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愛しくてたまらない  作者: ゆーく
3日
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ライの突然の福音にその言葉だけで一生待ち続けられるとミーシャは上げていた顔を再度両手で覆う


いや一生待ち続けていたら恋愛できないまま終わってしまうではないかそれは嫌だライとイチャイチャしたいでも今も結構引っ付かせてもらってるないやでもやはり恋人だからこそできることもある、とミーシャは無事にいつもと同じ暴走特急に乗車した


定員一名無限の彼方まで走り出した特急列車を駆け巡らせるミーシャにライは飲み干したグラスを置いて声をかける



「おまえいつまでそうやってんだ」

「……ちょっと、待って」

「別に俺はかまわねぇが師匠達が戻るまでに昼飯用意すんだろ。ンな時間かかんねぇもんなのか」

「や、でも………ライのせいで、」

「ぁあ?」



ミーシャを暴走特急に乗せた張本人は不満げに柳眉を片方上げる

その無自覚さが罪なのだとミーシャは最強の大魔神相手に悶えつつ懸命に頭を切り替えようと努力した



「お、お昼、何が食べたい?」

「特にねぇ」

「ない、の?」

「あぁ。昨日食ったのも美味かったしな、何でもいい」

「そ、そっか」

「奥さんの飯もうめぇがな。ミィが作ったのも美味かったしおまえが作るのは興味ある」

「はぅぅッ」


コレである

必死に切り替えようとするミーシャに対して大魔神は膝に腕を立て掌の上に頭を横に乗せ楽しそうに細めた金の瞳でミーシャの顔を覗きまたもや矢を射ってくるのだ


満身創痍である



奇声を呻きながら未だ赤い顔を両手で覆って動かないミーシャにライは細めていた瞳を今度は不思議そうに瞬かせる

ミーシャが動かないならまだ時間も大丈夫なのだろうと判断したライは傾けていた上半身を起こしソファの背に凭れ掛かると片足を反対側の大腿の上に乗せた

ミーシャの奇行にもすっかり慣れたものである


ライは右手を上げ親指と人差し指の爪を擦り合わせるのを何ともなしに眺めた

この家に来てから短く切った爪には今までこびりついていた泥も見当たらない

特に意味もなく取ったその行動をミーシャは覆った手の指の隙間から覗き(何その格好かっこいい…っ!)と更なる悶えに襲われるのだが大魔神は当然気付かなかった


















度重なる無意識で獰猛な攻撃を全て受け切ったミーシャは満身創痍になりながらも逃げずに襲いかからずにいれた自分を誇らしく思った


気持ち胸を張りながらお気に入りの淡い橙色のエプロンを身につけ横に立つライに「どう?付け方分かる?」と声をかける

その問いにライは「あぁ」と一声で返すと後ろで交差させた紐を前で結びミーシャに問い返す


「これでいーんだろ?」

「………最ッ高」

「は?」


口を両手で覆い歓喜に震え頬を紅潮させるミーシャにライは柳眉を訝しげに寄せる

その鋭い瞳に射抜かれているミーシャは気にせずに目の前の大好きな人を頭の上から爪の先までじっくり何度も眺めた


ライが今日着ているのは昨日購入したばかりの砂色の上衣と黒茶の大きめの下衣だ

上衣の襟の部分は鎖骨が見えるほど切り込みが入れられているがそこに通されている焦茶の紐でその魅惑的な肌の面積を自在に調節できる

ライは手首まである長い袖を肘までめくると次に腰に付けた黒色のエプロンの紐を再度調節し始めた


厨房に入ってもらう際には厨房服を身に付けてもらうのだが店が再開していない今ではまだ必要がないだろうと思っていたためミーシャの友人であるエイミーに後日届けてもらうことにしてある

