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心臓が痛い
胸が苦しい
身体が熱い
涙が溢れる
哀しいわけじゃないのに
次から次へと涙が、喜びが、
歓喜が、全身を駆け巡る
『ンなことで、今更てめぇを嫌いになれっか!!!』
大好きな声が頭の中で何度も何度も繰り返される
『生憎俺は女自体好きじゃねぇな』
そう、言っていたのに
距離が近くなっていることはわかっていた
受け入れ始めてくれていることもわかっていた
『一緒にいたい』と言ってくれた
『守ってやる』と言ってくれた
【好き】を知らなくても嫌われてはいないだろうとも、
わかっていた
わかっていた、のに
ライの言葉で言われたことが
こんなにも嬉しい
あぁ、好きだ 大好き
鋭い目つきで睨むところも
金の瞳を愉しげに細めるところも
低く通る声で凄むところも
楽しそうに声をあげるところも
その口の悪さも
揶揄い混じりの言葉も
守ると言ってくれたことも
本当に守ろうとしてくれているところも
誠実であろうとするところも
挙げればキリがない
ライのことを一つ知る度に、また好きになる
沢山恋愛したいと思っていた
恋愛できるのならいろんな恋をと思ってきた
でも、もういらない
ライだけでいい
ライとしかしたくない
ライにしか、もう、好きだと思えない
これが、
一生に一度の恋でも、構わない
「……行かなきゃ」
あまり遅いと親もライも不審がるだろう
浴場の水を使って顔を洗い涙を流す
跳ねる鼓動を押さえ早足に居間へと向かう
扉を開ければ親に何をしていたのかと聞かれライに悶えていたと答えれば可笑しそうに笑われる
ライはそんな会話を頬を染めながら顔を背けて聞いている
ドキッ、と
また、鼓動が跳ねる
ドキドキと息が苦しくなるほど早い鼓動を悟られないように
座っているライの背後にまわった
「拭くね?」
「……あぁ」
ポツリとこぼされる相槌に
ほら、また好きになった
と、
笑みを浮かべて、大好きな人の髪に触れた