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「出来た!」




ミーシャはフライパンを皿の上にひっくり返して最後の料理を終えた

その達成感に溢れた声が聞こえていたのだろう

ダイニングテーブルからライが調理場の方へと顔を出し今し方用意できた料理を覗く


「これで全部か?」

「うん!運んでくれてありがとう」

「おまえはすぐソレだな」

「ん?」

「持ってくぞ」

「あ、うん。お願いします」


どういう意味だろうかとミーシャが瞳を瞬かせるもライは詳しく話すつもりはないらしく口角を上げるだけだ、とてもかっこいい

皿を手にダイニングテーブルへ向かうライをミーシャは飲み物を用意しながら首を傾げて見送った




ダイニングテーブルの上には彩り豊かな色彩が広がっていた

野菜たっぷりのポトフに野菜たっぷりのオムレツ、たっぷりの茹で野菜

そして僅かに焼き直した硬めのパンにニンニクを摺り込み刻んだ香草をふりかければそれだけでも食欲をそそるいい香りが広がる



野菜の剥き方を一通りライに教えるため使用する野菜の量は多くそれに伴い料理の数も増えてしまったがポトフや茹で野菜は余れば夕飯にまわせるだろう


見るも無残だった根菜も今ではホクホクと湯気を立て他の野菜たちと共に食欲をそそらせてきた



「やっぱすげぇな、おまえ」

「え、そうかな?」

「こんだけ作れんのも食い意地のおかげか?」

「違うッ…と、信じたい」


ライの揶揄い混じりの声にミーシャは否定をしてみたもののあながち外れてもいないので思わず尻窄みになる

ソッと視線を逸らすミーシャにライはケラケラと笑っているがミーシャとしてはその笑みがとても可愛いと悶えてしまう




野菜の下処理中は目元を赤くし壊れ物を扱うように手元を動かしていたが力加減を覚えた後は時間をかけながらもライ一人で薄く皮を剥けるようになっていた


そうなるまで一通りの野菜の剥き方をライの腕の中で披露していたミーシャはライの乱雑切りが無くなっても何かと理由をつけて手を添えていたため終始ご機嫌だった

ライの腕の中に居続けるために敢えて難しかったりめんどくさい野菜の下処理を多めに披露したことはライには秘密であったが流石に耐え兼ねたライに最終的には強制退去させられてしまった


ミーシャとしては今後ライ一人でもその野菜の下処理を完璧に出来るようにとの親切心からだったのにと口を尖らせ不満を露わにしてみたがライに素気無く返されてしまっていた

間違っても決してミーシャ自身の欲を優先した訳ではないのだ、決してそう決して



それでもライに傍に居てほしいミーシャは一通り下処理が済んで水に浸らせた様々な野菜を見つめて尚、口実を探し頭を捻らせていた、が、ライ自ら手伝うと言ってくれたため諸手を挙げて歓迎した


ミーシャが口頭で野菜の切り方や処理の仕方を説明し時には手を添えながらライに用意してもらった野菜をライの隣りで次々に調理していく


ミーシャが料理を仕上げていけばライは美味そうだなと口角を上げ始めた

大好きな人が隣に居てそんなことを言ってくれれば嬉しくならない筈がない


ミーシャは抱きつきたい衝動を必死に抑え顔面の筋力を全力で放置した



全ての下ごしらえを終えたライにお礼を言いライを思う存分堪能できてご機嫌なミーシャは休んでていいよと告げたがライは見ているのが面白いと隣りに立ち続けた

手伝ってくれただけではなくそう言って傍に居てくれることもミーシャは堪らなく嬉しかったし幸せだった


そして出来上がった料理を率先して運んでくれる


ミーシャはその様子を見て頬を染めながら確信した



そうこれぞまさしく共同作業

ライと手を取り合った愛の結晶だ

一緒に作り最後はライが運んでくれる

これはもう夫婦と言っても過言ではない



度重なるライからの幸福の福音を受け続けた今日は普段よりもミーシャの暴走に拍車をかけていた、大好きですっ



ライの複雑な心の機微など全く考慮せずに暴走しているミーシャは顔の筋力を放置したままニヤニヤと暴走特急に乗車していた

そんな乗員に気付く筈もなくライはテーブルの上の料理を凝視していた金の瞳を扉の方へと移すと「師匠たちまだか」と小さく呟いた


その待ちきれない様子にミーシャは更に顔が溶けてしまう



「もう帰ってくると思うんだけどね。思ったより作る量多くなったから作ってる途中で帰ってくると思ったんだけど」

「…呼びに行くか?」

「ははっ!いいね、一緒に行こうか」


どこかソワソワしているライの申し出にミーシャは堪らず笑いを溢してしまう

早く食べたいだろうに父であるカーター達を当然のように待とうとしてくれるライのことがミーシャは堪らなく好きだと思った



思ったから、抱きつくことにした



「はっ⁉︎」

「えへへ~」



横から抱きついてきたミーシャにライは片腕を上げて驚きの表情で見下ろすが顔も脳内も蕩けまくっている今のミーシャにはそんなライの動揺など御構い無しだ


「ライ好き!大好き‼︎」

「はぁッ⁉︎ッンだいきなり!?」

「どうしよう、私今日すっごい幸せ‼︎一昨日も昨日も幸せだったのに今日もっと幸せでどうしよう‼︎」



突然のミーシャの奇襲にライは訳もわからず顔を真っ赤に染め上げた



「は、はぁぁぁあ!?!?知るかッ!!!」

「それに今日いっぱいライに抱き着けて本当に嬉しいんだけどどうしたらいい⁉︎」

「なっ⁉︎ッて、てめぇが勝手にひっついてるだけだろぉーが!!!!」


「だって!!ライのこと大好きなハブッ「黙れ!!!!」



ミーシャが脳内暴走特急を思わず体現してしまっていると身体中を真っ赤に茹でらせたライに肩を掴まれベリっと音が鳴りそうなほど引き剥がされたうえに大きな手で口元を覆われてしまった