そのため皮剥きの練習時汚れないようにとミーシャは父が家で使用するエプロンをライに渡していた、汚れないためである決してその姿が見たいとかではなく決してそう決して


そしてその姿が長身で足の長いライにはよく似合っていた

ミーシャは目の前の完璧な美神にやはり絵の腕を神がからせるまで磨こうと内心で固く決意しつつも何故今の自分にはその腕がないんだと血の涙を飲み込んだ





「ライは皮剥きしたことないんだよね?」

「あぁ。そもそも剥く必要あんのか」

「わかる、めんどくさいよね」


調理台の上に各種様々な野菜を並べながら同意してはいけない問いにミーシャは至極真面目に肯く


髪を編んだり即興で創作料理も作れるミーシャだがその実細かい作業をあまり好まない

できないこともないのだがめんどくさいのだ

皮剥きにしても幼い頃に何度か指を切ったおかげで今は苦もなく剥くことができるが皮のまま使えばいいのにと毎度こっそり思っていた

その思いが家で食べる際の料理で野菜の切り方のばらつきに表れているため親には当然ミーシャが大雑把なのは知られておりその結果ライの断髪式にてハサミを持つことを許されなかったのである



しかしライには今後お客様に出すための料理の仕込みを用意してもらうため妥協は許されない

ミーシャは「でも皮が身体に悪いのとか食感が悪くなったりするからね~」と説明しながら二人分の調理用ナイフを用意した



「じゃあとりあえず、先ずは一通りの野菜の剥き方を一気にやってみようか」

「いきなりかよ」

「大丈夫、今回だけじゃないし何回もやっていくから」

「それなら、まぁ…」


根菜を一つ手に取り眉間に皺を寄せるライを見ながらミーシャはニコニコしてナイフを一本手渡した


「まずそれからやる?それはね、こうして持ってナイフを寝かせるように当てて…」

「……えらく楽しそうだな、めんどくせぇんじゃねぇのか」


不思議そうに美声を落としてきた相手にミーシャは思わず手を止めてライを見上げると薄緑色の瞳をパチパチと瞬かせた

そしてフワッと笑みを浮かべると「言ったでしょ、ライと一緒だと楽しいって」と声を弾ませて応えた



「っ、」

「ライと一緒ならめんどくさい皮剥きも一生できそう」

「…やるなよ?」

「ははっ流石にそれは言い過ぎたけど。でも本当に何してても楽しいんだよ」

「……おまえ、俺がナイフ持ってる時にそうやってトチ狂った事言うなよ?」

「え、なんで?」

「………なんでもねぇ」


目元を僅かに染めたライはフイッとミーシャから視線を逸らすが髪を短くしたことでよく見えるようになった耳も僅かに赤く染まっていた

ミーシャは首を傾げながらも作業を再開させることにし「そう?じゃあこれはね…」と説明も再開する

そんなミーシャに逸らしていた視線を横目だけで戻したライはミーシャの手元を見て金の瞳を僅かに見開いた


「お、おい。ソレおまえ指切れんじゃねぇか」

「えー、大丈夫だよ」


どこか慌てた様子のライの声にミーシャはクスクス笑いながら手元の野菜を滑らかに剥いていく

その様子を初めは慌てた様子で見ていたライも静かに見物するようになりポツリと「器用だな」と呟いた



「ふふっ、そんなことないよ。小さい頃に沢山練習したの」

「あ?そうなのか」

「うん、小さかったからまだ上手に持てないのもあってね、いっぱい指切ったんだよ」

「あー、だからか…」

「ん?」

「…いや、」


丁度剥き終わる頃にライがポツリと溢した言葉の意味を問うためミーシャが首を傾げて見上げたのだがライは視線を逸らすと「なんでもねぇ」と言いミーシャが今剥き終わった根菜と同じ種類のものを手に取った


そしてミーシャがやっていたのと同じようにナイフを持ち始めると「ただ、」と目線を手元に落として言葉を続けた



「おまえ、今でさえちいせぇ手してんのによくガキの頃にこんなんできたなと思っただけだ」

「………」

「ぁあ⁉︎くそ、剥けねぇぞ?」

「………」



ライはミーシャのようにナイフを動かすのだが力が入りすぎてサックリ身の部分まで刃を入れてしまう

眉間に皺を寄せ四苦八苦しているライの横でミーシャは顔を真っ赤にして自分の手を見つめていたのだがやはり無自覚大魔神はそのことに気付かずひたすら根菜と格闘していたのだった



「くそっ、やっぱ皮のままでいいじゃねぇか⁉︎」

「………」











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