9
「あんたの好みがクソ悪いのは分かった」
先程まで苦しそうに蹲っていた青年は未だ少し赤い金の瞳を楽しげに細めてそう言った
好意が伝わったと喜ぶべきか好みが悪いと言われたことに哀しむべきか細めた瞳がカッコイイと悶えるべきかは悩みどころだ
「だが、まぁ…。また頭がイカれてると周りから思われたくなきゃ、ンな事言うのはやめとけ」
「男の趣味がイカれてるのは確からしいがな」と喉の奥で笑う青年にミーシャは目を丸くする
心臓が壊れそうになりながら必死で想いを伝えたのに
今は違う意味で心臓の音が止まりそうだ
「それって、つまり………。私とは、恋愛…してくれない、ってこと…?」
身体の内から引き裂かれてしまいそうな痛みにミーシャは知らずのうちに自分の服を握りしめていた
痛みに耐えながらそれでも震える声で問うミーシャに対して青年はバツの悪そうな顔で視線を逸らしてしまう
初めて見るその表情もかっこいいなんて反則だ
縋るような想いで見つめてしまうミーシャに青年は頬を淡く染めて「ぁー…」と小さく唸った
「あんたと、ってより俺はあんたが言う、その、なんだ。
……す、好きだなんだっつーのがわかんねんだ。あんたの男の趣味が悪いのはわかったが、だからっつってこんな奴わざわざ相手にしなくてもいーだろ。それに、周りの奴らにあんたまで気味悪がられるぞ」
(…………)
「と言うことは、私が嫌なわけではないんですよね?」
「は?」
立てた膝の上に肘を置き後頭部をガシガシ掻きながら言いにくそうにしていた青年に光明を見出したミーシャはここぞとばかりに前のめりになる
「お兄さんは恋する気持ちが分からないだけで、私のことが嫌だというわけではないってことですよね⁉︎」
「ぁあ⁉︎」
「だって!私と、っていうのが嫌なわけじゃないんですよね⁉︎」
「…っ‼︎」
食い下がるミーシャの発言に青年は驚いたように目を瞠りポカンと口を大きく開けた
かと思えば真っ赤な顔で「はぁっ!?ンなことっある訳…っ」と叫ぶも途中で言葉を止め信じられないものを見たような顔で口をパクパクしている
「私のこと、…嫌ですか?」
「っ⁉︎」
嫌だと言われたらと思うとまたもや瞳に涙が浮かびあがってきてしまうがここは譲れない
例え嫌だと言われても『嫌なところは直すからっ』と食い下がるつもりである
そんな強かなミーシャの内情を知る由もなく青年はまたもやミーシャの涙に慌てつつも「知るかッ!!!」と全身を赤く染めて叫んだ
「じゃあ知ってください!!」
「ぁあっ!?」
「私のことッ知ってください!それで嫌じゃなかったら私と恋愛してください!」
「はぁっ!?あんたッ俺の話聞いてたか⁉︎」
「もちろんです‼︎だからお願いしてるんです!私のこと知ってもらって嫌じゃなかったらそこから好きになってくれるかもしれないじゃないですか!」
「どんだけ前向きなんだよ‼︎」
周りに人がいないからといってもお互い譲らず怒鳴り合うそのあまりの応酬に人が集まってきそうだ
どちらも肩でゼェゼェと息をし眉間に力を入れて睨みあう
「大体ッあんたなら他の男でも寄ってくるだろーが!好みだなんだっつってもそん中から好みに近い男を選べばいーじゃねぇか!」
「そんなの嫌‼︎」
「ンでだよっ‼︎」
「私は貴方じゃなきゃ嫌なのッ!!」
「っ‼︎」
ミーシャの力強い否定に息を呑んだ青年を追い込むかのように「他の人なんて嫌よ!私は貴方がいいの!」とたたみかける
青年は目を瞠り瞳に涙を溜めて睨んでくるミーシャを見つめるが次の瞬間にはグシャリと顔を歪めて頭を抱え膝に顔を埋めてしまう
「タチがわりぃ……」
くぐもった青年の弱々しい声にマズイ推しすぎたかと今更ながら慌てるミーシャだったが
それでも…
「私、貴方がいいです。私が勝手に腕をひいても治療しても顔を見ても許してくれた貴方がいい。突然泣きだすような女に慌ててくれた貴方がいい。私の好みを笑ってわかってくれた貴方がいい。突然告白した私に対してちゃんと返事をしてくれた貴方がいいんです。……私のことを、心配してくれた貴方がいい」
もう、諦めることなどできないのだ
「他の人からどう見られるかはどうでもいいんです」
「私は貴方が好きなんです」