突然暴走してきたミーシャに意味がわからず肩で息をして睨みつけたライは「何ッいきなりトチ狂ってやがんだ!どこで頭沸かせやがった!?」と美声をこれでもかと低め唸るように吠えた


しかし、今のミーシャには効かない


なんせ彼女は今暴走の最中にいるのだ


今日だけでライに傍に居てやるだの家族を守ると決めてるだのミーシャを泣かせる奴に腹が立つだの数え切れないほどの極太の矢を射られてきたのだ


ライのことを大好きなミーシャが暴走するなというほうが難しいのだろう


顔を真っ赤にさせ険しい顔で怒鳴ってこられてもそれが大好きなライなら暴走したミーシャにとっては胸をときめかせる要因にしかならない


暴走真っ只中の思考力が低下しているミーシャは自身の口元を覆っているライの手を両手でソッと包むと静かに瞼を閉じて







ー ちゅっ



「ッッッッッ!!!???!?!?」




バッとライが掴まれていた手を振り払うとミーシャは閉じていた瞼をソッと開いて目元を染めながら両手で自分の口元を覆った



「ヘヘっ、ライ大好き」

「ッッッ!?!?!?!?」



はにかみながら笑うミーシャに対してライは赤を塗りたくったような顔のまま金の瞳をこれでもかと見開き言葉にならない声をあげていた

ミーシャの唇が触れた手を反対の手で掴みどうすることもできずに震わせ「なっ、は、な、、ッ!?」と動揺を露わにする


そこでやっとミーシャの蕩けた思考が形を取り始め、しまったやり過ぎたと反省をし始めたのだがもう遅い


ライは変わらず言葉にならない声をあげ続け思考が追いついていないようだった


「えーと、…ライ?」

「ッッ!!」

「ごめんね、ちょっと……我慢できなくて」

「はっ、はぁぁぁあぁぁあ!?!?」



青髪の騒音野郎に負けないほどの音量だった

ミーシャが思わず両耳を押さえてしまえばライはそのまま音量を変えずに更に吠える


「おッ、おまえ!!は!!何ッッしてんだ!!!!」

「えーと、キス?」

「ばッッッッッ!!!!」


「ごめん、あの、ほら、ライのこと好きだなって気持ちが溢れちゃって…こう、気づいたら、ちゅって」

「~~~ッッッこンのっ!馬鹿女!!!!!」

「えぇ!?」


ライの怒声に思わず情けない声で返してしまったがフーッフーッと息を荒げる獣に流石のミーシャもシュンと肩を落として反省した


「ごめんなさい」と殊勝に謝るミーシャにライは顔色も動揺も変えられずにいたが徐々に傷のある柳眉を寄せ始めるとボソリと呟いた


「……ンなことも、平気なのか」

「え?」


ライの呟きの意味がわからずミーシャが顔をあげればライはグシャリと泣き出しそうな顔をしていた

その表情にミーシャは息を呑み慌ててライに詰め寄る


「ご、ごめんね、ライ!そんな、嫌だとは思わなかったの!ごめんなさい!!」


ミーシャが詰め寄ってくるのを僅かに身体を震えさせながらも許したライは静かにミーシャを見下ろした

眉を下げ泣き出しそうなミーシャの表情に益々苦しそうな表情をするとライはミーシャの頭に手を乗せその髪を思いっきり掻きまわした


「わっわっわ、ライ⁉︎」

「………別に、…ゃじゃねぇよ」

「え?」

「うるせぇッ!おまえが痴女なのは知ってんだよ!くそっ油断すんじゃなかった…!」

「えぇ!?」


小さく震えた声とは別のいつもと同じ美声は変わらず暴言を吐いていたがミーシャはそのいつもと変わらないライの態度に安堵した


髪を掻きまわされながらもう一度ごめんね?と謝るミーシャにライは深い溜息を吐くと手を離した



「もういい、次からやんなよ」

「………」

「………おい」

「……………ちょっと、約束はできかねますね」


自分の欲に忠実なミーシャは嘘もつけない

金の瞳から逃れるように視線を逸らしながらボソリと呟けば今度は大きな両掌でガシッと頭を掴まれ力を込められた


「痛い痛い痛い」

「ミィよぉ、わかったな?」

「無理だよ無理!大好きなんだもん!無意識だったんだもん!極力気をつけるけど約束できない!」

「ッおっまえは…!!」



お互い譲らずギャーギャーと喚いていた攻防は玄関の先から聞こえてきた両親の「ただいまー」という声が聞こえるまで続けられた










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