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居間へ入れば床に直接座り片肘を付けながら頭を抱えテーブルの上の本と香草を鋭い金眼で睨みつけるライの姿がミーシャの視界に映る



斜め角度に傾いている御尊顔の美麗さにミーシャの心臓は簡単に止まりそうになってしまう、危ない


ミーシャに気付いたライがその御尊顔を上げ「時間か?」と低いながらもよく通る美声でミーシャに問いかければあまりの聴き心地の良さにミーシャの心臓は大きな音を立てた、危ない



「うん、そろそろお昼の準備始めようか。ごめんね、待たせちゃって」

「いや。ダチは?」

「エイミー?お店があるからね、もう帰ったよ」



エイミーとすっかり話し込んでしまったため大分時間が経っていた

といってもミーシャの暴走が8割で途中からエイミーは聞き流してばかりいたのだが

聞き流しつつもミーシャが暴走して目元を冷やすのを忘れる度に注意するエイミーは流石と言えた

おかげでしっかり冷やすことができたミーシャの吊り目がちな薄緑色の瞳はすっかり元通りである



ライ曰く猫を彷彿させるその瞳でミーシャが机の上を覗き込めばライは反対に上体を起こし両拳を上に向け背筋をグッと伸ばした



「ずっと勉強してたの?そんなに根詰めて頑張らなくてもゆっくりでいいんだよ?」

「ぁあ?コレで勉強つうのか?サッパリわかってねぇよ」

「いきなり全部覚えられる人なんて滅多に居ないよ」



固まった身体を解すように伸びたり捻ったりするライの身体から関節が鳴る音がした

ライの華麗な大立ち回りを知っているからこそジッとしているのは苦手なのかもしれないと考えたミーシャはライの新たな一面を知れたことが嬉しくて微かに笑みがもれてしまう



「仕事してく中で一つずつ覚えてくれればいいし、分からなければいつでも聞いて。私でもお父さんでもお母さんでも、誰かしらは傍に居ると思うし」

「………」



ライの役に立てるかも知れないことも嬉しくて笑顔が自然と浮かんでしまうミーシャの言葉にライは身体を解すのを止めると頬を軽く赤らめながら怪訝そうに柳眉を動かし何とも言えない表情をした、その御尊顔もかっこいい知ってた


髪が短くなったことでよく見えるようになった御尊顔はどんな表情を浮かべていても麗しい、まさに美神、天が創りたもうた奇跡の産物である、なのにその美麗さを惜しげもなく提供する魔性さ、何たる所業、ライこそ大魔を供え天の神々しさをも供えた唯一無二の存在、そう、それが、だいま「……あめぇ奴」



「ん?」



鼓膜を震わす美声がポツリとライの口からこぼれたが如何せん暴走特急先頭に乗車していたミーシャには聞き取れなかった、むしろ降車できただけ凄いのかもしれない


ミーシャが瞳を瞬かせ再度問いかけるとライは深い溜息を吐き未だ微かに頬を染めながらも真剣な表情でミーシャへと向き直る



「俺が言うことじゃねえかもしんねえが、テキトーな仕事したら困るのはそっちだろ。嘗めてっといつか痛え目見んぞ、締めるとこはしっかり締めろや」








ー ドッキュゥゥゥゥゥゥゥウン





やられた



低いながらもよく通る美声を更に低くさせた冷たさを感じさせるライの言葉にミーシャの心臓はカケラも残さず穴を開けられた気がした



(なに、な、なに、なになになになに何それっっ!!!!!!)




