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「オハザッス!!!ミーシャいるか!!??」

「テッドよぉ、朝から元気だなおまえは」

「当たり前だろう!で、ミーシャは?!」

「まずは声落とせ、朝の声量じゃねぇぞ」

「そうか!?悪い!!!」

「…だからな、」



紺青色の刈り上げ頭に筋骨隆々な身体はカーターの背中越しから見たとしてもはみ出て見える


朝から家の中に響き渡るような大音声を玄関から発する招かれざる客人を相手に一家の大黒柱であるカーターは額に手を当て呆れを全く隠さない溜息を吐いていた




その傍迷惑な音声に朝食後の皿洗いをしていたライは眉を顰め隣りで洗い終わった皿を拭いていたミーシャはあからさまに身体を上下させたあとゲンナリとした態度を全身で表した


「チッ、るせぇな」

「本当に」

「昨日言ってた奴だろ、マトモかと思えばそうでもねぇじゃねーか。おまえも誑かすんなら男選べよ」

「あんな人誑かした覚えないし誑かしたいのはライだけです」

「………チッ」



聞きたくない大音声に思わず刺々しく正直な気持ちを伝えてしまったミーシャに対してライは舌打ちで返すが短くなった髪からよく見える耳は赤く染まっている

それだけでミーシャの刺々しい感情はスルッと簡単に抜けてしまう


手を動かしながら苦虫を噛み潰したような顔をしていても麗しい大好きな人の横顔を見上げて緩んだ感情のままに言葉を紡いだ



「大好き」

「……るせぇよ」

「ふふっ」

「ミーシャ、ちといーか?」

「げぇー」


この変わり身の速さである


玄関から呼んでいるであろうカーターの声にミーシャは鼻に皺を寄せて嫌悪をありありと示したが玄関からはその表情は見えない、見えなくても愛娘の分かりやすい反応を簡単に想像できるカーターは苦笑を浮かべてはいたが



「呼ばれてんぞ」

「行きたくない」

「したら中まで入ってきそうだな」

「げぇーーーーー」

「また奥さんに言われんぞ」



年頃の娘とは思えない声音と表情をするミーシャにライは喉の奥で笑う

好きな人の前でする表情や言葉遣いではないことは百も承知なミーシャだがそれだけ嫌なのだ

そしてそんなミーシャを前にしてもライが変わらずむしろ楽しそうに笑ってくれるとミーシャもつい甘えてしまい隠すことも忘れてしまう



「扉から顔出すだけでもいいかな」

「やってみろよ」

「ライ、手繋いでてくれる?」

「はぁ?なんで俺が」

「お願い!!!」

「ミーシャー?!」

「ほら!!」

「チッ!ちったぁ待てねぇのか」

「本当にね!」



ミーシャの懇願に顔を顰めていたライだったが玄関先から催促する喧しい声音に悪態をついたためミーシャは全力で賛同する、全くの同感である


ライは洗い物を途中で止めると泡だらけの手を水で流し着ている新調したばかりの服で拭くと片手をミーシャに差し出しながら「とっとと終わらせろよ」と許可を出した



出会った頃では考えられないライの態度にミーシャは玄関先の憂鬱など忘れて差し出された手に飛び付き喜色満面の笑みで頷いた








ダイニングの扉を開けて顔だけ出したミーシャが玄関先を見つめながら「なーにー」と父に声をかければカーターではなく紺青色の短髪大男がバッとミーシャのほうを向く


ガタイの良いカーターよりも更にデカい青髪はミーシャを含まない世間一般で言われる端正な顔を輝かせて両手を上げ大きく左右に振った



「おはよう!!ミーシャ!!!!!」

「おはようございます」

「なんでそんなとこにいるんだ!こっちに来てくれよ!!!」

「ちょっと大きい声が怖いのでここまでが精一杯なんです」

「なにぃ!?それは悪かった!!!」



謝罪をしながらも変わらない声量にミーシャが眉を顰めれば青髪はハッとした表情をすると一つ咳払いをした



「あ、いや。悪かった、これならいいか?」

「ちょっと上げた両手が怖いので無理です」

「あぁ!すまない!!!あ、いやいや。悪かった。こ、これでどうだ?」


ミーシャが他人行儀に言葉を返す度に紺青髪の青年は自分の言動を一つ一つ反省して改めた、なんとも健気である


そこまで殊勝な態度を取られてしまえばミーシャも強く出れない

悪気がないことも分かっているしただのお客様としてなら好青年に入る青年なのだ、ただミーシャに懸想してると訴える瞳が苦手なだけで…あと声量


ミーシャが眉を下げて困っていれば父であるカーターからも「ミーシャ、ちゃんとこっち来て挨拶しろ」と手招きされてしまう


眉を下げながらも承諾をしたミーシャは二人に少しだけ待っててほしいと告げると一度部屋に顔を戻して繋いだ手の先の人物を見上げる

掴まれているほうの手を垂らし部屋の中で扉横の壁に寄りかかっていたライはそんなミーシャの視線に横目だけで返した



「ツラ出すだけじゃダメだったな」

「ライも一緒に行ってくれる?」

「はぁぁ?だから、なんで俺が」

「守るって言ってくれた」

「さすがに家の前で襲わねぇだろ」

「今回は精神の護衛だよ、ライ」

「ンだそりゃ」



真剣に言い募るミーシャにライは顔を向き直り眉を顰めた怪訝顔で返す

その見下ろしてくる金の瞳にミーシャはバツが悪そうに視線を逸らしてボソボソと言葉を並べた



「あの青髪の人、良い人ではあるの。気さくだし素直だしちょっと正直すぎるだけでお客さんとしてなら歓迎すべき人なの」

「………で?」

「ただ………目が………」

「目?」


僅かに低くなった美声にミーシャもモゴモゴとまごついているのが申し訳なくなる


好意を寄せてくれる人に対しての自分の態度が酷いことは分かっているのだ今更そこを隠してもしょうがないと逸らしていた薄緑色の瞳をしっかり金眼に合わせてハッキリと傍に居て欲しい理由を伝えることにした



「あの人の私を見る(感情)が苦手で」

「どんな目だよ」

「……見ると鳥肌が立つの」

「だからどんなんだよ」



意を決したミーシャだったがやはり言葉にすると随分酷いなと自覚してしまい段々と言葉も萎んでいってしまい「だから鳥肌防止のためにライにくっついていたい」と最後まで言えなくなってしまった


そんなミーシャにライは益々眉間に力を入れるが今も変わらず喧しく騒いでいる声の主がいる方を一瞥すると溜息を一つ吐いて身体を起こした



「…ったくめんどくせぇ」

「うぅぅ、ごめん…」

「おまえのことじゃねーよ。おら、行くぞ」

「え!?いいの?」

「とっとと済ませんぞ。まだ皿洗い終わってねーんだ」

「うん!」



そう言って扉から出ていくライの手は未だミーシャに掴まれたまま

ライは握っているわけではないのだがその腕はミーシャが掴みやすいように僅かに後ろに向いている


そんな些細な行動に気付けばミーシャは顔を全力で緩ませてしまう


普段なら憂鬱になる足取りを弾ませて大好きな人の背中を追った









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