れたくなかったんだよね。なんだか可哀想…。
「リルリルお姉ちゃんは、強いし…冒険者になるの?」
「うん? 冒険者? 何も考えていないけど」
「冒険者になるのでしたら、私供も指名依頼を出します」
「指名依頼?」
「はい。通常冒険者ギルドの依頼は、誰が担当するか決まっていません。しかし、指名依頼は特定の人物へ依頼をお願いできるのです」
「カレルさんは私に何かさせたいの?」
「はい。『ロールプレイングゲーム』該当者ならば『インベントリ』が使えるでしょうし、リルリル様の強さなら護衛も不要ですので、運搬の依頼にもってこいの人物なのです」
「考えておく…」
「はい。そのときはお願いします」
「でも…お金は…必要なのか」
慣れない一人旅で疲れていたのか?
通常、ガタガタと揺れる馬車で、そんな幸せそうな寝顔はありえないのだけれど…。
リルリルお姉ちゃんは、私の肩にもたれかかりながら、ぐっすりと眠っていました。