なんて真面目なんだ

そして誠実で責任感があって真っ直ぐで優しくて頼りになって男らしい


そんな全てを兼ね備えた言葉を美声で放ったかと思えば月のように輝く金の瞳を鋭く眇めることで畏怖をも感じさせるのに神の如き御尊顔の頬は微かに赤く染まっているという所業は庇護欲さえも煽ってくる



(………殺される)




ミーシャは己の命日は今この瞬間なのだと半ば本気で覚悟した




ライの尊さに表情を凍り付かせ死に抗うように時を止めたミーシャの微動だにしない様子にライは些かバツが悪そうな顔をする

「ぁ~、」と頭を掻きながら顔を背けると言いにくそうに言葉を続けた



「俺は頭ワリイからな、そもそも使ったことすらほぼねえ。ど突く時ぐれえだ」

「………」


「だからまぁ、この仕事もどれだけ出来るかわかんねえ。こんな細けえ仕事なんてやったことねえし」

「………」


「けど、できねえ仕事で金貰えるとも思ってねえ。ンなんで貰ったとしても胸糞ワリイ」

「………」


「なら俺はこの仕事を熟せるようになるしかねえ。それにはおまえ等が雁首揃えて見張って俺が下手こいたらぶん殴るぐれえで丁度良い」

「そんなことしない」

「……だよなぁ」



時が止まっていたミーシャはライの言葉に反射のように答えた

仕事に関して真面目でミーシャ達家族に誠実に熟そうとするライの真剣な考えにミーシャの命は刻一刻と削られていたが続けて聞こえてきた言葉は聞き捨てならなかった


ミーシャの真剣な表情と強い言葉にライは顔を背けたまま横目でミーシャを一瞥するとハッと鼻で笑う、が、すぐに柳眉を下げて困ったように笑った


横を向きながらのその笑みにミーシャの心臓のカケラがまた音を立てる




「…ぶん殴れば良いのに、奥さんも師匠も…おまえも。けど、多分、おまえら全員すぐには殴んねえんだろうな」

「殴るわけないよ」


「坊ちゃん引っ叩いたくせにな」

「うっ」



当然だと言うように力強く答えるミーシャにライが揶揄うように指摘するから言葉が詰まってしまう

ソレはソレ、コレはコレじゃないだろうか



「師匠もぶってえ腕してっから腕力すげえだろうし、奥さんは細え腕で殴ってんのも見たことねえけどミィの頬引っ張ってんのは初っ端から見てるしな。あいつらも殴ろうと思えばすぐ殴れんだろ」

「だから、理由もなく殴らないってば。勿論私も」

「ははっ」



ミーシャの主張を可笑しそうに笑ったライは片膝を立てるとそこに腕を置く

ミーシャの前に座っているというのに顔を背けたライの金の瞳の視線はミーシャの薄緑色の瞳と未だ合わない



「殴りたきゃ殴れよ。殴る理由があるだけマシだ。………けど」


「………」



「殴れる腕があって、理由があれば殴る度胸もあんのに、おまえらは………殴んねえんだろうな」


「………」



「俺が下手こいて、めんどくせえ事しでかしても、………なんでだろうな。おまえらは、すぐには殴んねえんじゃねえかって、」


「………」



「そう、思っちまってる自分が居て…、ははっ。ちょいビビった」


「………」



「だから、まぁ、なんだ?ぁー、おまえらはぶん殴って仕事教えるってことしねえだろうから、締めるとこはキッチリしねえと俺が仕事できねえままになんぞつうか、いや、自分で言ってりゃ世話ねえしクソ情けねえけどな」


「………」



「……ぁ?っいや、つっても仕事覚えねえっつー訳じゃねぇぞ?やるからにはこの草も覚えてやるつもりだし」


「………」



「あと、まぁなんだ。…俺が下手こく前におまえ等に聞けるって言うのも面倒事にならねえで済むしな?別にソレがワリイって言ってるわけじゃねえ」


「………」



「おまえらがやってくれんならやりゃあいいし、俺だって言われたこと聞かねえほどクソでもねえつもりだし。だから、な?まぁ」


「………」





「……ミィや、師匠らが近くに居てくれるっつーのは、正直、………助かる、と、思ってっし。………ありがとな」


「………」



「~~ッ、悪かったよ!俺が口ワリイの知ってんだろっおまえも!おまえが言ったことにキツい事言って悪かったって!だから、……なぁ」


「………」


















「いい加減、泣き止めよ……ミィ」











ライはそう言って困惑した様子で声をかけたが


ミーシャは返事をするどころか


滲んだ視界の中で


折角向けられた金の瞳を捕らえることさえ



ひどく 難しかった











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