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(今日だけで今までの恋愛の神様の加護を全部使い切ったかもしれない)



未だ身体の火照りを残しながらミーシャは隣りで肉料理を口に運んでいるライをソッと眺めた


昼食が野菜ばかりだったためか今日の夕食には肉や魚料理が多く並んでいる

昼にミーシャとライが用意した料理も一緒に並べられているがライが手に取るのは肉料理が多いように見える

市場でも肉が食べたいと言っていたライは肉料理が好きなのかもしれないとミーシャは笑みを浮かべた



(可愛いなぁ…)


金色の瞳を普段より輝かせ口を動かす大好きな人にミーシャの母性本能は止まらない

本日のミーシャの暴走特急はブレーキが壊れているため簡単にライに魅了されてしまう、壊れていなくても簡単に暴走するがソレはソレ、コレはコレである


キュンキュンする胸を楽しみながら食べることを忘れているミーシャに料理に夢中だったライも流石に気が付いた


「……ンだよ」

「かわぃぃ…」

「あ?」


思わず口からこぼれてしまった

美神の柳眉が寄ったことでミーシャは慌てて「何でもないっ」と誤魔化すもライの怪訝そうな表情は変わらない

ライは可愛いと言われても喜ばないだろうことは簡単に予想できたミーシャは不自然にならないように話を逸らすことにした



「美味しい?」

「……うめぇよ」

「そっかぁ」

「…ンだよ、おまえの分そこにあんだろ。こっち見んな」

「ヘヘッ。ライはお肉が好きなの?」

「ぁあ?……別に。前は食えりゃあなんでも良かったからな、気にしたことねぇよ」

「そっかぁ」



デレデレである


例えココでライがゲテモノ好きだと言ったところでミーシャは「そっかぁ」と顔面を溶かしていただろう

デレ熊に負けず劣らず顔面を溶かしているミーシャにライは柳眉を寄せて居心地悪そうに「見てんじゃねぇ」とミーシャの額を弾いた





自分の行動に動揺していたライもライに悶絶していたミーシャもニナに促され料理に手を付け始めれば少しずつ落ち着くことができた

微かに早い鼓動の音を持て余す二人を微笑ましく眺めていたニナはダイニングテーブルに掴み合いの男達が倒れ込みそうになったところでその笑みのまま静かに圧を繰り出した


「カーター、ダリオさん」と


落ち着いた呼びかけに大の男がピタリと固まったところでニナは声音を変えずに「まさかいい年した大人が子供達の前で食事を駄目にしたりしないわよね?」と淡々と続けたことで男たちは大人しく席に着いた


