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「ミィ、悪かった。泣くなって」




瞬きもせずに薄緑色の瞳からボロボロと涙を零すミーシャにライは弱々しく声をかける


戸惑っているのか片腕を彷徨わせていたが何度目かの往復で意を決したようにミーシャの頭の上に手を伸ばした


ぎこちない動きで薄茶色の小さな頭を撫でる




ー リンッ




ライに触れられたことでミーシャの小さな宝物が音を奏でる


その音にミーシャは益々涙が溢れてしまう





ライの瞳と同じ色を持つ鈴


小さく鳴る鈴の音の優しい音色はライの主張しない優しさに似ている






こんなに優しいのに




なんで、




なんで、














初めて会った時、ライは


『ヤらなきゃただヤられてるだけだ』と言っていた


『いいカモだとでも思ってンだろ』とも



初めてソレを聞いた時はライに喧嘩を売るなんて無謀な行為をする人たちに憤りと不満しか感じなかった


ライの強さを目の当たりにしたばかりだったし


ライも慣れている様子だったから


憤りと不満を抱えながらも


男社会はそんなものかと



そう、思っていた







けど…、







……『殴る理由があるだけマシだ』というのは




“理由もなく殴られたことがある”ということではないのか



そして、喧嘩が強くなるほど


“殴られてきた”ということではないのか









なんで、






なんで、





ライばかり、











ライが誰かに殴られてしまうことが


痛くて辛くて哀しくて哀しくて、苦しくて






『 殴りたきゃ殴れよ』と言ったけど

『おまえらは、殴らねえんだろうな』とも言っていた



殴られることを受け止めて暴力を平然と肯定するライに


信じてもらえたことが、



嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて、






けど、



『そう、思っちまってる自分が居て…、ははっ。ちょいビビった』


 


人を信じることに戸惑ってしまうライは


今までどれだけ、信じることができなかったのかと


今まで、出会ってきた人たちは、


どれだけ、




ライを、殴ったの?





そう、思えば



胸が痛くて、痛くて、張り裂けてしまいそうで、







ミーシャは身の内を無理矢理引き裂かれているようだった








「ライ、」

「ん、悪かった」

「…ギュッてして、ライ」



ミーシャの頭を撫でていたライの腕がピクッと止まる

だが、ライは何も言わずにもう一度頭を撫でると反対の手をミーシャの肩に回した


ミーシャも腕を伸ばしてライの身体に抱き着くが床に座っている2人の間にはどうしても隙間ができる


肩を抱き寄せミーシャの額を自分の胸に当て薄茶色の髪を撫で続けるライにミーシャはもう一度声をかける





「もっと、ギュッて…して」

「っ、」



ミーシャの震える声にビクッと身体全体で動揺を露わにしたライだったがやはり何も言わずにただ溜息だけを吐いた


そして奥歯をグッと噛み締めると足を崩して胡座をかきミーシャの脇に震える両手を差し入れて彼女を自分の足の上へと持ち上げる



自分の足の間に座らせるとライは腕をミーシャの背に回して力強く抱き締めた





「これで、いーか…?」


「…うん」



ミーシャが回す腕に力を込めればライは再度薄茶色の髪をぎこちなく撫でる




ー リン




ライの手が動くたびに微かに音を奏でる鈴の音のようにライは小さな小さな声で「……悪かった」とこぼした




そう言ってミーシャを包む優しい腕は男性にしては細い


なのに、腕に込められている力の強さがライの力強さも現しているようで



硬い胸板から聞こえる速い鼓動の音は

ライが今(ここ)に居る事を教えてくれて



ライの野性的でどこか透き通る香りは

ミーシャの胸を強く強く締め付けて







こんなに魅力的なのに



こんなに素敵なのに



こんなに


こんなに








優しいのに











グシャグシャになってしまった胸の内をどうしたらいいか分からなくて


ミーシャはライに抱き着く腕の力を更に強める



強く押し付けてくる小さくて暖かい身体にライは息を呑んだが腕の力を弱めずに宥めるようにミーシャの頭を撫で続けた


それでもライの胸に伝わる涙の冷たさは広がるばかりで





「…なぁ、悪かったよ。どうすりゃあおまえ、泣き止むんだよ…」



と、



未だ謝罪を繰り返すライの声はとても弱々しい





(ちがう、ちがう…。ライの言い方に泣いてるんじゃない)




そう思うのにグシャグシャな胸の内が邪魔して言葉にできない


それでも必死に違うのだと伝えるようにミーシャは首を横に振る


ただそれはライから見れば未だ許せないと言っているようにも見えて益々弱り果ててしまう



「ぁ~~ッ、もう、どうすりゃあいいんだよ…」



そう零したライの言葉にミーシャはグッと唇を噛み締めると少しずつ腕の力を緩めた




「ミィ?」



ミーシャの腕にあわせてライも腕の力を緩めるが何も言わないミーシャを不思議に思い彼女の名を呼ぶ


腕は緩めたが未だ互いの身体に手を回したまま


ミーシャはソッとライの顔を覗き込んだ



「っ、」



あまりの至近距離に赤面するライが慌てて離そうとするもそれより前にミーシャはソッとライの頬に手を伸ばす



「……痛かった?」



そう問いかけたミーシャの言葉にライは金の瞳を大きく瞠った



「は?」


「いっぱい、殴られたの?…まだ、痛い?」


「っ、」



ボロボロと零れ続ける涙も拭わず

震える声で尋ね続けるミーシャの姿に


ライは息を呑む




そして、



グシャリと


泣きだしそうな笑みを浮かべると




「もう、痛くねえよ」と、





小さな鈴の音のように、囁いた











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