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「お、やっと来たか」
「なに!?………は?」
「付き合わせて悪いな、ライ」
「あぁ」
廊下に出ればすぐにカーターがライ達に気付き声をかけてくる
娘の行動が手に取るように分かっていたカーターだったがここにライが顔を出しに来たことは少し意外だった
またミーシャが駄々を捏ねたのだろうと思うもソレをなんだかんだ許しているライに笑いがこみ上げる
親としては娘に付き合ってくれるのは嬉しくもあり申し訳なくもあったカーターはライの背後にピッタリとくっついているその駄々っ子に視線を向けてしょうがない奴だと内心で苦笑をこぼしていた
そんな娘に甘いカーターにライは肩を竦めて返すがライの背後にくっついている甘えっ子は全くと言っていいほど顔を見せない
長身のライの背中にひっつき隠れるように身体を縮こませてしまえば駄々っ子で甘えっ子の姿は正面からは全く見えずただ髪に付けている鈴だけが歩く度にリンッと軽やかな音をたてミーシャの存在を主張していた
客人とカーターの近くでライが足を止めればミーシャは今だとばかりに掴んでいた手を離しライのお腹に手をまわす
こうして大好きな人に接触してなければ鳥肌からは免れない仕方のないことなのだ苦渋の選択である、全く苦くも渋くもなく寧ろ幸福でしかないが
そんな突然のミーシャの行動にライは身体をビクッと上下に揺らすと仄かに赤い顔を顰め背後の奇襲者を睨んだ
「お「誰だおまえ!!!????」
ライが奇襲者に抗議を唱えようとすればその声を掻き消すほどの大音声が家中に響く
耳が痛くなるような声量に更に顔を顰めたライがその顔を正面へと向ければ今まで固まっていた客人が顔色を悪くさせ驚愕の表情でライを指差していた
「うるせぇ」
「なっ!?!?いや!だからっ!おまえ誰だよ!!!???」
「ぁあ?てめぇこそ誰だ」
「あ!それもそうだな!!俺はテッドだ!!!土木業者だ!!!で、おまえは誰だ!!!????」
「従業員だ。おら、離せ」
本当に声の大きい人だとミーシャが顔を顰めながらライの胴体にまわしている腕を強めれば青髪と話していたはずのライにその腕を掴まれ離せと言われてしまう
そんな殺生な!とミーシャが額をライの背中に付けたままイヤイヤと横に何度も首を振れば盛大な溜息が落とされた
本来ならミーシャの客人らしい青髪に対して礼儀を尽くした対応を取らなければいけないのだが先に早朝訪問という名の迷惑行為にでた人には不躾で構わないだろう
そう思って青髪の前だとしてもライを盾にしあわよくばと己の欲求を満たしていたミーシャだったがそのライの溜息でやっと彼からしたら迷惑だったのではと不安になる
くっつけていた額を離し代わりに顎をつけ小さな声で「ライ、怒ってる……?」と聞けば「ぁあ?ンなことで怒るか」と呆れた声と共にまわしていた手の甲を軽く抓られた
やはり聖人
聖と魔はライを通すことで初めて成り立つのか尊すぎる好き大好きこんなに好きにさせるなんてどうしてくれるのだこの大魔神め
ミーシャが通常通りに悶えていればまたもや正面から家中どころか近隣家まで響きそうなほどの大声量が発せられた
「従業員ンンンン!?!?!?!?まさか!!
っておい!!!!!!そのしがみついてるのミーシャか!!!????何でおまえに!!!!!????」
「知るか。ひっついて離れねぇんだよ」
「なにぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!!????
なんって羨ましい!!!!!ああ!!!!まさか!昨日のデートの相手っておまえか!!!!????」
「るせぇつってんだろ。声がデケェ、近所迷惑だ」
「テッドいい加減にしろ。まだ朝だつったろ」
あまりの大声量にミーシャの頭もガンガンしてきたところでくっついている背中から鼓膜を蕩けさせる美声とそれに伴う微かな振動が身体を痺れさせた
例えそれが今まで聞いたことがないほどの不機嫌極まりないド低音声だとしてもミーシャには天上で奏でられた音楽のように心地良い
客人には早くお帰りいただきたいが今この瞬間が幸せ過ぎるミーシャはもう少しこのままでもとライが聞けば完全に“トチ狂ってる”と言われるだろう思考に沈みウットリしていた
そんな仕様のない一応当事者のミーシャを放ってデカイ男達は応酬を繰り広げる
「でもおっちゃん!!!!!!」
「声落とせつったろ。追い出すぞ」
「うっ、………悪かったよ。けど!こんな奴雇うなんて何考えてんだよ!」
「ライは良い奴だぞ、俺に似て男前だしな」
「なん!?おっちゃんは好きだが男前ではねぇぞ!!!」
「おまえは見る目がねぇなぁ」
「そりゃあコッチの台詞だ!こんな男をミーシャの側に置くなんて!!」
青髪がやっと声量を落としたことでカーターも普段通りに言葉を返し始めたが青髪は頬を痙攣らせて言外にカーターもライも【不細工】だと言い放つ
その言葉にカーターはぶわっはっはっはっ!と笑いライも平然としていたがソレを許せない人物が一人いた
青髪とカーターをどうでも良さそうに眺めていたライは胴にまわされた腕に力が込められたことでまたもや身体を僅かに上下させる
目元を赤くし眉を顰め後ろを振り向けば次の瞬間には覚えのある圧に似たものを背中に感じ僅かに瞳を瞠った
「……ミィ?」
「そもそもライを連れて来たのがミーシャだ。心配しなくてもミーシャも同意の下だ」
「な!!??本当か!?ミーシャ!!なんで、」
「何か不都合がおありでしたか」
ピシャリと
まるで冷や水を浴びせたかのようにその場が静まる
ミーシャはライにまわしている腕は解かず少し身体をずらすことで青髪の客人に姿を見せた
普段よりも瞳を吊り上げその薄緑色の瞳には怒りの炎が静かに燃えている
普段は透き通ってる声を地を這うような低音で濁らせミーシャは更に問いを重ねた
「私が、ライを選んだことで、貴方に何か不都合がおありでしたか?」
「っ、」
「そもそも本日の御用件は何でしょうか。御用がなければお引き取りください。こちらもやる事がありますので。何せ未だ早い時間ですし」
「ミーシャ」
怒りのままに言葉を連ねたミーシャの頭に父であるカーターの手が乗せられる
ミーシャは顔をあげ不満を表情で訴えるが静かに父に見下ろされ多少頭が冷えた
口を尖らせ顔を下げると再度ライの身体に顔を埋める
そして一つ呼吸をすれば今度は手の甲を包まれた
見なくてもわかる、父じゃない
ここ数日ずっと繋いでいた手だ
ミーシャがこみ上げてくるものをグッと堪えて恐る恐る顔をあげれば柳眉を下げた優しい金の瞳と目が合う
薄い唇を片方上げているライは「おまえ、ンな声も出せるのか」といつものように笑っていた