その様子にライは熊男を警戒するのが馬鹿らしくなっていたが馴染みとなっている光景に過剰に反応することのないミーシャは隣りの大魔神に胸をときめかせることに忙しかった



「かぁわいいなぁ、ミーシャちゃん」

「骨抜きだろ?」

「だなぁ。おまえがそう言うから気になったが正直半信半疑だったぜ」



僅かに赤くなった額を押さえながらも蕩けた笑みを浮かべ続けるミーシャにダリオは頬杖をつきながら感嘆の声を上げる

その言葉にカーターはぶわっはっはっと笑い声を上げニナも笑みを浮かべながら話に加わる



「ライくんは私たちにとっても大事な子なんだからダリオさんあんまり意地悪しないでくださいね?」

「なんだなんだ、ニナさんまで骨抜きかぁ」

「名前で呼んでんじゃねぇ」

「しつけぇなぁ、おまえ」


睨みつけてくるカーターに巨体をわざとらしく竦めて返したダリオは皿の上の大きな肉の塊を口に運びだす

その様は肉食熊の晩餐のようだがダリオは姿勢良く口の中のものを飲み込んでから再度口を開いた、行儀の良い熊なのだ


「そりゃあミーシャちゃんを誑かす奴なんて身包み剥いで財産一つ残らず絞り上げてやりてぇがコイツじゃあ仕方ねぇなぁ」

「まぁなぁ」


「……どういう意味だ」


自分のことが話題にあがりその内容がひどく居心地悪いものだったためライは聞き流していたが気になる発言に思わず口を挟んでしまう

その間も当事者のもう一人は口に小さく食べ物を運びながらもチラチラとライを見て顔面を溶かしていた


訝しげに尋ねるライに図体のデカい親父二人は合わせたかのようにニヤァと笑みを浮かべる

その様子にライが金の瞳を眇めて返せばダリオがニヤけた顔のまま口を開いた



「可愛い娘の“理想の王子様と幸せになりたい”なんて可愛いお願い、聞いてやりたくなるのが親心ってもんだろ?」

「てめぇは親じゃねぇがな」

「馬鹿野郎!俺は可愛いミーシャちゃんの第二の親父だ!」

「ンなもんいるか!ミーシャの親父は俺一人で充分だ!」

「てめぇ!何独り占めしてやがる!」

「ったり前だろうが‼︎誰がてめぇなんかに可愛い娘の父親の座を渡すか!」

「何も全部譲れとは言ってねぇだろうが!構いすぎるとその内『お父さんウザい』とか言われるぞ!」

「ハッ‼︎俺の可愛い娘がンなこと言うか‼︎」

「どうだかなぁ。いくらミーシャちゃんが可愛くて天使でも暑っ苦しい親父は嫌だろう」

「暑っ苦しいのはてめぇだ!邪魔くせぇ髭面しやがって!」

「あんだと!?この不細工野郎‼︎」

「うるせぇ!この詐欺熊野郎‼︎」



ミーシャが溶けている間にまた罵り合いが始まってしまった

ライを“ミーシャの理想の王子様”と揶揄うつもりだった男達はお互いの悪口を言い合うことに夢中になっている

しかし今回は掴み合いがなく合間合間に飲食を繰り返しているので学ぶことのできる大人たちなのだろう



ミーシャが何百回目かのチラ見をした時に金の瞳と目が合った

ライが困惑げに柳眉をよせているのでミーシャは「いつものことだから気にしないでいいよ」と明るく返しついでに空になっていたライのグラスに果実水を注ぐ、ミーシャの脳内ではもう立派な若奥様だ

そんな若奥様の思考に気付くはずもないライは注がれたグラスを手にミーシャへ問いかけた



「あのおっさんには食ってかかんねぇんだな」

「ん?」

「騒音野郎にはおまえキレてたじゃねぇか。おっさんはいいのか?」


ライの言葉にミーシャの溶けていた顔面や思考はやっと戻り形を取り戻した薄緑色の瞳を瞬かせた、が思い当たる節がない



(………今日、私なにか怒ったっけ?)



朝の出来事をすっかり忘れているミーシャの今日一日の思い出は【ライが好き】【ライがかっこいい】【ライが好き】で埋め尽くされている

記憶を辿り青髪男が来た辺りを重点的に思い出すも【ライと結婚したい】と思ったことしか思い出せない


眉間に皺を寄せ思い出そうとするミーシャにライも肉料理を口に運びながら首を傾げる

その様子にまたもや溶けそうになったミーシャは慌てて立て直しライに聞いてみることにした


「私、何に怒ってた?」

「は?覚えてねぇの?」

「ライがかっこよかったことしか覚えてない」

「………おまえ、本気で頭大丈夫か?」



若干本気でミーシャを心配するライにミーシャも申し訳なくなるがライがかっこよすぎるのが悪いと大魔神のせいにしておくことにした

なぜこんなにもかっこいいのに当の本人でさえ理解してくれないのだろうかとミーシャが内心頭を抱えたところでやっとライの言っていた“キレた”出来事が脳内をかすめた


思い出したことで自然とミーシャの眉間に皺が寄ってしまい低くなってしまった声音で「あー…」と声を漏らすとライは口の中のものを飲み込んでからまた手を料理へと伸ばした、そこまで気になるほどの事ではないのかもしれない


「思い出したのか?」

「……うん」

「ンなツラするくせにおっさんが言う分にはなんも言わねぇんだな」


純粋な疑問だけを浮かべるライにミーシャは苦笑しながら答えた


「あんなに楽しそうなのに邪魔しちゃ悪いでしょ?」

「……そうか?」



取っ組み合いになりそうな雰囲気の二人を横目でみたライにミーシャも食事の手を再開させながら口を開く



「小さい頃に一度だけ間に入っちゃったことがあるんだけど、そしたらもっと収集つかなくなっちゃって…。それからはまぁいっかって。お父さんも楽しそうだし」

「あー。確かにおまえ入ると余計めんどくさそうだな」

「二人とも仲良いんだけどねー。私のことになると何故かすぐ言い合いになっちゃって」

「戯れてるだけだからライくんもその内慣れるわ」



会話に入ってきたニナの言葉にライも納得したのかその後は特に気にせずに食べていた

順応力の高いその様子も素敵だとミーシャが何千回目になるかわからない脳内溶解を繰り出すことでその日の夕食の時間は過ぎていった








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